2017年01月29日

話の構造の具体例2

俳優のワークショップ用に書いた、次の原稿を例にとる。


「自販機の霊」

二人芝居。コント。
河原に自販機だけがある。


A、ジョギングの一休みに飲み物を買おうとする。
しかしマイナーメーカーの自販機なので、
微妙な飲み物ばかり。
しかも一番誰も飲まなさそうなやつも。
誰が飲むんだよとツッコミを入れると、
その飲み物がガタンと出てくる。

誰か見ているのかとあたりを見るも誰もいない。
と、うしろからBが現れる。
Bは幽霊で、その飲み物の味が気になって成仏出来ないのだという。
無念に思ってるうちに、自販機からそれが出てくる力を手に入れたのだが、
さわることも飲むことも出来ない。
そこで、どんな味か説明してくれと。

A、意を決して飲むが、まずい。
どうまずいかを詳しく、とB。

(以下アドリブで、どんどんその味に迫っていく)

ついに満足したB、成仏。
A、ようやく飲み物を買おうとしたら、
また別のまずそうな飲み物がガタンと出てくる。
Bがそれも気になってたんだよなあ、と出てきておしまい。


この話を、台詞を決めず、アドリブで俳優にやらせるわけだ。
自販機から勝手に出てくるところはアップで撮ればいいから、
あとはヒキのワンカットで撮れる。


中間部、いかにまずいかを表現するのは、
言葉でもゼスチャーでも構わない。
明後日の方向へいったり、天丼しても構わない。
Bがどう納得したいのかを無茶ぶりすることもできる。

また、冒頭の「マイナーなメーカーの聞いたことない飲み物だらけ」
に伏線を張っておかなければならず、
それが落ちになるようにしておく。


つまり。

この小話は、
台詞に頼らない構造を持っている。
その構造さえ守れば、アドリブで進めることができるわけだ。


それはなんだろう。

基本設定:
A: ジョギング途中にさわやかな飲み物を飲みたいこと
B: 成仏したいので、一番まずい飲み物の味を教えてほしいこと
が、
コンフリクトを起こしている、ということだ。

Aの目的は、言葉で説明しなくとも動作(絵)で分ることだ。
逆にBの目的は説明しないと分らない。
うまく説明する能力が必要になる。

一方、「一番まずい飲み物の味を、想像できるように説明する」
というのがこの話のセンタークエスチョンだ。
どうやっても構わないというアドリブで進められる。

また、「この任務を無視できない」といい枷が緩くある。
Aはのどが渇いているので、さっさとこれを終わらせたい。
自販機にコイン入れてボタンを押しても、そのまずいやつしかでない、
この河原にはどっち行っても2キロは自販機もコンビニもない、
なんてすればいいからである。
どうしてもこのまずい味をレポートしなけりばならない、
という状況に追い込めば追い込むほど面白くなるわけだ。

落ちはさらにもう一本別の、といういわば天丼落ちである。

とくにテーマはないが、
「こういう変な自販機、たまにあるよね」
という不思議な共感がテーマと言えばテーマか。



脚本を書くという行為は、台詞を書くことではない。
殆どの文字は台詞だし、
俳優は、台詞を覚えることが脚本を覚えることだと勘違いしがちだ。
だから、わざと台詞のない脚本を作ってみたわけだ。

脚本を書くという行為は、
話の構造をつくることなのだ。

たとえばこの例では、
「たがいに矛盾する二人の目的」(コンフリクト)
「それを避けて他にいけない理由(どうしてもそれをやる理由)」
「対決そのものの面白さ」
「落ち」(で確定するテーマ。この場合コントなので笑えること)
が、その構造のパーツであることが分る。



逆に。

話の構造さえ守れれば、台詞は大して重要ではない。
構造を壊してしまう台詞や新要素は、注意深く除く。

これさえできれば、脚本は出来たも同然なのだ。

台詞でうまいこと言うのは、文筆家として必要な能力だけど、
台詞の良さよりも、話の構造のほうがだいじなのである。



ちなみに、紙に向かって書かずに、
身体を動かしながら言うと、
自然な台詞になったりするよ。


逆に、「あとは台詞をアドリブで書いて行けばいいか」と判断できたときが、
「話(の構造)ができた」という瞬間だと思う。

プロットもつくらずに、
設定だけつくって書きはじめたり、
キャラ設定だけつくって書きはじめたり、
最初の場面だけつくって書きはじめたりするようなやり方は、
台詞のやり取りはビビッドになるかも知れないが、
結局話の構造がないので、最後まで書けないのである。

できてない話をアドリブで完結させるのは、
困難どころか、
僕は不可能だとすら思うよ。
posted by おおおかとしひこ at 16:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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