地味な人間ドラマがじっくり書けるのが、
ほんのうの脚本力だと思う。
しかしそれは地味であまり人に気づかれない。
完成度とか、よく分からない指標に分類されてしまう。
そういうのを派手に見せる、見せかけの方法がいくつかある。
まず、派手な職業の人にしてしまうとよい。
平凡なサラリーマンのドラマを、
スイーツ職人の話とか、
有名俳優の話とか、
宇宙飛行士の話とか、
華族とか、
アラブの石油王の話とか、
アメリカの大統領の話とかに、
書き換えてしまうとよい。
(あとはその派手な度合いで、
目立つとか、物珍しさとかが決まる)
主人公やメイン人物の職業を派手にすると、
それだけで華やかになるというガワのテクニックだ。
これはてんぐ探偵のドラマが、
「普通の人々」を描いていることの逆である。
職業ものは、知らない仕事の話だと急に面白くなる。
たとえば「消防士もの」の元祖は「バックドラフト」であるが、
実は刑事物とシナリオの構造は殆ど同じだ。
あの名ラストだって、
事件現場に急ぐパトカーに書き換えることはすぐにでも出来るだろう。
それを、(当時)目新しい消防士に置き換えたことで、
あの映画は傑作になった。
勿論、消防士ものにしたことによる、
絵面の新しさ(炎の撮影)を獲得し、
イコンになったことも含まれる。
「踊る大捜査線」も、サラリーマンのドラマに、
刑事物のガワを被せたことで有名だ。
あるいは「ロッキー」は、
青春ドラマ(青年のアイデンティティー)に、
ボクシングのガワを被せたし、
「スターウォーズ」(Ep4)は、
同じく青年のアイデンティティーに、
スペースオペラのガワを被せた。
(だからEp4だけが、スペースオペラオモチャの文法でない、
唯一映画的なストーリーがあるのだ)
中二のアイデンティティードラマに、
ロボットアニメのガワを被せた「エヴァンゲリオン」は、
中二病らしくアイデンティティーが確定しない未完作である。
(多分きちんと完結することはないだろう。
綾波とセックスして、童貞を捨てると終わると思う)
このテクニックの利点は、
誰もに当てはまるドラマをしっかりと作れて、
なおかつ絵面に新鮮さが加わり、
見かけが派手になることである。
(初心者は、見かけの派手な世界から先に探すため、
誰もに当てはまる人間ドラマにたどり着くまでに体力が尽き、
世界観は面白いけどストーリーがいまいちになる)
今てんぐ探偵の二期(58話以降の新展開)を考えているのだが、
地味な人間ドラマを続けるスタンスなのか、
派手な職業にしていくか迷っている所である。
(刑事コロンボも、ブラックジャックも、
ゲスト主人公は派手な職業の人なんだよね)
ついでにもうひとつテクニックを。
人を殺すといい。
これはよくあるので、みんな知ってるだろう。
深刻さが増し、何か大事なことが進行しているように、
見せかけられるからである。
月9がこのテクニックを最終回間際で使い、
(主人公が急に難病にかかり、死ぬ死ぬ詐欺に)
それまでの流れを陳腐化した失敗は記憶に新しい。
見てないけど。
「トップガン」が人間ドラマになる瞬間は、
やはりグースの死であると思う。
「命を賭けること」が国防の意味だからである。
安易っちゃあ安易だが、テーマに関係してるから文句が言えないのだ。
人が死ぬときは、死ぬ瞬間よりも、
それがどのような意味があったか確定し、
その死を無駄にしないときに、最も盛り上がる。
ドラマとは、死んだ人間のものではなく、
生きている人間のものだからだ。
(そういう意味で、
力石が死んだあとのあしたのジョーや、
棟方コーチが死んだあとのエースを狙えは、
その死を乗り越えきれなかった作品である。
たとえばバキで、今オーガが死んだとしたら、
芯がなくなって空中分解するよね。
それぐらい主人公バキに魅力がない)
あとひとつ。
場所を派手にするとよい。
ニューヨークの、パリの、などは定番だね。
日本の映画が派手にならないのは、
東京ロケの困難さに尽きると思う。
80年代や90年代はそれでもロケをやっていた。
東京ラブストーリーとか。
まあそいつらが過去色々ロケ地に迷惑をかけたせいで、
東京のロケは世界一難しくなっている。
ウルヴァリンサムライのアキバロケは、結局合成とCGだったしな。
(増上寺は私有地なので許可が容易であった。
東京ロケで困難なのは、公共地である。
フランシスコッポラの渋谷スクランブルロケは、
無許可でやったので、大渋滞を引き起こして、
事件になる前にロケ隊は海外へ逃げたという。
お陰で今でもスクランブルは、プロは報道以外撮影出来ない)
だから日本の映画は、いつまで経っても派手にならない。
有名な話だが、
渋谷でカーチェイスする「ワイルドスピード3:トーキョードリフト」
は、渋谷の町をアメリカの郊外にそのまま作った。
金のあるハリウッドならではだ、というのだが、
それは渋谷ロケよりも金が安いという理由である。
ロケ撮影の必要のない漫画は、
渋谷でバトルしたり東京を上手く使える。
これが実写化するとへぼい場所ロケになってしまうけどね。
「踊る大捜査線」に戻ると、
「湾岸」というほぼ架空のステキな場所を、
作り出したことが大きいと思う。
今のお台場はほぼ廃墟なのは、歩いてみるとよくわかる。
(先日お台場でロケしたのだが、
あのお台場ステキステマは何だったんだろう、と考えさせられる)
ということで、
架空のステキな町とか、
面白い場所をロケ地に選ぶと派手になるだろう。
一時期ぽーんと流行った、山を舞台にした作品群は、
「新しいロケ地」を発見したに過ぎないと思うよ。
外国映画の魅力の1/3ぐらいは、ロケ地の面白さに依存している、
というのは言い過ぎかね。
他にも色々あると思う。
プロットを思いついたあとで、
ガワを被せられないか、検討してみるのは面白い。
そのときに初めて取材を始めることになるだろう。
2016年06月30日
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