普段僕はガワでなく中身を見よと言っているせいで、
まるでガワ否定論者のようなイメージがあるかも知れない。
逆だ。僕は映像フェチである。
ただ、脚本をつくるときには、フェチを入れると中身が薄まる、
という話をしているだけだ。
実のところ、このブログは脚本論専用になりつつあるので、
いまさら演出論カテゴリを立ち上げないほうがいいと判断しているだけの話だ。
映像は、フェチズムであると僕は思う。
ライティング、アングル、移動、反射や透過、
煙や水滴、色と形と光と影と動きの万華鏡。
そのひとつひとつを愛でることは、
とても楽しい。
だけれど、日本映画の低予算では、
映像のフェチズムを堪能するだけの、
時間的余裕も機材的余裕も取れない。
必定、役者の良さを引き出すだけで精一杯だ。
美しさは、絵の美しさでなく、
役者の美しさに頼らざるを得ないのだ。
かつて黒澤は雲の形が悪いといって撮影をしなかった。
今日本映画に、雲の形を待っている余裕はない。
雨でも晴れでも、撮影続行である。
僕は映像のフェチズムを満たすため、
CM業界に入ったようなものだ。
たとえば代表作クレラップ(今は担当を外れている)では、
レトロフューチャーという世界観を作れるだけの、
予算的余裕があった。
一本3000万。30秒なので秒単価100万円。
日本映画はいくらで作る?
120分としよう。平均3.5億らしいので、秒単価4万9000円だ。
ちなみに風魔は一話900万、本編25分だから、秒単価0.4円。
涙が出るね。
ハリウッド映画は?
平均予算54億という数字を信用すれば、秒単価75万円なり。
絵のリッチさは、センスもそうだけれど、
概ね予算に比例する。
カメラ前に用意する具体的なブツもあるけれど、
実際は、ワンカット撮るのにかけられる時間、準備期間、
そこで動く人件費のほうが大きい。
日本映画は一日の撮影で3ないし4分ぶんを撮る。
風魔は8分ぶんを撮っていた。
撮る量は倍だけど時間は一緒。
つまり、ワンカットに半分しか時間をかけられない。
絵で大事なのはライティングだ。
照明は機材や人件費も必要だけど、
実際には照明を組む時間が一番大事。
日本の現場はここをけちっている。
時間をけちっているのだ。
(たとえば広告のポスターでは、
一枚の写真を撮るために半日から一日の時間をかける)
自撮りの普及によって、ライティングがシャシンの出来を大きく左右することは、
一般にも知られてきたと思うけれど。
たとえば、「ノルウェイの森」のカメラマン、
リーピンピンの絵はとてもいい。
照明を担当しているのは中村さん。
かつて篠田昇氏のライトマンだった人だ。
ちなみにこの映画、照明費だけで3億かかったらしい。
ふつうの日本映画に、そこまでの照明費はない。
さて、僕が何故フェチズムを封印してまで、
なるべく中身の話をしようとしているのか?
現状日本で、フェチズムを満たすのはCMの現場か、
とても大作を作るときだけなのだ。
(そのCMは、今や一本1200万円を割ろうとしている。
秒単価40万なり)
だから、絵より内容を面白くするしか、ないのである。
内容とはなんだろう。
キャラクターか。シチュエーションか。
違う。面白いストーリーだ。
逆に、面白いストーリーに、金をかけた映像をつけると、
映画の魔法が起きる。
(詰まらないストーリーに金をかけた映像をつけても、
ノルウェイの森のように、退屈である)
いずれにせよ、面白いストーリーありきなのである。
日米の映像文化、秒単価ランキング
15年前の日本のCM: 100万円
ハリウッド映画: 75万円
今の日本のCM: 40万円
日本映画: 4万9000円
風魔: 0.4円
僕が映像的フェチズムを満足するラインは、
秒単価75万円以上のクラスらしい。
ちなみにシンゴジラは15億という情報がある。
それでも20万円にしか上がらない。
2016年08月16日
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