2016年09月23日

叙述トリック

ミステリー小説の用語である。
脚本にはない。
けれど、たまに映画で使われるテクニックなので、
知っておくと良い。

基本はどんでん返しである。


短くて面白い例を拾ったので、まず貼ってみる。

(引用ここから)

 3人の女性が事故で昇天した。天国に行くと、3人は門番のセントピーターから
「天国には一つだけ掟があります。アヒルを踏んではいけない、ということです」
と注意をうけて中に入った。

 案の定、いたる所にアヒルがいた。とてもアヒルを踏まずには歩けないほど
だった。細心の注意を払いながらも、3人の一人がついうっかり一羽のアヒルを
踏んでしまった。するとセントピーターが、彼女が今までに見たこともない醜い男
を連れてやってきた。彼はその男と女性を鎖に繋いでから理由を説明した。
「アヒルを踏んだ罰として、この男と永遠に鎖に繋がれることになります」

 翌日、2番目の女性も、アヒルを踏んでしまった。するとセントピーターが、極め
付きの醜男を連れてキッチリやってきた。最初の女性と同じようにセントピーター
は女性と男を鎖に繋いで、同じ説明をした。

 3番目の女性はこの顛末をつぶさに見ていたので、醜い男なんぞと一緒に鎖に
括りつけられて永遠に過ごす羽目にならぬよう、足の運びには精一杯気をつけた。

 彼女が何とかアヒルを踏まずに数ヶ月が過ぎたころのある日、セントピーターが
今までに出会ったこともないハンサムな男を引き連れてやってきた。男は背が
高く、長い睫毛をした、筋骨逞しく、細身だった。セントピーターは何も言わずに
二人を鎖に括りつけた。

 女性は怪訝な面持ちでつぶやいた。
「私が貴方と一緒に鎖に括られるような、何か褒められるようなことをしたのかしら」

 それに男が答えた。
「僕は君のことは何も知らないんだけど、ただアヒルを踏んじゃいました」

(引用ここまで)


(狭義の)叙述トリックは、
一人称形式を逆手にとったものが殆どだ。

一人称とは、「わたしから見たわたしの周りの光景」のことであるから、
わたしだけはその光景に含まれていない。
これを利用するわけだ。

上の例では、私はブサイクだったわけだ。
普通の一人称では、私は標準的な人が多く、
劣等目線になることはない、という常識を逆手にとっている。
つまりこれは、一種のどんでん返しである。
Aにミスリードしておいて、Bにどんでん返すわけだ。
A:わたしは普通の人
B:わたしは実はブサイクだった
という構造である。

その落ちを直接言わず、イケメンにアヒルを踏んだと言わせたあたりが、
ニヤリと来るわけだ。
今までわたしの容姿を考えたこともなかったのが、
急に鏡を見たような気分、
わたしの中の一人称が、
わたしの外に出た三人称になった気分になる。
それが(狭義の)叙述トリックである。

これは一人称の語り手をずっと隠しておけるから、
古典的によく使われる。

有名なのは○○が犯人(ポートピア連続殺人事件)
というやつかな。○○は味方というか「わたし」の範疇だったものね。
シックスセンスも、巧みな叙述トリック作品だと言える。
あと、「カラフル」という小説の叙述トリックは泣いたなあ。

わたしをAだと思わせておいて、実はBだった、
という構造が、(狭義の)叙述トリックだと言ってもいいだろう。
AとBの組み合わせがその叙述トリックの性質を決める。
反対であればあるほど、強くなるだろう。
生きていた←→死んでいた
男だった←→女だった
他人←→自分
いると思わせて←→実はいなかった
などなどがあるだろうね。


広義の叙述トリックは、
文章表現の暗黙を利用してトリックを仕掛ける方法だが、
そこはもはや小説ジャンルなので、各自調べて研究されたい。
何か映画に応用できることがあるかも知れない。

たとえばカットバックで話している二人だと思わせておいて、
全然関係ない場所の二人だった、
なんてのはカットバックの暗黙を利用しているので、
映画的な叙述トリックかも知れないね。

手のひらに小さな人が乗っていると思ったら、
遠くにいる人でした、なんて遠近法も、
映画的叙述トリックのひとつだと言えよう。
(IQ246の番宣CMに使われていたり)


狭義の叙述トリックは、一人称形式を逆手にとる。
ということは、主観映像で、
叙述トリックは仕掛けられるというわけだ。
ハメ撮りの叙述トリックとか、ありそうだ。

ということは、三人称オンリーでは、
狭義の叙述トリックは仕掛けられないということに注意されたい。
どうしても一人称的、主観的なことにおいて、
叙述トリックを仕掛けることになるわけだ。
ここでも、主観と客観が顔を出してくる。

三人称形式を一人称的メアリースーに書いている初心者では、
十年先まで研究出来ないネタだねえ。
posted by おおおかとしひこ at 01:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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