2016年08月18日

13の誤解11: 落ちの誤解

落ちの誤解: not 最後のつけたし but 冒頭との関係


落ちとは何だろう。
元は落語用語だけど、
最後に笑うところ、という程度の認識しかないだろう。

物語における落ちとは、必ずしも笑いとは限らない。
なるほどね、とニヤリとしたり、
どんでん返しで驚いたり、
皮肉なものだったり、
素晴らしい感動であったりする。
勿論大爆笑でもいい。

ラストシーンであってもいいし、
そのひとつ前くらいでもいい。
とにかく最後に落ちればいい。

どこに落ちるのか?
腑に落ちる、と僕は考えている。


(ちなみに、ハリウッドに落ちという言葉はないと思う。
そういう概念すらない。
日本人は文化として落ちを語ることが出来る。
ハリウッドの脚本理論は素晴らしいが、
日本人の物語論をカバー出来ないこともある)


落語における落ちは、
笑いという腑に落ちる。
それまでの話に、最初から最後まで意味があった、
という秩序の完成が落ちだ。
ラストピースが埋まり、
人の滑稽さが浮き彫りになり、
なるほどね、この話はこういうことだったのね、
と笑いが起こるのである。
落語は落ちの芸術である。
落ちで笑わせる芸術である。
その為に全てが逆算されて作られてある。

映画もおなじだ。
笑いに限定せず、様々な感情の方向性があるだけである。
ラストの落ちによって、これまでのすべてのパーツが有機的に完成し、
秩序を持ったものとしての意味が確定する。
だから腑に落ちる。
落ちるのは、意味、すなわちテーマである。


前記事、テーマの誤解はこの為に書いたのだ。
まるで伏線の構造ではないか。




ブックエンドテクニック、というものがある。
これは変化やテーマを示しやすいので、
頻繁に使われるものだ。
ファーストシーンとラストシーンを、
同じようなシーンにすることを言う。
二つのシーンで本編をブックエンドのように両側から挟むイメージだ。

たとえば、
ファーストシーンで他人を助けない男が、
ラストシーンでは人を助けるところで終わる、
などである。
この映画のテーマが「人を助けることはいいことだ」
だとしたら、主人公の変化、-Aから+Aの変化を示しやすい。
分かりやすい構造に出来るのである。
(最も分かりやすいのは、同じ場所での似たようなシチュエーションだろう)

主人公の変化こそがテーマ(価値あること)を示す場合は、
自然に腑に落ちるので、
(それまでのストーリーが上手くいっていれば)
納得して終わることが出来るわけだ。



ところで、落ちは単独で存在するか?

否だろう。
それまでのことありきの落ちである。
落ちだけ取り出しても、面白くもなんともない。
落ちは、前のものすべてと関係して存在する。

さて、では落ちを作る上で、
最も効率がよいのはどういう構造か。
落ちに関係するものは、どこからあればよいか。
半ばか。前1/3か。いやいや、最初から落ちに関係するものがあれば、
構造としてスマートだ。

ということで、落ちは冒頭からはじまっている、
と極論することが出来る。

全てのことに意味があるのなら、
冒頭は落ちへの一番最初の前ふりであるべきなのだ。



もしあなたの落ちが甘いのなら、
あるいは切れのある落ちが欲しいのなら、
冒頭と関係付けて落としてみよう。
逆に、落ちの前ふりを冒頭でしてみよう。

後者の例は、「アニーホール」で見ることが出来る。
主人公のモノローグをブックエンドに使い、
全体の意味を確定させている。

あるいは、落語「饅頭こわい」を思いだそう。
落ちの「今度はお茶がこわい」は有名だが、
冒頭を思い出せるだろうか。
「こわいものがないという男がいた」というところから始まったはずだ。

実際のところ、この設定から考えて落ちを最後に思いついたのか、
落ちから逆算して、それと関係する面白げな冒頭を思いついたのかは、
永遠の謎ではある。
どちらにせよ、冒頭の前ふりを落ちで使う構造は、
変わらないのである。



落ちを誤解しないようにしよう。
適当に面白いことを最後に言えばよいわけではない。
とってつけた、いい感じのラストシーンはいらない。
これまでのこと、冒頭から中盤から、
全てのことに意味があったと腑に落ち、
テーマが確定するのが落ちだ。
まずは冒頭と関連づけて落とそう。
それでも落ちた感じがしなければ、全体の構造がおかしなことになっているかも知れない。

このことは、長編よりも短編を書いたほうがより実感できる。
数をこなすと出来るようになってくるだろう。
posted by おおおかとしひこ at 13:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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