僕は表現が上手くない。
文章は下手だし、小説も上手くないし、
絵も下手だし、歌も下手だ。
自分ではそう思っている。
多分理想が高くて、そこに全然届いていないと判断するからだろう。
ちっとも理想にならない。
僕は下手だ。
内容については、練れるようだ。
理系出身だから、抽象化や構造化に慣れているのかも知れない。
しかし、釣り餌(つまりガワ)と、中身の上手な融合は、
どれだけやってもこれだ、という論理的結論がない。
中身については、
おそらく論理で詰めていける。
論文やここの文章はそうやって書いてるから、
まあ書ける。
論理だから、あまりガワを気にしなくてすむ。
一方、ただきれいな絵を描いたり、
ただきれいな写真を撮るのなら、
まあまあ出来る。
問題は、それらを結びつけること、
つまりそのきれいな絵で何を表すかとか、
その写真でどういう意味を見せるか、である。
主題と表現、とでも言おうか。
そういうと古くさく堅苦しいので、
もっと書く側から、
釣り餌と中身と呼んだわけだ。
なるほど、この釣り餌はこの中身と融合するためにあったのか、
と腑に落ちることが、落ちることだと思う。
たとえばシックスセンスの釣り餌は、
「幽霊が見える子供に雇われた探偵が、
幽霊騒動ホラーに巻き込まれる」だ。
この釣り餌は落ちのためにあったことが、
落ちを見ればわかる。
逆に、釣り餌が落ちの目眩ましになっていて、
なんと良くできた構造だと僕は感心したことがある。
これは論理じゃ出来ない。少しばかりの偶然が味方していると思う。
どんでん返しばかりを強調してもダメだ。
釣り餌が落ちに対してベストの機能を果たすことだ。
ただ流行に乗っただけのガワ。
中身がないことを誤魔化すガワ。
ガワが飽きたからすぐにガワを変えて、中身がないことを目眩ましにする。
ガワと中身が関係なくて、別の中身、別のガワで良かったんじゃないかと思わせるもの。
中身の導出に、ガワの必然性がないもの。
「ガワからの中身」の流れが平凡すぎるもの。
その流れに無理や矛盾や穴があるもの。
そういうものは、僕は下手だと思う。
ガワには意味がある。
本来意味はないけど、意味がある。
中身を上手く導くようにする、という機能的意味がある。
僕は表現が下手だと思っている。
そのベストの釣り餌と中身の組み合わせを、
すぐに作れない。
あなたは表現が上手だろうか。
下手でも下手なりに、コツコツやって、
少しずつ上手くなることだ。
表現とは、
いい釣り餌と、素晴らしい中身の、
組み合わせや導出の妙というところに、
僕はあると思っている。
何故天狗か?
何故心の闇か?
そこから、テーマという中身を上手く導くことが出来たか?
その釣り餌と中身の組み合わせはベストか?
いまもって分からないが、昨日、てんぐ探偵最終回の最後のリライトを終えた。
この素材ではベストを尽くしたと思う。
代表作は次回作。
次の釣り餌を、探しにいかなければと思っている。
表現は、最後まで書けて、
はじめて釣り餌と中身と、それらの関係を俯瞰することが出来る。
途中で挫折する人は、それを一度も経験してないから不幸だ。
それは、自分が表現が下手だという事実に、
向き合う勇気がないのかも知れない。
鏡で自分を見る勇気がないのかも知れない。
僕は表現が下手だ。
いつも鏡を見て、自分の不細工を確認する。
だから、次はもっと上手く書こうと思うのだ。
そのループだけが、人を向上させる。
2016年07月28日
この記事へのトラックバック
読ませていただいております。
毎回出てくるゲストとそのエピソードに、
すごく心惹かれます。、と同時に何かこう、あと少し
なにか物足りない、モヤモヤを感じておりました。
語彙力の無い私はそのモヤモヤをどう言い表せば良いか
悩んでいたのですが、今回の記事を読んで解決しました。
大岡さんの、己の弱点に向き合う姿勢に感服いたします。
そして、改めて読む機会があったので最近読んだのですが、ブラックジャックの表現のうまさを噛みしめました。
ブラックジャック自身はもちろん、ピノコやキリコ
なんかも、そのキャラクターとしての魅力はもちろん、
物語のテーマに深く関わっているからこそ、色あせないの
ではないかと思いました。
初期からの読者ですか。ご愛読感謝でございます。
実際てんぐ探偵がそのような構造を得たのは、旧30話「遠野SOS」(新26話にリライト)があったからだと考えています。
ちなみにブラックジャックは、
実はヒューマンドラマでも医療ものでもなく、
当時の釣り餌は「怪奇まんが」でした。
(小学生の頃散髪屋で読んだ、無頭児の話が忘れられない)
「奇病もの」というジャンル分けだったのですな。
これをてんぐに応用すれば、
「聞いたこともない精神の狂いを治す」なんてのが釣り餌になるのでしょうが、
それは「普通の人が普通の心を取り戻す」という、
心のありかたというテーマを歪めてしまいます。
まあ、コツコツやります。
凄く惹かれるというのは、面白いのはじまりなので。
(実際俺が漫画を描けば、釣り餌のピースは嵌まる気もしてるけど)
ブラックジャックは、手塚治虫のたどり着いた最高峰のひとつですね。アドルフ、奇子あたりかなあとは。