2016年12月19日

ハイコンテクストとローコンテクスト2

ハイコンテクスト表現は、省略技法である。
みんな知ってる部分は表現に入らない。
それは、ややもすると甘えになるわけだ。


ハイコンテクストは説明が不要である。
お互いの了解事項が多いから、
説明を省略して本題に入れる。

だけどそれを知らない人からすれば、
何を言ってるか分からない。
合コンの場で、急に同郷出身者であることが分かり、
地元トークに花が咲く場面を思いだそう。
本来ローコンテクストではじめましての場に、
いきなりハイコンテクストがぶちこまれるわけだ。
当人二人が楽しそうなのは分かるので、
ある程度は泳がせる程度のマナーは皆持っているが、
ハイコンテクストの会話は、
ローコンテクストにはイミフであることは、
ローコンテクスト側にいれば分かることだろう。

で、盛り上がったふたりが、
ポカンとしてるみんなにハイコンテクストを説明しようとして、
いつもうまくいかない感じを想像するとよい。

ハイコンテクストをローコンテクスト側に説明するのは、
とても困難である。
説明がとてもうまくないといけない。

他の例をあげると、「自分の気持ち」かもだ。
自分の気持ちを他人に説明するのは困難だ。
自分の気持ちは、それまでの人生すべてのハイコンテクストから導かれる。
それを知ってるのは自分一人であり、
そんなの他のやつから見たら知らんがな、
ということにしかならないわけだ。
その時の、「察してくれよ」は、
ハイコンテクストを前提としない人には、
甘えだと感じるわけである。

日本の社会においては、
これを察してあげることを強制される。
空気を読むというのはこの一部であり、
事前に調べたおしておくのもこの一部であり、
恋人同士になるというのもこの一部だろう。
転校生の経験があれば、
そのハイコンテクストへの馴染みの困難の経験を持つだろう。

しかし、それは、そのローカル社会を知らない人にとっては、
知らんがな、なのである。

ハイコンテクストは、だから排他的だ。
田舎社会もハイコンテクストだ。



あなたの表現が、
どれだけ一般性があるかは、
ハイコンテクストかどうかに関係している。
僕の書く文章も、ある程度のハイコンテクストを持っているから、
読者を選ぶかも知れない。
一応最初から全部読めばローコンテクストになっているのだが、
最初からここまで追い付くだけの労力を払う人はいないだろうし。

さて。

作品というのは、
文脈から独立して成立するべきだ。
ハイコンテクストであるべきではない。

たとえばハリウッド映画によくある、
「これはキリスト教の○○のエピソードを下敷きにしているのだが、
日本人には馴染みが薄いかも知れない」とか、
「これは世界情勢を巧みに反映していて、
○○は△△の比喩なのである」なんてのは、
ハイコンテクストなわけだ。
そこを説明しないと分かんないよね、
というのはハイコンテクストなわけだ。

ハイコンテクストのものは、
その範囲が及ぶものには効果的だが、
それが及ばないものには弱い。

ローコンテクストなものは、
だから国境を超えるし、時代を超えるわけである。
(映画の解説というのは、だから、
ハイコンテクストをローコンテクスト側にうまく説明することだろう。
たとえば「イントレランス」がなぜすごいかの理由に、
「テーマパーク並の巨大セットを作った初めての映画。
ただしストーリーは出来が悪く、当時の人々もちんぷんかんぷんだった」
というのがないと、その歴史的価値は分からない)


あなたの提供する娯楽は、
ハイコンテクストなものか?
ローコンテクストなものか?

ハイコンテクストならば、
それは甘えかも知れないと疑おう。

CMの世界では、それはおばちゃんにも分かるか?
と言われることがよくある。
ローコンテクストを意識せよ、ということである。

テレビは中二程度のローコンテクストを基準としている、
とよく言われる。
それは、説明の基準のはずなのだが、
いつの間にか知的レベルの基準になり、
テレビはバカの見るものになってしまったわけだ。

ローコンテクストはバカなのではない。
知らないだけで、説明されれば分かる知的レベルはある。
外人の日本語がたどたどしいからと言って、
彼らが大人の知性を持っていない訳ではない。


説明とは、逆に、ローコンテクストな人に、
ハイコンテクストの側に来させる方法である。

映画が何故説明と切り離せないかの答えがこれだ。
文学とは、ローコンテクストからはじめるべきで、
それで構築した文脈の範囲内で、
ハイコンテクストな表現になるからである。
posted by おおおかとしひこ at 09:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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