2016年11月10日

何故トランプが勝ったのか

脚本論の立場から、分析してみよう。
彼の存在が、劇場的だったからである。


以前、大塚家具の父娘騒動についても言及した。
マスコミが盛り上がり、世間が動くのは、
「それが劇場的になったとき」である。
映画的、物語的になったときだ。

大塚家具は、「父と娘の宿命的メロドラマ」というストーリーに皆心酔した。
今回は、「敵を攻撃し、味方をまとめる」ストーリーである。


組織心理学で有名なのは、「仮想敵国の原理」だ。

「敵がいる。皆で団結してその敵を倒そう」というストーリーに、
人は心酔する、という原理だ。

これはこのストーリーが人気で、鉄板である、という経験則であり、
「なぜそうなるか」は解明されていない。
(集団的狩りの名残り、という仮説は可能だが)

問題は、この敵は、「実在しなくてよい」ことである。
だから「仮想敵国」という。


仮に、ナチスが善人だったとしても、
「ナチスは極悪非道の大悪党であり、
我々は団結してこの悪を倒さなければならない」
と演説すれば、国内がまとまる、ということなのだ。
これは米ソ冷戦時代、実際に使われた論法だ。
米国内を安定させるため、反資本主義=共産主義を仮想敵とさだめたのである。
(ちなみにこの話をもっとかみ砕いた話が、てんぐ探偵でも出てきます。
妖怪「スケープゴート」の話)


さて、トランプ。

まさかトランプ当選とは、と良識ある人間ならだれもが落胆するはずだ。
トランプは、色んなものを敵とした。
ヒラリー、メキシコ、日本、その他その他。
敵がいると内部がまとまる。
我々は外からアメリカを見ているから、アメリカは何を外に敵を作ってるんだ、
と客観的に見れる。

しかしアメリカはそうではない。
アメリカからトランプのフィルターを通してみれば、
周りは敵だらけなのだ。
国内でまとまるべき時がやってきたのだ、ということである。

アメリカは、ナチスを倒し、ソ連を倒し、フセインを倒した。
アラブは倒せなさそうだ。
だから、新たな「敵」が必要だったのだ。


「敵を倒すために、皆が団結する物語」は、燃える。
たとえば「インディペンデンス・デイ」の大統領演説シーン。
「シン・ゴジラ」の演説シーン。
「大義名分のために、ひとつになる」のは燃えるのだ。
ベッキーを叩いたり炎上したりする心理は、卑近だがそういうことである。

USA! USA!と、「センテンススプリングゆるさん」は、同根の心理である。
それぐらいひとつになることは気持ちいい。
それほどに、我々は孤立がおそろしいのかもしれない。



人類は、この「性癖」に自覚的になれるだろうか。
そこのところは分らない。

ただ、「最強になってしまった少年漫画の主人公」は、
もはや面白い物語を持てないことは、私たちはよく知っているはずだ。
孫悟空しかり、ラオウ後のケンシロウしかり、マトリックスのネオしかり。

「物語は、敵を必要とする」のかもしれない。
posted by おおおかとしひこ at 01:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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