物語は変化を描くものである。
ということは、変化しないものと対比すると、
変化を分かりやすく見せられる。
動かない背景の前で走る人は、何が起こっているかわかる。
あるいは背景が流れているが、走っている人が見かけ上同じ場所なのも、
何が起こっているかわかる。
背景も流れて人も走っていたら、
何が起こっているか厳密に分かりにくい。
動かないものを、不動点と呼ぶことにしよう。
人の変化を描くわけだから、
それに対する不動点は、
たとえば変化しない人だ。
故郷の両親、先生、昔からの親友などは、
不動点としてよく使われる。
「お前は本当はそんなやつじゃない」
「お前は本当はこういうやつだろ?」
「お前ならやれると思ってた」
「やっぱりお前だ」
「昔からそうだ」
「前と同じ失敗を、またするのか?」
「変わってないな」「変わっちまったな」
なんて台詞は、彼らの定番だ。
不動点から見てどう変化したかを、
描きやすいからである。
不動点は人でなくてもよい。
実家に残してきた昔飼っていた犬、
場所、
モノ(写真や思いの込められたブツ。タイムカプセルが分かりやすい)、
皆の共通の思い出、
などが使えるだろう。
ちなみにカメラで人を撮るとき、
動きを表現するには4つの基本がある。
人が動いてカメラは不動。
人は不動でカメラが動く(背景が動く)。
人の動きとカメラの動きが同方向(並走、追ける。背景が動く)。
人の動きとカメラの動きが逆方向(カウンター。動きが倍に強調)。
これ以外の動きは、
動画撮影をしてみると分かるけど、
「本当はどんな動きをしてるか、分かりにくい」はずだ。
たとえば人とカメラが90度の関係で動くとかだ。
30、60、120などに変えても同様で、
互いのスピードを変えても分かりにくいよ。
人が真っ直ぐ歩いていることすら、地面に線を書いても分かりにくい。
(逆にこれでトリック撮影をすることが出来る)
つまり、
不動点と動点の関係を描いて動きを表現する、
動点の動きを合わせる(たとえば同期と出世が同時とか)
または真逆にする(たとえば一方が悪に転落、他方が正義に)、
などをやることが、
変化を分かりやすく描きやすいのである。
またまたてんぐ探偵「涙目は、炭酸のせいにした」
を例にとると、
不動点は親友のヨリ子だ。
彼女の冷静な目線が、恋に振り回される奈々と対比的になり、
ヨリ子から見て、奈々の変化が描かれるわけなのだ。
小説では、「語り手」と呼ばれる立場の一人称も、
その不動点に該当するだろうね。
以下、不動点を生かした作例をいくつか。
会社は変わらないのに、人は入れ替わってしまった。
写真の笑顔を、彼はもう見せない。
最初の頃の思い出は同じなのに、メンバー全員変わってしまった。
第一印象しか覚えてないけど、随分変わったね。
激動の中、ずっと同じ場所で写真を撮り続けた人がいる。
コンビニの定点カメラに、事件前の彼女が写っていた。
故郷の誰もが、彼の出世を予測できなかった。
神は見ている。
三十年前の約束を、彼は守り、彼女は忘れた。
この野球部を、ずっと世話してきたグラウンドキーパーがいる。
家政婦は見た。
月は年に数センチずつ、地球から離れている。
あいつだけだよ。出ていったのは。
私を通りすぎていった男たち。
2016年10月13日
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