前記事の続き。
ストーリーとは濁流である。
この表現がなかなか本質を突いたっぽいので、
さらに掘ってみる。
ストーリーとは濁流である。
何が流れているのか?
事態。事情。思惑。前から実現したかったこと。
対処。そしてそれぞれの感情。
ちょろちょろじゃない。
穏やかじゃない。
濁流だ。
ぶつかり合い、激しく、跳ね返り、溢れんばかりである。
どんどん支流が合流して、混ざっていく。
そのたびに水量は増し、濁り、激しく混ざる。
先は見えない。
危険だ。
危険だから意味がある。
非日常で危険な何かに、思わず魅入られる感じだ。
台風で増水した田んぼを見に行く感じだ。
それは嵐なのだ。
リアルなら危険だけど、フィクションだから安全だ。
フィクションとは、絶対安全圏から、
氾濫して洪水にならんとする濁流を、間近で眺める行為である。
濁流だから制御が効かない。暴走と紙一重だ。
作者は、その濁流を、最終的に落ちへ落とさなければならない。
その手腕をストーリーテリングという。
その暴れ馬を制御するためには、
チェックポイントをいくつか設ければいいのではないか?
少なくともこういう状態になればよし、
という状態を記述し、
現在の濁流を、その方向に向ければよい。
現在とそのチェックポイントが遠いと、
制御が大変だろう。
現在とチェックポイントが近すぎると、
制御が効きすぎて、濁流にならないだろう。
濁流とは、どうなるか分からない危険と共にあるからだ。
現在とチェックポイントの距離は、
だから制御する力、
現在の濁流をそこに持っていく力と比例する。
執筆はアドリブだ、なんて僕はいうけど、
3分のアドリブ、5分のアドリブ、15分のアドリブ、
などのようなものだ。
達人なら、
最初と最後を決めただけで最後まで書く。
漫画家でそういう人もいる。
それだけの力がある人なら出来るだろう。
(いや、実際のところ、1000人の漫画家で1人いるかどうかだと思うけど)
何かを起こしてどうにかして、最後まで書ける感覚があるなら、
それでもよい。
鶴瓶と上岡のパペポは、本当にそうしていた。
そうでない大抵の人は、
チェックポイントを複数つくるだろう。
第一ターニングポイント、第二ターニングポイント、
ミッドポイント、ブレイクシュナイダーのビートシート、
などのように。
これだけでも足りない人のほうが多いと思うので、
チェックポイントは沢山作ってもいい。
13個でも20個でも150個でも、好きなようにしたまえ。
基準は、自分が濁流を制御しきれない距離と、
暴れが少なくなって詰まらなくなる、
その間である。
間隔も等間隔とは限らない。
細かくやるべきところと、大体のところがあるだろう。
それは人によると思うので、
それぞれ工夫して経験的に割り出すしかない。
(一度も最後まで書けない人は、これすら出来ない。
だから短かろうが最後まで沢山書くことが重要なのだ)
さて、自分用のプロットは、
おそらくこれらのチェックポイントをリストアップしたものになるだろう。
どんな感じの濁流かは、あなたの頭のなかにある。
あるいは部分を書き出してもいい。
勝手にキャラが喋ったりもするだろう。
それが、どういうチェックポイントを経ていくのか、
という自分用の覚え書きが、プロットだと思うといい。
だから自分用のプロットというものは、
箇条書き的になることが多いだろう。
一方、他人に見せるプロットはそうではない。
濁流の様を描写しなければ、その魅力が伝わらないからだ。
それがどんな濁流であるかを、
部分的に示していくといいだろう。
チェックポイントの数はむしろ控えめで、
概ねどんな流れの濁流なのかが俯瞰できる分量でよい。
つまり、他人に見せるプロットは、地図のように書くとよい。
「プロットが上手く書けない」という人は、
そもそも自分用の覚え書きとしてのプロットと、
プロデューサーや編集者に見せるプロットを、
使い分けているだろうか?
自分用のプロットは、濁流のチェックポイントリストだ。
他人に見せるプロットは、濁流の概観と、濁流の激しさを見せる。
自分用のプロットは、「これで書けそうだ」と確信を得るためにつくる。
他人に見せるプロットは、「これ面白そうでしょ?」と承認を得るために書く。
つまり、濁流の制御者という本質からすると、
プロットは、自分用と他人用では、裏表ぐらい違うものなのである。
さて、
濁流論として、三幕構成を眺めてみよう。
次回に続く。
2016年09月10日
この記事へのトラックバック
マンガに三幕構成を適用しているのですが、
馬鹿正直に使うと窮屈になるし、
キャラ立てやギャグ、カオス要素(要はアドリブ)の比重が下がってしまうしで、悩んでいました。
ですが、このエントリを読んでかなりスッキリしました!
主要なチェックポイントを三幕構成で組んである、
という「空中分解しない安心感」を得つつ、
基本的にはアドリブでその1話を面白く描く。
これが自分のマンガ制作には良いやり方かなと感じました。
いつも良記事をありがとうございます!
この先の話ですが、
チェックポイントが足りなければ増やしてからリテイク、多ければはしょる、
なんてアドリブも身につける必要がありますよ。
三幕構成は、「デッサンが出来ていなければならない」程度の基本だと思います。
自由に色を塗れば大丈夫かと。
ちゃんと出来る人は基本が出来ている、程度の基本かと思います。