2016年11月29日

シーン尻を、一発で決めろ

最後の印象が一番強い。
ラストシーンやクライマックスのことを思い出すといい。

これはシーン単位でも同様である。
シーン尻が一発で決まっているシーンは、
それが強く印象に残る。


「アンタッチャブル」から例を引いてみよう。
大きく言うと巨大ヤクザを撲滅する、
警察の特別チームの話だ。

中盤、
ヤクザのボス、アルカポネが、
ヤクザの幹部仲間を50人くらい招いたパーティーの場面だ。

円卓に皆を座らせ、
全員平等だということを強調する。
ホストのアルカポネの演説からシーンは始まる。
なお直前のシーンでは、
密輸がバレて、アルカポネ側が大打撃を被るシーンがある。
彼が何を言い出すのか、ぶちきれやしないかと、
幹部たちは戦々恐々としているのだ。

ところがそれを裏切って、
アルカポネはにこやかに、
「私の好きなのは、野球だ」と、
木製バットを取り出して言うのである。
「一人でやっていては勝てない。
チームで勝つから好きなのだ。
チームは素晴らしい。
一人ではなくチームのために働く野球を私は愛する」と。

これは、抜け駆けするな、裏切るなよという脅しだと、
どの幹部も分かりながら、
表面上は野球の話をにこやかに聞いている。

で、一際「チームだ」とおうむ返しににこやかに笑う幹部の前に、
アルカポネが立ち止まり、
やおらバットでその男の後頭部へ振り抜くのである。
一撃だけでなく、
テーブルに突っ伏したその男の後頭部を、
何度も何度もバットで叩く。
白いテーブルクロスに血が広がっても、
周りの者は何も言えない、という、
バットスイングが強烈な印象に残るシーンである。

これはセリフを用いていない、
一撃で決めた例である。
この行動で、
アルカポネは、「チームで私のために尽くすならばにこやかでいよう。
しかしチームに迷惑をかけるやつは叩き殺す」
ということを、バットで後頭部を殴る音で表現したわけだ。


いつアルカポネが切れるのか、
びくびくしながら始まったパーティが、
彼の演説で笑いすら起こるにこやかなものになる。
一見話がまとまったと見せておいての、
それを覆すフルスイング。

前ふりの焦点、ターニングポイント、
伏線(小道具としてのバット)の使い方、
無言という最良の台詞など、
映画的演出の効いた、理想的なワンシーンのひとつだと思う。

しかも美学が効いていて、
パーティはほとんど白のテーブルや椅子で表現されている。
もちろん、ラストの血を効果的に見せる為である。
(この映画は、何故かデ・パルマが真俯瞰のショットに凝っていたらしく、
巨大円卓に突っ伏す死体と流れ出る血と、おののく幹部たちが、
真俯瞰で捉えられるという変わった演出をしている。
ワンショットで全てを捉える、という意味でも、
シーン尻を一撃で決めているわけだ)
(ちなみに記憶だけで書いているので、細部が間違っている可能性があります)


シーン頭、シーン中は、
印象や記憶には残らない。
ただスムーズに面白くいければそれでよし。
勝負はシーン尻だ。
印象的な一発で決めて、
感銘を与えよう。

なるほど、と思わせたり、
すげえ、と思わせたり、
こええええ、と思わせたり、
これからどうなっちゃうんだ、と思わせたりしよう。


短編のラストに匹敵する、
シーン尻を作ろう。
その瞬間、私たちは観客席に座っていることを忘れる。
つまり、映画の世界のなかに入り込む。
posted by おおおかとしひこ at 00:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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