2016年09月27日

アンタゴニスト(敵対者)の作り方

敵とか、悪役と単純に考えてもよい。
彼(または彼女)の存在は、
テーマと関係してくる。


主人公が身をもって証明する価値が、
テーマである。
話を具体的にするために、
「金より大事な友情がある」だとしよう。

世の中には様々な考え方がある。
金と友情は別だと考えてもいいし、
金の切れ目が縁の切れ目になることもあるし、
使い分けをすればいいと考えるむきもある。
それらの中で、
主人公は「金より大事な友情がある」という価値を、
己の行動で、クライマックスに証明するはずだ。

敵対者は、それに対して最も障害となる者をいう。
権力者で力の及ぶ範囲が大きいことや、
単に背が高いこともあるし、
年齢が上のことも多いだろう。
とにかく主人公の行動について、妨げとなる者であればいいわけだ。
(ジャバ・ザ・ハットは物理的に妨げとなるキャラだ)

さて、敵は物理的に妨げとなるだけでなく、
思想的にも妨げになったほうが面白い。
そいつを負かすことが、主人公の価値の証明になるからである。

ということで、敵の思想は、たいてい主人公と真逆になる

この例でいえば、「金は友情に比例する」だとしよう。


さて、このような敵をどうやってつくるかである。


二通りある。

主人公の価値、テーマを決めて、逆算で敵を真逆につくる。
憎い敵を先につくり、それに反論する形で主人公の価値、テーマをつくりあげる。

どちらが先というわけではないし、
どちらが優れているわけでもない。


たとえば、「てんぐ探偵」では、
憎い敵、すなわち妖怪から先に考えることが多い。
腹立ったことや理不尽なことを、
なるべく戯画化できるような妖怪を先に思いつき、
それへの反論を考える。
本来人間があるべき価値を結論にする構造になっているわけだ。
だからシンイチ少年は、素直で性善説的でなければならないのである。

ドラマ「風魔の小次郎」は、
主人公小次郎が何を証明するのかを先に考えた。
明るく熱血なお調子者。
仲間を大事にする心。
(ここまで原作準拠)
それはつまり、従来の掟に縛られた冷たい忍ではなく、
新しいタイプの忍になるということ。
(ここ創作)
ということで、敵対者には、
従来の掟に縛られた冷たい忍を配置すればいいわけである。

最初の敵対者は、長兄竜魔である。
つまり父親だ。
この物語は少年がアイデンティティーを確立させる話であるから、
父親との衝突と乗り越えは不可欠なのである。

夜叉は実は敵ではない。敵だけど。
本当の敵対するものは、旧来の価値なのである。

勿論夜叉は旧来の価値の忍であり、
かつ風魔の仲間の絆と真逆の価値を代表させて、
みんな自分のことしか考えていない、
ということを強調している。
すべてはコントラストだ。
(単純な図式にならないように、
壬生、武蔵、確変要素のトリックスター陽炎を配置している)


さて、
あなたは何をテーマとして書こうとしているのか。
テーマはモチーフ(書く物理的なもの)ではない。
モチーフの中で行われた物語が、
結果として残す意味である。
最初の例でいえば、
金と友情はモチーフにすぎない。
連帯保証人の書類や、会社や不動産や株がモチーフになるかも知れないし、
女がモチーフになるかも知れないが、
それで行われた物語は、
結局、「金より大事な友情はあるよね」という結論に収束するだろう。

先にこのようなテーマが決まっているならば、
敵対者を、一見それより正しい世間的な解、
たとえば合理主義者として創作すればいいわけだ。
アンタゴニストに相応しい役になり、
作中で価値のコントラストを描けるだろう。

逆に、テーマがまだ曖昧ならば、
倒すべき敵から創作するという手もある。
むかつくけど世間では正解だと思われること
(たとえばコミュ充)をその価値として、
その倒し方を工夫していけば、
おのずと、その逆の価値、テーマが浮き上がってくるというものだ。
(てんぐ探偵はこの作り方をしているので、
毎回のテーマは出てくるが、全体のテーマが見えてきにくい欠点がある。
まあ、闇の反対なので、心に炎を、というところが落ち所なのは予測できるわけだが)


主人公と敵対者、どちらから作ってもいい。
コントラストを徐々に作っていくことだ。
そして最終的に、そのコントラストが作中で最も強いコントラストになれば、
テーマがくっきりと見えてくるだろう。
posted by おおおかとしひこ at 12:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック