2016年09月30日

膨らませること

てんぐ探偵十六話「涙目は、炭酸のせいにした」は、
もともとCM(3分ぐらいのWebムービー)の形をしていた。

その元原稿と比較することで、「構造」の話をしてみたい。


もともと、アサヒ飲料の販売する、
「ウィルキンソンタンサン」という強炭酸水のWeb CMをつくろう、
という仕事だった。
アサヒさんはギャグやカッコイイのが好きなので沢山そういうのを出したのだが、
そればっかりで飽きてきたので、得意なストーリーものを混ぜたろ、
という思いでこれを書いた。(結局、プレゼンには間に合わなかった)

二番目の彼女.pdf

登場人物名は全然違うけど、
物語の主幹構造はほとんど同じである。

「先輩に片思いした女子高生が、
『二番目の彼女』となって付き合うが、
何股もかけられていた」という物語構造、

主人公と話を聞いてくれる親友、
先輩と一番目の彼女、という人物関係の構造、

序:好きになる→一番目の彼女がいる
破:告白して「二番目の彼女」になる→キスされてのぼせる
急:あとをつけて何股であることを知る→海辺で親友に全てを話し、別れの涙を炭酸でごまかす
という時間軸の構造、

「恋は人を変える」というワードの繰り返しの構造
(最初はポジティブな変わり方を意味するが、
ストーリーに応じて意味合いが変わってくる)、

などはどちらも同一だ。


決めになる言葉は、もともと「涙目は、ウィルキンソンのせいにしな」
というちょっとカッコつけた、親友から言われたものだったが、
小説版では「涙目は、炭酸のせいにした」という、
自分で自分を誤魔化した、一人称的な言葉になっている。
(この一人称のために、慣れない一人称小説をはじめて書いてみたわけである)

三人称と一人称の差こそあれ、
これらの構造はすべて同一であることを確認しよう。


CMから小説に至る変化は、要するに「膨らませた」わけだ。


具体的には、

・「二番」は妖怪のせいだ、という構造にし、てんぐ探偵のパラダイムに持ち込む
・主人公を好きだという男(中距離走)も出し、四角関係へと膨らませる

・片思いの瞬間をちゃんと描く。棒高跳びの飛ぶ瞬間は美しい。
(そのために低く入る。数学のカバ島のつまらない補習からスタートする)
・ウィルキンソンのCMではないので、
強炭酸水のエピソードを随所に入れ込んで小道具的なイコンにする。
(先輩に一番の彼女が渡して頭からかぶる、帰りに自販機で買って無理やり飲む、
遠征試合についていく時に懐に忍ばせる、すべてが終わって残ったのは炭酸水)

・遠征試合、キスを目撃されていて告白される、マックで話す、
忍び込んでスマホにいたずらし朝までそれを眺める、
などのシーンを随所に追加し、ストーリーのふくらましと収拾をつくる
(結局「二番なんて意味がない」という思考にたどり着くことが妖怪退治になる、
という話なので、主人公の心のターニングポイントを描ければいいわけだ)


などがその具体的なものである。



さて。
これは、主幹構造が同一で、ふくらました例である。
ラストだけ少し意味合いが変わっている
(「別れる/別れないを明言しないが、別れることは決めている」と、
「別れを明言する」の差だ。
しかし別れを心で決めているという点では同一)
が、主幹構造は同じといえるレベルだ。


改変にはいろいろある。

主幹構造を変えるべきかどうかを判断するとき、
「その主幹構造でいえることは何か」を考えると俯瞰しやすいかもしれない。
変えずに、枝葉を膨らませるだけで良い、という判断をするのか、
この主幹構造ではテーマにたどり着けないと判断するのかは、
俯瞰視点にいないと判断できないだろう。

また、ふくらませが下手だと、
主幹構造を変えるものを足してしまうかもしれない。

この場合、主人公に告白してくる男は、
「二番でいい」という主人公を逆から見た像になっているので、
テーマの鏡像となりとても効果的である。
これがただの片思い男ならば、
「膨らませ」ではなく、「薄めてのばした」ものになるだろう。

膨らませるときに失敗するのは、
このように主幹構造への影響を見誤ったときではないだろうか。


膨らませる、という言葉を使うのは簡単だが、
主幹構造を維持するのか変形するのか、
変形するとしたら最終的にどういう構造に変えるのか、
そういう議論を自分の中でしてみるといいかも知れない。
posted by おおおかとしひこ at 23:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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