2016年06月21日

伏線、設定、性格に関する誤った先入観

ネットをさまよって色々な人の感想を見ていると、
読み手のみで書き手ではない人が沢山評論している。
それはよいことなのだけど、
特に、伏線、設定、性格の三つの言葉について、
誤った先入観があるように思われる。

この先入観を持って書き手になっても、
ひとつもいいことはない。

ということで、概念の使い方、
間違ってないかチェックしてみよう。


伏線。

「まだ序盤だから伏線を張っている段階(だから我慢して続けて読む)」
は、誤った先入観。

伏線は、伏線の役割単独で存在してはならない。
もし「伏線を張るという行為」の間、
ストーリー進行が停止しているなら、
それは面白くない物語である。

先に埋め込んでおいたAを、Aで使うことは伏線とは言わない。
ただの前ふりである。

上手な伏線とは、
あるストーリー部分Aが、
実は全く違うBとして使われること。

つまり、伏線はAとしてミスリードしておかなければならない。
そしてそのミスリードAは、
前後の進行にとって普通に必要不可欠な、
普通の面白い物語の一部であるべきである。

つまり、
「ここちょっと分かりにくいけど、
あとあと使うつもりですので、しばらく我慢してて下さい」は、伏線ではない。

そこは「夢中になれるストーリーが進行していない、
退屈パート」として非難されるべきだ。

もっとも、上手な伏線は滅多にないので、
殆どが下手な伏線になる。
だから、「下手だけど伏線張ってるんだから、
我慢しててやろうか」という態度が正しい。

また、書き手としての経験上、
そのパートの、ほとんどひとつぐらいしかあとで使わない。
だから、リライト時には、そこをゴッソリ切ることが自然である。

世界設定をするあたりに、そういう箇所が散見される。
「映画ではあとで使わないものは出てこない」という、
基本原則を知っておくこと。

もっとも、
長期連載想定の漫画ではあとで何を使うか分からないので、
序盤にそういうのを前ふっておきたい気持ちは、
分からなくもない。
しかし、今進行している話に必要なだけの情報しか与えず、
次が見えないけどちょっと見える、に情報をコントロールしたほうが、
確実に面白いのである。
そういう風に情報をコントロール出来る実力のない人が、
自分の世界設定のために色々描写してしまい、
結局あとで使わないことがほとんどなのだ。
あれは伏線ではなかったのか、と思うガッカリが、
長期連載漫画には沢山あるはずだ。

それは、脚本的には不要でカットするべき部分であることを、
覚えておくといい。

従って、
「今回のAには、大分前にあったAが伏線だった!」
という言い方は間違いである。
再利用したとか、前ふりを使った、とかの考え方に改めるべきである。

AをまさかBで使うとは、なるほど、
が正しい伏線とその解消の仕方である。
どんでん返しと似ている。
そのことによって、「全ての前提が逆転する」のがどんでん返しだが、
AがBになるぐらいはどんでん返しではない。
小どんでん、ぐらいならそう呼んでもいい。


結論。
「ちょっと伏線を張ってるので、我慢して待ってください」は、
書き手としてナンセンス。
常に夢中にさせること。
全ての伏線は、強烈な記憶で残したものを、
別の文脈で再利用するのだから、
常に強烈な話を書きつつ実は仕込んであったことを、
気づかれないようにすることだ。
「葉っぱを隠すのなら森の中」ではない。
「渋谷なら、109ぐらい目立たせておいたやつを、あとで全然違うことに使う」のが、
理想の伏線だ。




設定。

「設定さえ面白ければ、話が面白くなる」は、
間違った先入観。


設定はストーリーの1/10ぐらいしか寄与しない。
その前提から何をするか(行動、台詞、展開、感情移入)が、
ストーリーの本体である。

勿論、「面白い設定」は、それだけで「面白い物語」を想像させる。
「死んだ母親を魔法で復活させようと思った兄弟は、
失敗して、兄は右手を、弟は肉体を失ってしまう。
これは、兄弟の失われたものを探す旅」は、
「鋼の錬金術師」の基本設定であるが、
ワクワクする設定である。
しかし、実際に私たちが夢中になるのは、
ホムンクルスとのバトルであり、基本設定の上にそれがあるから面白い。
すなわち、基本設定との組み合わせとして面白く楽しんでいるのだ。

またまたファイアパンチを例に出すけど、
「再生能力がある男が、死ぬまで消えない炎にまかれる。
妹を失い、復習のために生き続ける。雪の魔女が支配するこの世界で」
は、ワクワクする基本設定であるが、
その先のストーリーはちっとも面白くない。

設定はあくまでストーリーのベースである。
その土地の上にどんな建築をたてるかが、ストーリーの面白さなのである。

勿論、基本設定は大抵冒頭で示される、
観客を引き入れる大切なところである。
第一印象を決める部分でもある。
だから「面白そう」なのは当たり前といえば当たり前なのだ。
しかしストーリーというのは、1234と続けば、
1より2が、
2より3が面白くならなければならない。
つまり、ストーリーはどんどん面白くなるべきだ。

基本設定より面白いものを思いつかないと、次が書けないのである。
そういう意味で、基本設定だけ思いついて、
次が挫折して書けなくなる人は大変多い。

設定はベースであり、ストーリーは残り9/10、
と考えておかないと、最後まで書くことは出来ない。

素人評論家の、設定設定連呼に、騙されないこと。

当たり前だけど、プロの作るものは苦労が見えてはならない。
物凄い苦労してるのに、さも才能でスッと出来たように見えるのが理想だ。
だから素人評論家はそこに気づかない。
(設定思いついたら勝ち、みたいに思っている節がある)
継ぎ目のない面白さを作るのには、物凄い労力がいるし、
それは基本設定を作る労力の比較にならないものなのだ。




性格。

「このキャラは、こういう性格だからこういう行動をする」は、
間違いである。

「このキャラは、目的があるから行動する。
性格の違いによってその具体は異なるが」というのがほんとうだ。

たとえば「相手の秘密を聞き出す」のに、
「拷問する」「甘くささやく」「第三者を使う」のどれをやっても、
ストーリーは変わらない。
場面は変わる。
観客は、目の前の場面に夢中だから、
引いて見れないだけの話である。
人は性格で具体的行動を決めるから、
性格で行動しているように見えるだけだ。
目的があって行動している、というその奥が見えていないだけである。

これを誤っていると、
性格設定をすればするほど、
キャラが生き生きと動き始める、と勘違いする。
まあ、疑似人格は作れるかも知れない。
話し相手のイマジナリフレンドは作れる。
だけど、物語にたる動きをはじめるには、
その人に目的がなければならない。

目的と性格は、別のものである。

目的があれば、性格がなくとも、ストーリーにはなる。
目的がなく、性格のみなら、ストーリーではなくおしゃべりである。
目的と性格、両方揃って面白い場面になるだろう。




書いたことない人の、見るだけの人の評論は、
書く人にとって参考にならないどころか、
間違った先入観を植え付ける可能性が高い。
早く見る側を卒業し、書く側に来ることだ。

見る人は勝手だよなあ専門用語を適当に振り回して、
と思えるのなら、ようやくこっち側に来たという印である。

(僕はイマジナリラインの向こう側、というよくわかるのだか分からないのだかの、
言葉を使うときがある)
posted by おおおかとしひこ at 12:02| Comment(6) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
長期連載漫画で上手に伏線を張るのって難しいんですね・・・
これは上手く伏線を張れている!という漫画をご存知でしたら教えてください。
読んでみたいです。
Posted by gy at 2016年06月21日 17:39
gy様コメントありがとうございます。

長期連載ほどそういうのはないんじゃないでしょうかねえ。
読み切りとか短期集中ならあるかと。
古い例ですが、「のび太の大魔境」のラストは大好きですね。

映画脚本では、ラストまで書いてから、
前半の情報を整理し直してリライトする、
というのが常識ですが、
連載漫画はそういうわけにいかないでしょうね。
(コミックスで書き直す人も増えたけど)
Posted by おおおかとしひこ at 2016年06月21日 18:19
うーん・・・確かにファイアパンチという単語を入れるとアクセス数は稼げますが・・・
ファンとしてここまで落ちた大岡さんを見たくなかったです・・・
てんぐの小説のほうも一言で言うと「古くてつまらない」でした・・・(しかし読ませる力はありました!)
ですが才能がある方だというのはわかっています!
もっと頑張ってください!
Posted by ハセッチ at 2016年06月21日 19:21
ハセッチ様コメントありがとうございます。

ちなみに本文中にファイアパンチ入れても検索には引っかからない模様。
なので、分かりやすい最近のダメな例で、かつ無料で手に入る例としてあげています。
実写ガッチャマンのレンタル料も馬鹿馬鹿しいし。

さて、てんぐ探偵読んでいただいてありがとうございます。
精進いたします。二話以降もどんどん面白くなるのでご覧ください。
Posted by おおおかとしひこ at 2016年06月21日 20:47
これは納得です。すっごい腑に落ちました(ついついマーカーで線を引きたくなるくらい!

特に下手な伏線のくだり、頭にそれっぽい場面がすぐ浮かんできました…
言われてみると、全然伏せる気のない伏線ってよくあるどころかかなり浸透しちゃってますよね。よく言えばお約束になってしまって、逆に疑問に思わないというか

「てんぐ探偵」も読ませていただきました。物語の進行はもちろんですが、地の文まで退屈せずにスラスラ読めました。第二話も楽しみにしております。

参考までに
自分も同じく最近ファイアパンチから検索してきた口ですが、実は以前(1年くらい前?)にもお邪魔したことあって、すでにブクマに入っていたりしました
Posted by 須賀利 at 2016年06月22日 02:55
須賀利様コメントありがとうございます。

自分で書くときに参考になると幸いです。
特にアニメ漫画を評論する人に、こういう使い方をする人が多いようで、
一種のローカル文化ではないかと疑うほど。
下手に影響されないほうがよいかと。

たとえば伏線は、てんぐ第一話で言えば、冒頭の青嶋がフラれるシーン。
これは最初は青嶋の妖怪に憑かれる原因になるシーンですが、
妖怪を外す原動力に再利用され、
ラストの台詞に最終的に効きます。
そのために、冒頭をコントロールしているわけです。
(ついでにサブタイとの会わせ技)

今後ともご愛顧お願いします。
Posted by おおおかとしひこ at 2016年06月22日 09:58
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