という難しいワードで検索してきた方がいるようで、
議論してみよう。
ストーリーの魅力を知るには、
完成品から、いろんなものの魅力を引いていくとよい。
まず、絵の魅力を引いてみよう。
好きな絵柄だから見てしまうものは結構多いんだけど、
頭の中でその「魅了」を引いてみるといい。
絵(シャシン)は映画の三大魅力(シャシン、シバイ、スジ)
であるが、それを引き算してみよう。
まず綺麗な配色を引く。モノクロにしてしまえ。
モノクロにしてもいい絵はいいので、
それも引いてしまえ。
稚拙なホームビデオの絵にしてしまえ。
陰影も浅い、カッコイイ構図もない絵にしてしまえ。
なんなら、ラジオドラマにしてしまえ。
この時点で、音楽の魅力も引いてしまえ。
ナウシカから、久石譲を引け。
ロッキーから、あのテーマを引け。
ニューシネマパラダイスから、あのテーマを引け。
絵や音楽の魅力は、描写の魅力だ。
小説でいえば地の文の魅力かも知れない。
場所の魅力を引き算しよう。
パリやニューヨークを舞台にすると、
魔法がかかって、多少適当な話でもよく見えたりする。
なるべく隣の二丁目の出来事、ベタベタの日本人に置き換えてしまえ。
役者の魅力を引き算しよう。
好きな役者のせいで、映画は何倍にも良く見える。
好きな人がいると、ただの風景が魔法になるのは実生活でもあることだ。
それを好きじゃない人に置き換えてみる。
たとえば他の役者に置き換えて想像しよう。
たとえば、ドラマ風魔の、村井演じる小次郎を、
別の役者が演じると想像しよう。
小次郎の魅力は、もともと漫画にもいた魅力だよね。
だから村井が演じなくても、魅力的だったはずだ。
全く別の役者、たとえば鈴木拡樹が演じることを想像する。
それなりに面白い小次郎像が想像できるけど、
どちらが演じても、
小次郎というキャラクター自体の魅力は変わらないはずだ。
役者に左右されない、キャラクターそのものの魅力まで、
引き算してみよう。(逆に、その差分は役者の力なのだ)
さてここからが難しい。
そこから、キャラクターの魅力を引き算したまえ。
性格や仕草や表情や目や、生まれだす言葉を引き算しよう。
何もなくなるだろうか。
いや、まだあるよ。
小次郎があの台詞を言わなくても、
あの性格をしてなくても、
彼が姫子を好きで、彼女のために働き、
忍びとしての己に苦悩し、
仲間の死を理解し、己の使命を理解してついには敵を倒す、
大筋の面白さは変わらない。
今抽出したのは、小次郎のメインプロットだ。
ストーリーというのは、
一本のメインプロットと同時に、
複数のサブプロットが走る。
同じくドラマ風魔でいえば、
壬生のサブプロット、姫子や蘭子のサブプロット、
武蔵のサブプロット、絵里奈のサブプロット、
竜魔のサブプロット、陽炎のサブプロット、
霧風や劉鵬のサブプロット、項羽と小龍のサブプロット、
麗羅のサブプロット、夜叉姫のサブプロット、
聖剣のサブプロット、
その他の登場人物のサブプロット
(将棋部員や応援団副団長に至るまで)がある。
これらの織り成す綾の面白さが、
ストーリーの魅力の全体といってよい。
さて、さらに設定の魅力を引き算しよう。
この全体に関係ない設定を引く。
たとえば、「学園同士の抗争の裏には、忍び同士の熾烈な争いがある」
というのは、この全体の土台的な前提だから、引いてはダメだ。
たとえば、聖剣の設定や、サイキックソルジャー設定は、
引き算しても全体は壊れないだろう。
技の魅力も引き算していい。
(たとえば項羽から白羽陣を引いたら、意外と何も残らない)
ドラマの「夜叉と風魔が500年争ってる」なんてのも引き算できる。
土台を強化するに過ぎないからである。
「蘭子さんが竜魔に恋をする」は設定か?
これを設定だと誤解する人がいるが、
これは設定ではない。
動機である。
動機の設定は、サブプロットの前提(土台)なので、
引き算できない。
元々の蘭子の動機は、「人として好きな姫子を守りたい」だが、
風魔たちと出会うことで、命を賭ける男たちが心配になってくる。
たまたま一番命を削っている竜魔に矛先が向かったが、
たとえば霧風の闘いを目の当たりにしてれば、
彼を好きになってしまったかも知れない。
(霧風でなく竜魔にしたのは、僕の計算である。
何故か。以下に述べるテーマの構成と関係する)
サブプロットの織り成す綾は、テーマを示す構成をしている。
対比によってだ。
たとえば風魔は人の繋がりを大切にし、夜叉は自分のことしか考えていない対比。
反省する小次郎と暴走する壬生の対比。
まとまろうとする風魔と分裂する夜叉の対比。
命を捨てる竜魔と、未熟な小次郎の対比。
忍びであろうとする竜魔と、人間であろうする小次郎の対比。
人の上に立とうとする姫子と、それをサポートする生き方の小次郎の対比。
人は違いがあると、影響しあう。
その影響のしあい、その変化が、ストーリーの魅力である。
影響が大きいためには、大きく違うことが必要だ。
対比はつまり、影響の大きさに比例するのだ。
多くはケンカや争い(コンフリクト)として描かれ、影響を与えあう。
最初は小さな変化で、大きな変化までいくものだ。
そのダイナミズムもストーリーの魅力だ。
登場人物は目的をもって舞台に登場する。
目的を果たす行動のなかで、
出会い、影響しあい、変化する。
この一連を、その人物のサブプロットという。
そのサブプロットの魅力、
その織り成す綾が語る対比と変化の魅力。
それらが言外に語る意味。
(たとえばドラマ風魔は、
人の絆を、風魔と夜叉の対比の中に描いている。
人としても忍びとしても生きる、という小次郎の結論を、
小次郎のメインプロットの中に描いている。
ざっくり全部で、心に暖かい風を吹かせることを、描いている)
その意味をテーマという。
つまりストーリーの魅力とは、
テーマを一言も言わず、
魅力的なサブプロットの織り成し
(影響のしあい)から語ることを言うのだ。
何故蘭子は霧風を好きにならず、
竜魔を好きになったのか?
竜魔と小次郎を対比させるためだ。
忍びに徹する男と、忍びに徹しきれない男を、対比させるためである。
もちろん、竜魔は蘭子にも小次郎にも影響を受ける。
小次郎も、竜魔や蘭子に影響を受ける。
蘭子も、小次郎や竜魔に影響を受ける。
その全体で、テーマを示しているわけである。
これは設定ではなくて、「ストーリーの構成」という。
テーマを語るために、
サブプロットの影響のしあいをつくることは、
設定ではなくて構成である。
さて、サブプロット群は、
動機と行動と反応と変化で構成される。
動機が変化したり、影響しあうポイントを、ターニングポイントという。
つまり、ストーリーの魅力とは、
サブプロット群による構成の魅力と、
ターニングポイントの魅力でつくられている。
さらに。
時間的構成の魅力がある。
何からどう語るか、という視点のことだ。
どの場面のあとに何の場面を並べるかという、
取捨選択の細かいレベルから、
大きな三幕構成(何をどれだけの比率で書くか)まで、
様々な大きさのレベルがある。
どんでん返しや伏線などの、時間的テクニックの魅力もあるよね。
これで大体の分解は終わったかな。
とある物語は、何故魅力的なのか?
ストーリー以外のものを引き算するとよい。
それは、キャラクターが魅力的だから魅力的かも知れない。
それは、舞台設定が魅力的だから魅力的かも知れない。
それは、ストーリーが魅力的だから魅力的かも知れない。
何故ドラマ風魔は、
絵がしょぼいのに、予算が安いのに、
知らない役者が拙い演技をしているのに、
面白いのか?
役者や音楽の魅力も勿論ある。
菊地さんのケレンミ溢れる絵もいいし、CGも低予算にしてはすごい。
アクションもなかなかだ。ギャグのキレもいい。
(ついでに、メイキングが役者の魅力を引き出すように良く出来ている)
それらが、「面白いストーリー」という魅力の上に、
乗っかっているから面白いのである。
これは逆にはできない。
藤田玲と村井良大を連れてきただけじゃ面白くない。
全員が食卓にいるだけじゃ面白くない。
メイキングだけを初見なら、何が面白いか分からないだろう。
これらは、全て魅力あるストーリーの上に乗っかっているのだ。
同様に、「ロッキー」でもやってみよう。
16ミリの荒れた絵を引こう。
元ポルノ男優の、たれ目の筋肉男の魅力を引こう。
アポロの肉体の魅力も引こう。
エイドリアンの不細工なりの魅力も引こう。
フィラデルフィアの下町の雰囲気も引こう。
ついでにあの名曲が流れないと仮定しよう。
だとしても、
不遇で引退を考えた男が、
千載一遇のチャンスを得、
闘う魅力は変わらない。
恋人を得、その名を叫ぶことこそ俺なのだというテーマの魅力は変わらない。
一攫千金を狙ってたかってくる輩への嫌悪感は変わらない。
パンツの色を間違えられたときの傷つき方は、変わらない。
自分の存在を証明するというテーマの魅力も、
そこにいたる登場人物たちの悲喜こもごも、影響のしあいも変わらない。
それがこのストーリーの魅力だ。
ストーリーを練るということは、
キャラクター性や、世界観や、設定に頼らない魅力をつくっていくということだ。
それは、サブプロット群を組み、
動機や行動や反応や影響のしあいを組み、
それら全体でテーマを語るように構成し、
全体の時間的構成を考える、ということだと僕は思う。
(その後、その上にキャラクターや台詞や絵の魅力を乗せていく)
ストーリーは目に見えない。
ストーリーは流れのことだからだ。
写真には撮れない。
一部を取り出せず、全体でしか意味がない。
だから、なかなか言葉にしてとらえにくい。
水の流れをうまく言葉に出来ないようにだ。
(すぐ写真などの分かりやすいものにして、理解した気になる。
「名詞」が我々の思考の道具であることと関係している、と僕は考えている)
ストーリーの魅力は、そのような性質があると僕は思う。
2016年07月20日
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