2016年09月30日

「あ」という言葉のニュアンス

Superflyの「Ah」という曲を知った。
なんと全編歌詞「Ah」というとても実験的な曲だ。

さて実験だ。
「Ah」でどれだけの種類のニュアンスを伝えられるか、想像してほしい。
答えは動画検索すれば出てくる。


昔ダウンタウンとウンナンの深夜コント番組「夢で逢えたら」の中の、
一コントを思い出す。
「あ」というセリフがうまく言えず、
散々色んなニュアンスでやるがうまくいかず、
掃除のおっさんの「あ」という自然な「あ」を聞いて「それやー!」というやつ。
「○○みたいな感じで」と色んな指示を出す監督、
毎回違うニュアンスの「あ」を頑張って言う役者。
複雑な言葉と「あ」という発声だけでニュアンスを伝える、
見事な対比のコントであった。

この「Ah」という曲は、
たぐいまれなる表現力を持つ、ボーカルの越智志帆ならではある。


さて、あなたの書く台詞は、
ここまでニュアンスを使い分けて文字を書いているだろうか。
「あ」という文字ひとつに、
この文脈でしかあり得ない「あ」を書いているだろうか。
文字だけでは伝わらない。文脈や気持ちだけが伝えられる。
脚本には「あ」という文字を書くのではない。
「あ」という文字で表現されるべき、文脈や感情の経緯を書くのである。


僕が芝居の話をするとき、良く出す例が、
「六本木の乳首おじさん」である。
まだ六本木に防衛庁があった頃、
キャバクラ通りの交差点にいたキャッチのおじさんだ。
その人は「乳首」しか言わない(おっパブの客引きと思われる)のだが、
その人は七色のニュアンスの「乳首」を言えるのである。
「乳首? 乳首。…乳首。ち、く、びっ。乳首! 乳首乳首!」と、
文字に起こせばこんな感じである。
まったく伝わらないかも知れない。
七色のニュアンスの乳首の言い方はぜひ録音して、
俳優希望の人の勉強材料にするべきであった。
あなたは何種類のニュアンスで「乳首」と言えるだろうか。
試す価値はある。
(たとえば「乳首」しか言わないのに激怒を伝える場面だって創作可能だ)


逆に、同じ言葉でも言い方次第で、
意味を変えることが出来る。
これが台詞の面白さであり、凄さだ。
posted by おおおかとしひこ at 23:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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