2016年06月14日

幹と枝葉

てんぐ探偵の新表紙をかくために、
久しぶりに本気出してカラー絵を描いて、
色々と思い出した。

またも幹と枝葉の話。


そういえば絵というのは、
太い筆で全体の色構成を先にして、
全体を見ながら大まかに色を乗せて、
中筆で形をラフにとってゆき、
そこから細い筆でディテールを書き込み、
最後に面相でエッジを立てていくのであった。

忘れていたよ。

たとえば炎を描くのに苦労して、
つい先っちょの舌の部分の細かい所を描いては、
引いて見たらバランスが崩れてて、
消しゴムで全消し、なんてのを繰り返してしまう。
(妖怪アンドゥで無限地獄だ)
引いて見たときの、全体のバランスが先であり、
それをクリアして、はじめて部分を描かないと、
全体が崩れてしまって、
最初からやり直し。

全てのものづくりは、そうなのだという基本を忘れていたよ。


アイデアというのは、全体の構成から先に出てくるわけではない。
むしろ部分から出てくるものだ。
目先の何か凄いディテールから出てきて、
それが全体を作りたくなる執念になることも、ままあるよね。
それは根幹になる思いつきから、
ほんの小さなディテールまで、部分的に沢山あるものである。
(今回の絵でいえば、闇に浮かぶように描きたいというのが根幹。
そのためににじみで背景を作って重ね塗りしていったこと。
逆に、オレンジの反射光を描きたかったこと。
心の闇たちを、半分透明のゴーストバスターズ風味に描いて見たかったこと。
あと火の粉は描くのではなくリアル火の粉との合成をやってみたかったこと。
あと光のフレアを入れてみたかったこと。
これらはこれまでのモノクロでは全部出来なかったことなので)


絵を描くという単純な行為ですらそうなのだから、
ストーリーという複雑なものを作るのも、
実は同じである。

全体から書いて、部分に至るべきなのである。

どういうことだろうか。
僕は「最初から順に書くのはナンセンス」と言ってみよう。


アイデア出しや、思いついた瞬間は、
アットランダムで構わない。
枝葉の部分的アイデアは沢山出せるだろう。
セリフや、伏線や、どんでんや、サブプロットや、
キャラの性格や、バックストーリーや、エンドネタや、
場所に関するアイデアや、画面構成に関することなど、
沢山沢山出しておくとよい。

勿論、幹に関するアイデアも出しておくとよい。
三幕構成(複数パターン出してもいい)、
大ターニングポイント、事件と解決、センタークエスチョン、
トップシーンとラストシーンの係り結び、
全体を貫くモチーフ、
結局何を言わんとしてるのかのテーマ性、
他の作品群と違うところ、似たところ、歴史的位置、
などについてだ。


で、なんとなく枝葉も幹も見えてきたら、
絵と同じように、
全体から書き出すのである。

つまり、
ログライン、構成、プロットを、だ。


あの絵もそうなのだが、
いきなりフォトショを開いて、ブラシを持って、
何を描こうか考えながら描いている訳ではない。
ラフで何を描くかを考え、
構図で5種類ぐらいラフを描き、
部分的にデッサンし直し、
下書きをし、
構図を決めたらラフで配色を決め、
線画の清書をし、
そこからようやくフォトショで色塗り、
太筆→中筆→細筆→面相→光の合成→文字レイアウト、
という順番で仕上げている。
フォトショは最後の出番であり、
何をするか決まっているから、実行できるのだ。


脚本も同じである。

何をするか決まっていないのに、原稿を書いてはいけない。
それは幹のない枝葉に等しい。
書いて書けないことはないけど、
全体に必要な枝葉である確率は、低いだろうね。

アドリブで書いてもほとんど採用できない理由がこれだ。
「佐々木くんが銃弾止めた」でも論じたが、
短編ならアドリブで構成ごとやれてしまうことが多いよね。


さて、
プロットからいきなり枝葉を書く?
僕はブレイクシュナイダーのボードを参考にしている。
(「Save the cat」参照)

実際のところ、思ったほど全体のバランスは、
作れていないことが多いものだ。
つまり、穴がある。
その穴の発見にボードはとてもいい。

思いついた枝葉は特定の部分のことばかりで、
全体で必要なものをまだ思いついてないことに、
ボードは気づかせてくれるのである。
(短編なら必要ない。二時間ぐらいの尺を俯瞰するときに、
ボードは有効)

また、特定の場面を先に書いてしまうことも、
僕はオススメしている。
部分デッサンとかクロッキーみたいなことだ。
注意すべきは、本チャンを書くときに、
そのデッサンは見てはいけないということ。
ただ写すだけになってしまい、全体とのバランスを取れなくなる。

デッサンをする理由は、
「自分の中に対象の理解を入れること」であることを知っておくこと。
たとえば、あるキャラクターを書くのに、
そのセリフを色んな場面で書いてみるのはとてもいいデッサンだ。
しかしそのデッサンを、本編にコピペはしないこと。
デッサンはあくまで理解するためにしかない。
(そして、きちんと理解出来ていたら、
本編のその部分は、練習したデッサンのコピペより確実に良くなるから、
安心したまえ)


ボードは全体を俯瞰するには良いのだが、
人物の行動の理由や軌跡を考えるのには向いていない。
なので最近はストーリーライン図を書くことが多いね。
(脚本スペシャル2016の構造の図にその例を示した)

で、そこまでが太筆、中筆あたりかな。

実際の原稿書きは、細筆と面相ぐらいの感覚だ。
セリフやビビッドな気持ちや場面選択や、
グルーヴや細かい係り結びなどの、
ディテール合戦になる。

ここで太筆と中筆の仕事が出来てないと、
明後日の方向に細筆が動いてしまい、
微視的にはおかしくないのだが、
巨視的にはおかしなことになっている原稿を書いてしまうことがある。
大抵そこはリライトの対象になるものである。

細筆の段階では、なかなか全体を見ることができない。
時に下がって絵の全体を眺めるように、
一日に何回も、ボードやストーリーライン図、
ログラインやプロットなどを眺めることはよくあるね。



アイデア出しは、ランダムにやればいい。
しかし最終作業は、
大から始めて小に至ることが肝心だ。

そうじゃないと、全体としての纏まりは作れないものだ。
部分的にはいいが、全体としてよれたり狂っているものになる。

多くのアマチュアは、一文字目からいきなり書き始め、
アドリブで話を作っていって、ラストまで書く、
と、文章書きを誤解している。

そんなやり方で、構成力ある文章が書けるわけないやん。
出来上がるのは、全体としては歪だが、
部分的には勢いのあるものでしかない。

プロフェッショナルの仕事とは、
全体として完璧な構成でありながら、
部分でも物凄い勢いがあるものをいう。


そういうものは、
細筆で一文字目から書き始めるやり方では決して出来上がらない。

アイデア出しをランダムにして、
全体を俯瞰したのちに、
作業行程として、
幹をつくり、枝葉をつくるやり方でなければ、
出来ないのである。

ある種、工場のような考え方だ。
ものづくり、手でつくるものなのだから、
共通の工程があるのは当たり前といえば当たり前だ。


僕は、執筆の前に殆ど出来ていると考えている。
文章を書くのは、既に出来上がった構造物に、
面白げなガワを被せる行為でしかないと考えている。


(さて、最近、その工程を分かっていない人が増えているように思う。
幹と枝葉を分かっていない人のせいで、ものづくりは壊滅の危機にいるような。
それはまた別の問題なので、あなたは一人で全工程を出来るようになっておこう)
もし希望があれば、あの絵のラフとか下絵とか途中行程で残ってるものをアップします。
posted by おおおかとしひこ at 11:01| Comment(2) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
大岡先生は絵もプロレベルの腕前なんですね。
てんぐ探偵の世界観があの一枚に凝縮されていて、圧倒されました。
格好良いです!

創作物において大事なのは中身だと学んできましたが、ガワの魅力もやはり強力だな、と実感しました。

途中工程もぜひ見たいです。

Posted by 佐藤 at 2016年06月15日 18:44
佐藤様コメントありがとうございます。

昔漫画家になりたかったのですが、ストーリーが苦手で、
ストーリーばっか研究してたらこうりました。
逆に、「絵なんていつでもかけるわ」というスタンスなのかも知れないです。

特に映画は、美術、衣装、音楽、カメラマン、ライトマンなどが絵を代わりに作ってくれるので、
脚本では中身だけ気を使ってればいいわけなのですよ。
(絵だけは頑張ってる映画を見ると、
自分じゃないのにスタッフに申し訳なくなってしまう…)

逆に、中身の充実してる脚本さえあれば、
鳥山明に絵だけ頼むことも、カメラマンに蜷川実花を呼ぶ事も、監督にスピルバーグを呼んでくる事も、
プロの世界ではあり得る訳です。
ガワをつくれる人は沢山います。
脚本家よりイラストレーターやカメラマンの方が多いでしょうね。
それだけ「ストーリー単体」ってのは、難しいものだと思います。
字だけだから、コストが舐められるんだよなあ。
(話をするキャバ嬢は、歩合と時間単価があるのにねえ)


ということで時間を見つけて、レイヤーやら段階やらを分解して見せれるようにしておきます。少々お待ちを。
Posted by おおおかとしひこ at 2016年06月15日 19:10
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