日常パートという誤解: not パート but 冒頭5分
「日常パート」という言葉が使われることがある。
アニメの、バトルシーンとか見せ場以外の、
日常生活っぽいパートのことを指して言った言葉が、
広まったような気がする。
この言葉のせいで、
物語は日常パートと非日常パートに別れ、
それが交互に繰り返す、
というイメージがあるように思う。
それは誤解である。
少なくとも映画においては、
95%が非日常パートでなければならない。
どういうことだろうか。
戦闘シーンとか心理描写ばかりということか。
違う。それは見た目のことを言っている。
僕が言うのは、文脈、
すなわち「それが日常に属するのか、非日常に属するのか」ということである。
たとえば女の子に恋する話を考える。
恋をすれば分かるけど、
その子と歩くだけで非日常だ。
日常の何気ないこと、笑うとか、一緒にアイス食うとか、
そんなことすら非日常になってしまう。
恋の魔法とはそういうものだ。
一端恋をしてしまえば、表面上は日常的なことをしていたとしても、
全てがキラキラした非日常に見えるものだ。
つまり、見た目は日常パートだが、
文脈上は非日常パートである。
それは感情移入が十分に行われていれば、
手を触れるか触れないかが、
どんなバトルシーン、
たとえば地球滅亡阻止よりも価値ある出来事になるだろう。
すべては文脈なのである。
さて、映画というものは、事件を扱うのであった。
事件が起こり、それが解決するまでを描く。
事件の起こる前までが日常パートだ。
事件が起こってからは、全てが非日常になる。
解決すれば、日常がようやく戻ってくる。
さて、事件が起きるのは開始何分か?
30分も事件が起こらない、という映画はない。
カタリスト(事件のきっかけ)は、
開始5分、遅くとも8分以内に起こすべきだ、
とハリウッドの経験則は述べている。
すなわち、日常パートは最初5分までだ。
一端事件が起きれば、
もう警報が出て非日常態勢になるのである。
(なんだかおかしい→注意報レベル→警報レベルと、
次々に展開していく話もたくさんある。そっちがリアルでポピュラーだ)
さて、では日常に戻れるのはいつか?
完全に解決し、話が終わったときだ。
つまり、ラストシーンである。
ということで、5分とラストシーンしか、
日常パートを描くべきではない。
これは、途中で、
家にいるシーンを書くなとか、
友達と飲む場面を書くな、とか言っているわけではない。
家にいるシーンだとしても、
現在進行中の事件解決の緊張感が取れることなく、
友達と飲んでも不安であるようにせよ、ということだ。
あるいは家に事件解決のヒントがあるとか、
友達とのむことで事件解決に繋がる人に出会うとか、
日常の場面だとしても、
現在進行中の事件解決と絡む必要がある。
それはつまり、日常パートに見せかけた、非日常シーンなのである。
日常は、同じことの繰り返しだ。
詰まらない。
その代わり安全で安心である。
非日常は、次どうなるか分からない。
ハラハラし、ドキドキし、ヒリヒリするものだ。
危険に満ち、安全の保証はない。
物語はよく旅にたとえられる。
家を出発したら、家に帰るまでの全ては非日常なのである。
つまり、95%は非日常である。
(ロードムービーは初心者には危険だ。
何故なら景色が変わることで非日常になってしまい、
本来進めるべきストーリーが希薄になってしまうことが、
とてもよくあるからだ。旅という非日常に、作者が酔ってしまうのだね)
映画とはすなわち、非日常をどれだけうまく、面白く転がせるかが、
95%を占めているわけである。
さて、長々とやってきた、シリーズ13の誤解、これにておしまい。
目から13枚の鱗が落ちたら、
景色は違って見えるに違いない。
他人のストーリーがいかに上手く作っているか、
いかに下手に作っているか、見えるようになるかも知れない。
勿論それは、自分のストーリーにも帰ってくるわけだ。
また、分かることと出来ることは違う。
先にコメント返しに書いてしまったが(笑)、
一本背負いの原理が分かったからといって、
どんな人にも、あらゆる局面でも、無意識に、かけられるようになるわけではない。
変化型や時々の対応など、たゆまぬ稽古が必要だ。
それはすなわち、沢山書くしかないということだ。
書かない人の論理で作ってもしょうがない。
書く人には、書く人の論理がある。
今の言葉が、どちら側から発せられたかを確かめることが出来れば、
誤解は溶けうるかも知れない。
今後あなたは、観客の批評、プロの批評家に晒されるだけではなく、
素人に近いスタッフとも、仕事をしていかなければならないのだ。
そのたびに誤解を発見できると、
作品を損なうことなく、より建設的なことが考えられるかも知れない。
2016年08月19日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバック