2016年06月17日

幹と枝葉2(幹編)

リクエストにお応えして、てんぐ探偵のイラストの出来るまでを眺めながら、
幹と枝葉について語りましょう。


まず下書きをします。

その前にコンセプトを考えるわけです。


てんぐ探偵のテーマはなんだろう。
「闇にかざすのは、炎だ。」「心の闇を浄火せよ。」
なんてキャッチコピーを昔書きました。

つまり、闇と炎をモチーフにした、
人の心の暗部と、人の心の明るい部分(最終回で示されたように、
それは人の理性や知恵や勇気を、炎で象徴)の相克です。
闇と炎は、それぞれの象徴なわけです。

炎で闇を切り裂く。
火の剣で妖怪「心の闇」を切り裂く。
てんぐ探偵が、火の剣で、
妖怪「心の闇」たち(それは単体ではなく、複数いること。
人の心の暗部は沢山あり、それぞれが各話の妖怪として、
一話完結であることを示す)を切り裂く。

そういうイメージが湧いてきます。


今回は、作品のテーマが既に確定しているので迷いませんでした。

ここでテーマが明確でないと、絵の芯がぶれます。


ところでてんぐ探偵は、
天狗面を被ってるほうがいいか、シンイチの顔が見えてた方がいいか。

悩んだ末、ちょっと仮面をずらして顔をのぞかせている、
という意味ありげなやつを選択しました。

仮面を被ったヒーローではただの天狗仮面だし、
シンイチ単品では「てんぐ探偵」というキャッチーさが生かせない。
ということで、いいとこどりを狙っています。


正面性ということを考えると、
シンイチが正面を向き、こちらに切るのがいいでしょう。

意味が固まった所で、下書きをしてみることに。
最初に描いたのがこれ。
したがき1.jpg


天狗面に炎のオレンジが反射してる感じは、既にこの頃からあります。

描いてる途中に、ねじる力やつらぬく力、
葉団扇や千里眼、一本高下駄などの、「天狗の力」を入れたほうがいいかも、
と思いはじめ書き込んでみる。
しかし、どうにもごちゃごちゃして、中心が分からなくなったので、
闇、シンイチ、炎、天狗面、心の闇(おまけでネムカケ)と、
モチーフを絞ることにしました。

「闇に浮かぶ炎」というイメージを強調するために、
引いてみることを考える。
で、次に描いたのがこれ。
したがき2.jpg


テーマは象徴的になるけど、感情移入は遠ざかる。
じゃあ思い切って寄ってみようと、シンイチを中心にすることに。
それがこれ。
したがき3もと.jpg

シンイチが中心になるし、これで行こう、と塩梅を決める。
ところで、
天狗面を持つ手がうまく書けなかったので、
部分的にデッサンをしてみる。ネムカケの他のポーズがありうるかも試してみる。
したがき4部分デッサン.jpg

左下の感じがうまく描けたので、これを元に合成したろ、と思うわけです。

あるいは、「宿主の闇を切る」を強調するとしたら、
妖怪ごしにシンイチ、という構図もあり得る。
で、色々描いてみる。

したがき5.jpg

したがき6.jpg

したがき7.jpg


ヨリが良さそうなんだけど、
妖怪「心の闇」が単なるモンスターに見えては駄目で、
「人に取り憑く」感じがあったほうがいい。
妖怪ごしほど強調するのは「シンイチを中心に据える」という意味とぶつかる。

ということで、
「周囲に悩む人のシルエットに取り憑く妖怪」という点景を足すことに。
したがき8.jpg


シンイチの描き直したものを、Photoshop上で合成します。
天狗面は前の感じが良かったので、なんとなくハーフで透かして、
思いが分かるようにしています。
0したがき.jpg


これをラフ完成としました。


ちなみにラフに使っているのは、いつもの青いボールペンです。
消しゴムがないので、一気に迷わず書けるので、
「消すより書くこと」に意をおけるやり方です。

形を整える(枝葉を整える)のはあとでやることであり、
まずは根幹を作り上げることを優先しています。
部分的デッサンは今回のシンイチのように部分で書き直したり、
どうせこのあと清書する、という前提でのラフだったりします。

細かいバランスよりも、「全体の意味」を決めるのです。

モチーフの取捨選択、構図や配置、それが表す意味、などを決めることが、
ラフの役割です。
脚本で言えば、ログラインやプロットや構成に当たるかも知れない。


で、このラフ状態で、仮に配色をしてみます。
以下、Photoshop上で作業します。

まず背景にラフに闇を描きます。
(白い背景に、群青色っぽいのと、黒っぽいのと、緑っぽいのを3レイヤーで描いて、
透明度調整して一枚にしています。まずは闇の「色の傾向」をつかむ為です。
真っ黒じゃつまらないので、青や緑の闇をイメージしてみた。
炎の赤やオレンジの補色になる想定)
1背景のみ.jpg

一番上のレイヤーに下書きを白黒反転して乗算でのっけ、
2背景にラフ.jpg

中間のレイヤーにブラシでざっと色を塗ります。
3大ラフ完成.jpg

大体の色を決める配色設計なので、塗りはヘボです。

妖怪の色はそれぞれ何色がいいか、
シンイチの服や髪の色はなにがいいか、
色々試した結果、こういうイメージに。
元々心の闇は鮮やかなサイケデリックという設定ですが、
中心より目立ってはいけないと思い、
彩度を押さえ気味にしています。
こうして、元々の設計を、色に反映させる訳です。
オレンジの炎の反射なども既に試し済み。

ちなみに今回ロゴを新しくしようと思って、
ラフを書いてjpegにして、
3新ロゴ.jpg

イラレ上にペーストして、ベジェ曲線でクリンナップ。

作者名、新コピーの配置なども決め、大ラフ完成。
もとの下書きには「心の闇に炎をかざせ。」と書いてみましたが、
「炎をかざす」より、もっと強い言葉が目立つと思い、
「斬れ! 心の闇を。」という倒置で強い言葉を目立たせます。


さて、ラフの下書きを、「主線」としてクリンナップします。

最終仕上げはA5(ラフ原画の大きさ)だと小さいので、
文庫本想定でB5に拡大コピー。
その上に白紙を重ね(ライトボックスがあればいいんですが、
持ってないのでうっすらある線を見ながら)、
B6鉛筆で主線を引きます。
それがこれ。
4クリンナップ.jpg

漫画家志望だったので、この程度は15分もあれば描けるわけですわ。
ちなみに炎は筆塗りだけで行こうと思ってるので、
境界線をわざと描いてないです。


さて、ラフの時の闇のファイルをB5に拡大、
Photoshop上でレイヤーを積んで行きます。

レイヤーの順は、最終的にこんなグループわけです。
1タイトル関係
2フレア
3火の粉
4主線
5炎
6シンイチと天狗面
7ネムカケ
8妖怪たち
9背景の闇
レイヤーグループわけをしてますが、最終的に120レイヤーぐらい重なってます。

心の闇は主線を白に反転、お化けっぽくして、
シンイチ、ネムカケなどは主線を黒に。
闇のレイヤーの上に、乗算、スクリーンで乗っけて、
間に100レイヤー以上挟んで行くことにします。
5背景に線画.jpg


これがこの絵における幹で、あとは枝葉なのです。

ラフ完成、闇と主線、最終上がりを並べておきます。
0したがき.jpg
5背景に線画.jpg
36完成.jpg



つづく。
posted by おおおかとしひこ at 14:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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