たまには技術論を。
技術と言うよりは、書き方だけど。
回答箱にも書いたけど、
ミッションインポッシブルシリーズみたいな、
複数の場所で同時進行する話を、
伝統的なシナリオ形式で書くことは、
なかなか難しい。
目の前にいないのに無線で連絡を取り合ったりする場面が、
とても多いからである。
こういうのをどういう話を組むといいか、
というプロット論はおいといて、
出来たあとに、どう表記すればいいか、
という純粋な書き方を指南しておこう。
エージェントは三人としよう。
イーサン、ジュディ、デビッドだ。(名前は適当)
場所は空港、オフィス、地下道だとする。
たとえばこう書くと分かりやすい。
○空港
へ、やって来るイーサン。
オフィスのジュディ、地下道のデビッドと無線で連絡を取る。
イーサン「じゃあ計画通りに」
ジュディ(オフィスで)「OK」
デビッド(地下道で)「へまするなよ」
イーサン「お前こそ」
イーサン、鞄からミニ爆弾を取り出す。
○オフィス
偽のIDカードをつけ、スーツ姿で廊下を歩くジュディ。
○地下道
地図を見ながら、真上を想像するデビッド。
○三人
同時に時計を確認する。
○空港、オフィス
連絡を取り合いながら闘うイーサン、ジュディ。
イーサン「だから言ったじゃないか!」
ジュディ「アンタの指示が間抜けなのよ!」
デビッド「(二人の会話を無線で聞きながら)痴話喧嘩はよそでやってくれよ」
…
○空港
爆弾を仕掛け終わったイーサン。
物陰に身を隠し、
イーサン「どうだい?」
ジュディ「もうちょっと待って!(と言いながら一人蹴り倒す)」
デビッド「こっちはいつでも」
ジュディ「(所定の場所につく)待たせたわね、OKよ」
イーサン「じゃ、いっちょ派手な花火だ」
三人、同時にスイッチを押す。
空港の施設、オフィスの役員室、地下道から、
同時に爆発の火の手が上がる。
イーサン「イヤッホウ!」
黒塗りのリムジン、迎えに来る。
既にジュディ、デビッドが乗っている。
イーサン「ミッション完了だ!」
イーサン、派手に乗り込む。
みたいな。
いくつかの記法を組み合わせて書いてみたので、
適宜参考にして欲しい。
ト書きや()に、内容に邪魔を与えないようにしながら、
分かりやすく書いておくのが原則だ。
実際のところ、
会話の相手の顔を写すのか、声だけにするのか、
カットバックさせるのか、二分割画面にしたりするのか、
同時にスイッチを入れるのは分割画面か、
カットを短く重ねるか、
などについては、
監督の演出次第だ。(厳密には編集でやること)
脚本で書くべきことは、
そこで何が起こっているか分からせること、
そしてそれが緊迫感溢れる面白い話かどうか、
ということだ。
また、同時進行といっても、
厳密な同時進行でなくてもいい。
たとえばカットバックの間に時間は盗める。
いつの間にリムジンがジュディとデビッドを回収したか、
突っ込むのは野暮というものだ。
この程度のご都合は、演出の許容範囲だろう。
勿論厳密にやるやり方もある。
空港から誰にも見つからず帰還するイーサンを描き、
アジトで乾杯させてもいい。
世界観次第である。
複数の場所で同時進行するパターンでは、
それぞれが一本のストーリーラインになるということだ。
それらは、絡み合いながら進むとよい。
たとえば、空港で起こったアクシデントのせいで、
オフィスの段取りが狂い、それを地下道で待つうちにさらに狂い、
空港で取り戻したらオフィスで致命的なことが起こり、
地下道でフォローして事なきを得て、
空港からさらにフォローを入れて、
当初の計画よりさらにうまくいく、
などのようにだ。
僕はたまにクリストファーノーランのカットバックを批判する。
彼のカットバックは、殆ど絡みのない同時進行で、
別々の行為のシンクロしか描いてないことが多いからである。
同時に存在している意味が希薄で、
やりたかっただけやろそれ、みたいになっていることがとても多い。
カットバックは、
それだけで緊迫感のある映画的で面白い手法だけに、
ついつい使いたくなり、
映画的なものを書いた気になってしまう。
つまり、道具に酔いやすい。
(多くのPVでは、凝ったカットバックが多用される。
しかし意味はあまりない。話が生まれるわけでもない。
かっこよければそれでよしの世界だからだ)
それらのストーリーラインがペアで存在している意味のほうが、
ストーリー的には重要であることに注意されたい。
2016年07月21日
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