2016年09月26日

再び、イコンの話

最近の脳科学の発展により、
どうやら、
「脳は運動を記憶できない」という説があるらしい。

詳しくはもう少し調べたいのだが、
僕の物語の記憶のされ方に関する仮説、
「一枚絵は記憶に残るが、それまでの線の経緯は忘れてしまう。
つまりあとで思い出すときは、イコンとそこで覚えた感情である」
を裏付ける研究があるっぽい、という。


普段は僕は、
焦点やら目的やら、動機やら行動やら、
ストーリーラインやら変化やら、
動的なことについて主に議論している。
僕はそれがストーリーの本質だと思っているのだが、
それを記憶のなかから呼び出して、
こういう感じ、と示しにくいことにジレンマを感じている。

一方、人は絵の記憶は得意だから、
それゆえ映画の理解を、絵というガワだけで理解、
評論してしまう危険性についても、
普段散々批判している。

この、イコンという安きに落ち着き、
動的ストーリーラインに落ち着かないのは、
脳の記憶構造の問題ではないか、
と仮説を立ててきたのだが、
それがどうやら本当らしいのである。
(詳しくはソースを明らかにしてからにしたい。
まだネットのヨタ話なので。
海馬が、短期記憶から長期記憶に変換するときのことっぽい)


あと僕は、論理の短絡という現象もあるような気がしている。

ストーリーラインというのは、ある種の論理構造をもっている。
AゆえにBになり、それゆえにCになり…という構造だ。
これを形式的論理構造にすることは出来る。
A⇒B⇒C
である。
これは三段論法なので、
A⇒C
に短絡可能である。
短絡された論理を定理といい、
短絡しない全構造を証明というわけだ。

ストーリーラインは、三段論法どころではない。
A⇒B⇒C⇒D⇒…と延々と続くものだ。
焦点とターニングポイントを変えながらである。
仮に…⇒Zまで行って終わったとしよう。ラストシーンだ。
この形式的論理構造は、
A⇒Z
に短絡化(定理化)できる。

おそらく、これが我々が、経緯なる動的ストーリーラインを記憶できない原因ではないか?
つまり、
「Aで始まった物語は、Zで終わった」のように、
短絡化して記憶されるのではないか?


たとえば。
「青い鳥」。
「幸せの青い鳥を探しに出たが、結局家にあった」
「桃太郎」。
「桃から生まれた桃太郎が、最終的に鬼を退治した」
「風魔の小次郎」(ドラマ版)。
「忍者の小次郎が学園に来て、色々あって敵を倒した」
などなど。

ここでわざと書いてみたのだが、
「結局」「最終的に」「色々あって」
の部分が、
B⇒…⇒Yの、途中にあたる、短絡化して省略された部分に当たるわけだ。
勿論、よく知った話ならば、
その間を展開できる。詳しい定理ならば証明出来るのと同じだ。

ところが、
あやふやになればなるほど、
間の部分は、ちっとも思い出せなくなるのである。
これも、定理は前提条件と結果だけ使い、証明は興味ない、
みたいなことと一致している。
(たとえば中心極限定理は、証明よりもその結果、
すなわち統計の標準化や偏差値、あるいは視聴率などに使われている)

その短絡化こそが、
海馬の機能のような気がするのだが、
あとで調べてみることにする。



さて、
我々のすべきことは?
まず、絵だけでストーリーを判断しないこと。
全ての名作を、動的ストーリーラインで把握し直すこと。
そしてそのような素晴らしいストーリーラインを創作すること。

さらに。
それらは記憶されないという前提を持つこと。
忘却に対抗する手段は?
強い感情と結びついた絵を作ることだ。
絵は記憶できる。
それがイコンである。

イコンがあれば、A⇒Z以外にも、途中が記憶される可能性が高いわけだ。
勿論、最後に行くに従って、強く、面白くならないと、
「途中まで面白かったけど最後の方はいまいち」
という中折れの評価を下されるのだが。


逆にさ、小説とか音楽とか、絵のないものはどうやって記憶されるんだろう?
実は僕はある程度の写真記憶能力があるので、
映画や漫画は得意だけど、
小説や音楽は苦手だ。
「主なる感情とタイトルの組で記憶される」という仮説にとどめておくとする。


イコンをつくろう。

記憶されるような、オリジナリティのある、
強い感情と結びついた、ストーリーを示す絵をだ。
(何枚あればいいかは、長さによって異なると思う)
さらにその配列が、
だんだん強く、上手に変転していくとよい。
それが短絡を越える、名作の条件ではないかなあ。


ところで最近みた「レヴェナント」には、
ワンカット演出ゆえの、イコンがないという問題があったと思う。
「バードマン」も同じくだ。
どちらの作品も、ポスターが本質を表現しきれていない、
という違和感は、これと関係があるんじゃないかな。
posted by おおおかとしひこ at 14:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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