長年CMをやってるので、僕は海外のCM事情も多少知っている。
海外のCMは15秒がなく、30秒以上が基本だ。
だから通販みたいな延々と説明するやつか、
しっかりしたストーリーがあるやつしかない。
そして面白いのは後者だ。
ところで、そういうCMには、
タグラインと呼ばれるものがあり、
それはパンチラインと呼ばれるものと、
ほとんど同一であることに気づいた。
タグラインとは、
面白いストーリーや感動するストーリーを流して、
最後に一行入る、
キャッチコピーのようなものだ。
25秒ぐらいのストーリー
→黒ベタに白文字でタグライン
→商品カットまたはロゴ
なんて構造が、一番いいとされている。
タグラインは、ストーリーの落ちでなければならず、
かつ、商品やロゴに繋がるものでなければならない。
広告は逆算だと言われるが、
商品やロゴ(企業理念)→そこに落ちるタグライン
→そこに落ちるストーリー
と、逆算で作らなければいけないわけだ。
タグラインの例は海外CMを沢山集めたサイトなどがあるかも知れないので探してくれたまえ。
ここでは一例だけあげておく。
一度引退した水泳選手が、
カムバックするセミドキュメント。
台詞はなく、いい音楽とSEだけだ。
(僕は知らなかったのだが、この人は有名選手らしい)
暗闇のプールでバタフライをして、
何故だかそのレーンだけに光が当たっている、
というキービジュアルを中心に、
日々の過酷な練習をセミドキュメントで追う。
長いプールを泳ぐ様が、カムバックへの道のりを象徴しているわけだ。
激しい絵と、
何故だか優雅でやさしく哀しい感じの歌が対比的だ。
ゴールするかどうかまでは描かず、
ラストに黒に落ちて、一行のタグラインが入る。
「暗闇の中でやってきたことが、あなたを光の中へ連れていく。」
企業ロゴはアンダーアーマー。
ナイキのようなスポーツメーカーである。
(渋谷109を背にして右側にあるよね)
僕はこの120秒を見るたびに思わず泣いてしまう。
最後のタグラインにいつも泣かされる。
去年のカンヌ広告祭のフィルムクラフト部門グランプリである。
多分まだどこかで見れるので、是非検索して頂きたい。
さて、
タグラインはパンチラインと殆ど同じ機能である。
ただし、広告として、
ストーリーの落ちでなければならず、
かつ企業や商品に落ちなければならない、
ということが、
パンチラインに付加されているだけだ。
どちらも、
強烈なパンチ力がある言葉が必要で、
記憶に残りやすい必要がある。
前者を強調すればパンチ、後者ならタグ、という言葉なわけだ。
そして、一行に収まるレベルがいい。(ライン)
それはそのぐらいの一撃が、
人に印象を与える、という経験則だと考えられる。
さらにそれは、
これまでのストーリーを包括した、
落ちにならなければならないわけだ。
落ちだから、うまくいけばテーマを示すことになるだろう。
この話は一体なんだったのか、
どういう意味があったのか、
という意味合いだ。
アンダーアーマーの例はまさにそこが上手い。
(かつアンダーアーマーという企業理念に落ちているわけだ)
アメリカやヨーロッパの白人文化は、
日本にない、こういう暗黙のルールで、
ストーリーものやジョークを作っている、
というわけなのだ。
ジョークはなかなかテーマまで行かない。
たいていは「人間は下に弱い」とか、
「女はバカだ」という所に落ちるけど、
先日のアヒルを踏んじゃいましたは、
「女は自分だけはブスじゃないと思っている」
というテーマを示し、かつ笑え、かつ叙述トリックに感心するわけなのである。
さらに言えば、
テーマを明示するのがタグライン、
テーマを暗示するのがパンチライン、
だとも言える。
あなたは明示と暗示、どっちが上手いかな。
明示するのがうまければコピーライターが向いてるかも知れない。
暗示がうまければ、ジョーク作家になれるかもだ。
いずれにせよ、
落ちに短く強い一行を持ってくることは、
向こうの文化的慣習なのである。
日本でも「今度は濃いお茶がこわい」
(「人間の欲望は限りない」がテーマだと考えられる)
なんてパンチラインで落とすジョークもある。
また、映画の場合、
それを言葉ではなく、ラストシーンの「絵」で示すものもある。
それを称して名画という。
ぱっと思い出せるのは、
「第三の男」「風と共に去りぬ」あたりかなあ。
パンチラインという言葉ではなく、
パンチピクチャーとでも呼ぶべきか。
たいていラストシーン、という言い方になるけれど。
パンチのあるピクチャーで言えば、
「猿の惑星」もそうかもね。
我田引水をするけれど、
「てんぐ探偵」の魅力のひとつは、
このパンチラインではないかと考えている。
ラストの締めの言葉が、毎回僕は好きだからだ。
淡々と事実で終わる場合はパンチピクチャーで(「静かな朝」など)、
言葉でニクイねえと終わる場合はパンチラインな気がする(「結婚の提案」など)。
あなたは、どんなパンチラインを書くのか。
あるいは、どんなパンチピクチャーを書くのか。
ある作家は、最後の一行と最初の一行が決まれば、
全体は決まったようなものだと言う。
それはテーマが確定した、ということである。
ラストに、僕の好きなパンチライン&ピクチャー。
「嵐が来るぜ」「知ってるわ」
黒雲の湧く長い一本道を、車が走って行く。
辛い未来が来ることを知りながら、
そこに闘いにゆく強い決意を示した、
傑作「ターミネーター」のラストシーンである。
あ、あともう一個。
「盗んだのは、あなたの心です」(ルパン三世カリオストロの城)
2016年11月20日
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