2016年07月04日

コンフリクトに乗ってこさせること

コンフリクトは物語のエンジンだ、とよく言われる。
誰かと誰かが、立場上対立し、
お互いを抹殺したり抜きん出たり、
あるいは説得その他によって第三の解決策へたどりついたり。

それは他人事になってはいけない。
それは物語の焦点であるから、
それに観客が夢中にならなければならない。


様々なやり方で、
そのコンフリクトに夢中にさせなければならない。
そのやり方なぞ。


1. 対立は価値観の代表争い

正義と悪のコンフリクトは、昔からある話である。
敵は悪であり、許すべき価値観ではなく、
私たちは正義であり、この価値を広めるべきだ、
と思ったとき、正義の勝利に私たちは胸をすくことができる。

単純な図式に興奮するのは中学生までで、
それ以降になると、感情移入などの仕掛けも必要になってくる。

たとえば親しい友人や恋人に感情移入させておいて、
それを殺す展開だ。
それを殺した奴は悪である、正義をなさなければならない、
という主人公の動機に感情移入すれば、
悪と正義のコンフリクトは、物語の中心的焦点となる。


ヒーローものだけでなく、
戦争もの、刑事もの、法廷ものなど、
リアルな善悪を描くものも多い。
それは、正義とは何かを問うようなドラマになるだろう。
(単純な、「悪を倒す正義」ではなく、
「この人を正義は救うべきだ」という結論に至る、
素晴らしい法廷劇に「情事(邦題最悪な、ビリーワイルダー映画)」がある。
こういうの見ちゃうと、日本人の正義なんてオモチャだなあ、
と思ってしまうが)


2. 同じ目的への異なる価値観の競争

対立とせずに、競争にさせてもコンフリクトは起こる。
トーナメントとか、会社のコンペとか、三角関係とか。
同じものを争う場合でも、
違う人間が争うのだから、
差異が出てきて、
「大きくは同じ価値観のもとで、異なる価値観の争いになる」
というパターンになるだろう。

相手を互いに完全否定する、正義と悪のコンフリクトに比べ、
もう少し気持ちが複雑に出来る。
同族や身内の中であいつは許せない、
などというドロドロした気持ちを扱いやすい。
しかし決着を相手の死には出来ない分、
スカッとした決着はしづらい。
6:4で勝利で痛み分けのような、難しい決着になったり。
スポーツものが特に多いのは、決着をスカッとさせやすいからだろう。

感情移入は両者にあるだろう。
どちらの言い分も分かる、という感情移入で、
どちらの立場も楽しむことで、
コンフリクトの焦点に引き付けられるだろう。



3. 危険や締め切り

コンフリクトは、ただの対立では話が動かない。
お局OLと若手OLの対立は、ずっと続かなきゃいけなくて、
ダラダラしてしまう。
こういうときは危険や締め切りをつくる。

精神的にもう限界!まで追い込むとか、
肉体的な危険をつくる(OLだとあまりないけど、
いじめで怪我するとか?)、
あるいは、部署異動が二ヶ月後にあるので、
それまでに決着をつけなければならない、
とか。

決着をつけなければならない理由を作れば、
話は緊張感を帯びてきて、引き付けられるだろう。
危険や締め切りは、その代表だ。


4. 感情移入

感情移入している人物が巻き込まれる、コンフリクトの焦点は、
興味を持続しやすい。

ところが、ただ感情移入している人物、
というのはいなくて、
感情移入するには、そもそも、
「その人が巻き込まれている事件」に、
興味をひかれていなければならないのであった。

そもそもその人が巻き込まれていることに興味を持つには、
その人の主張がねじ曲げられたり、否定されることが大事だ。
世の中の理不尽に対して怒りを覚えたり、
彼に同情したりすることが大事である。

ということで、1や2と連動している。
主人公の価値観と、他の人の価値観が異なり、
対立していくからである。
それに、殆どの場合は3が加わり、
ストーリーというのは転がっていくのである。

感情移入は、冒頭だけで行うのではなく、
途中でも可能だ。

一息ついたころ、
主人公のいい感じのエピソードが挿入されたり、
主人公の人生観が披露されたり、
主人公の夢語りがあったりする。
秘密の共有である。
秘密を共有すると、人は好きになりやすい。
主人公が誰にも言っていないことを、
観客が知ることで、観客は主人公を好きになり、
より感情移入するだろう。

ドラマ風魔で言えば、
1話の「夜叉は片付けたから、あとはサッカー勝負」と、
意外と小次郎はちゃんと考えてるんだ、
という場面や、
2話の蘭子とのちょっとした会話の部分だ。
本音をちらりと覗かせることで、
ただのバカじゃないぞ、と、私たちは小次郎という人間に興味を持つのである。

「乱暴だと思っていた男が、
捨て猫に餌をあげていた」なんてのはギャップのテンプレだが、
つまりギャップは、
第一印象の奥にある、中身の秘密の共有なわけだ。



5. このコンフリクトを、それぞれの人物がどう思っているか

上の感情移入と関連するが、
思い入れのある人物の興味に同調するのが感情移入である。

そのコンフリクトを憎んでいたり、
そのコンフリクトを面白いと思っていたり、
そのコンフリクトから逃げたいと思っていたり、
そのコンフリクトとの、物理的関わり方に加えた、
感情的関わり方がうまく描かれていると、
さらに感情移入は進むだろう。



コンフリクトが、ただあるだけでは、
他人の争いなんて他人事でしかなく、
観客はどうでもええわ、と冷めた目になっていくだけだ。
それが自分事に関係してきたとき、
初めて心が前のめりになってくる。

鍵は感情移入。
そしてその周りを固めておくこと。
posted by おおおかとしひこ at 14:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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