2016年10月13日

不動点

物語は変化を描くものである。
ということは、変化しないものと対比すると、
変化を分かりやすく見せられる。

動かない背景の前で走る人は、何が起こっているかわかる。
あるいは背景が流れているが、走っている人が見かけ上同じ場所なのも、
何が起こっているかわかる。
背景も流れて人も走っていたら、
何が起こっているか厳密に分かりにくい。

動かないものを、不動点と呼ぶことにしよう。


人の変化を描くわけだから、
それに対する不動点は、
たとえば変化しない人だ。

故郷の両親、先生、昔からの親友などは、
不動点としてよく使われる。

「お前は本当はそんなやつじゃない」
「お前は本当はこういうやつだろ?」
「お前ならやれると思ってた」
「やっぱりお前だ」
「昔からそうだ」
「前と同じ失敗を、またするのか?」
「変わってないな」「変わっちまったな」
なんて台詞は、彼らの定番だ。

不動点から見てどう変化したかを、
描きやすいからである。

不動点は人でなくてもよい。
実家に残してきた昔飼っていた犬、
場所、
モノ(写真や思いの込められたブツ。タイムカプセルが分かりやすい)、
皆の共通の思い出、
などが使えるだろう。


ちなみにカメラで人を撮るとき、
動きを表現するには4つの基本がある。

人が動いてカメラは不動。
人は不動でカメラが動く(背景が動く)。
人の動きとカメラの動きが同方向(並走、追ける。背景が動く)。
人の動きとカメラの動きが逆方向(カウンター。動きが倍に強調)。

これ以外の動きは、
動画撮影をしてみると分かるけど、
「本当はどんな動きをしてるか、分かりにくい」はずだ。
たとえば人とカメラが90度の関係で動くとかだ。
30、60、120などに変えても同様で、
互いのスピードを変えても分かりにくいよ。
人が真っ直ぐ歩いていることすら、地面に線を書いても分かりにくい。
(逆にこれでトリック撮影をすることが出来る)


つまり、
不動点と動点の関係を描いて動きを表現する、
動点の動きを合わせる(たとえば同期と出世が同時とか)
または真逆にする(たとえば一方が悪に転落、他方が正義に)、
などをやることが、
変化を分かりやすく描きやすいのである。


またまたてんぐ探偵「涙目は、炭酸のせいにした」
を例にとると、
不動点は親友のヨリ子だ。
彼女の冷静な目線が、恋に振り回される奈々と対比的になり、
ヨリ子から見て、奈々の変化が描かれるわけなのだ。

小説では、「語り手」と呼ばれる立場の一人称も、
その不動点に該当するだろうね。


以下、不動点を生かした作例をいくつか。

会社は変わらないのに、人は入れ替わってしまった。
写真の笑顔を、彼はもう見せない。
最初の頃の思い出は同じなのに、メンバー全員変わってしまった。
第一印象しか覚えてないけど、随分変わったね。
激動の中、ずっと同じ場所で写真を撮り続けた人がいる。
コンビニの定点カメラに、事件前の彼女が写っていた。
故郷の誰もが、彼の出世を予測できなかった。
神は見ている。
三十年前の約束を、彼は守り、彼女は忘れた。
この野球部を、ずっと世話してきたグラウンドキーパーがいる。
家政婦は見た。
月は年に数センチずつ、地球から離れている。
あいつだけだよ。出ていったのは。
私を通りすぎていった男たち。
posted by おおおかとしひこ at 22:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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