2017年02月28日

言文一致運動は、まだ終わっていない

ことば全般の話なので、脚本論でやります。

昔鼻濁音の話から、「ん」の発音には数種類あるという話をしたと思う。
前記事の「ゎ」の話もある。
我々の入力する文字と発音は完全一致していない。

つまり、明治政府の奨励した、
言文一致は、まだ完成していないと言える。

近年の例では「あ"」(藤原竜也)が打てないとかね。
(今クォーテーション記号で代用している)


現代仮名遣いは、
実は我々の多様な発音集合より、
小さな集合である。

つまり我々の発音よりも、字のほうが少ない。
しかし、鼻濁音の「ん」をちゃんと発音する人が少ないように、
「ん」は今ひとつの音に収束しかかっている気もする。
「んーっと…」の「ん」かな。


で、本題の脚本論に戻る。

脚本に表記される台詞。
これは、最終型は「音」である。言文の言だ。
しかし脚本には「文字」で書いてある。言文の文だ。
そして、言文は一致していない。
この違いをちゃんと分かってる、
脚本家および、脚本を読む人は、意外と少ないんじゃないかな。

脚本を「よみもの」のように読んではいけない。

たとえば小説や評論や随筆は、
言文の文である。
目で文を見て、目で理解する。
漢字の意味は視覚で分かり、構成が内容の構成であることも、
視覚的に理解する。
これらを全部よみものということにする。

よみものに、音は登場しない。
(頭のなかで声がするという人と、しない人がいるらしいことが、
研究でわかっている。前者は読書が苦手で、大量に読めない。
後者は黙読が速いので読書が得意になる。
僕は後者であるが、読書自体は嫌いだ。
左脳優位か右脳優位か、という違いの可能性がある)


だから、一見よみもののスタイルをしている脚本を、
よみもののように読むのは誤読である。

脚本は、音で理解されなければならない。
僕は脚本を楽譜だとよくいう。

同音異義語を避けるのは当然だ。
視覚的な構成(段落わけなど)は存在しない。
また、間など、よみものの表記法にないものがある。


僕がカタナ式をローマ字入力にしたのは、
脚本が「音」で表現されるものだからだ。

日本語には言文があり、それらは一致していない。
日本語の入力方法には大きく二種類ある。
ローマ字入力と、かな入力だ。
ローマ字入力は、言(音)を入力して確定する。
かな入力は、文(視覚的な字)を入力して確定する。

脚本は、音だ。
だから僕は、小説家じゃなくて、脚本家なんだなあ、
と感慨深く気づいてしまったわけだ。

脚本は小説ではない。
視覚的な文字はいわばどうでもよく、音だけが便りである。
ラジオドラマの脚本と、映画の脚本の差異はほとんどない。
小説に音はない。

一見、脚本と小説は似ている気がする。
しかし、音による表現と、視覚による表現という点で、
両者は対極的に異なるものなのだ。
で、しかも、言文一致運動は完成していない。


僕が小説家だったら、
カタナ式はきっとかな入力になっただろう。
頭のなかに出てくる文字は、文だっただろうからだ。

でも僕は脚本家なので、
頭のなかに出てくる文字は、言の形で出てくるようだ。
だからローマ字入力が、デフォなんだよね。


日本語入力のやり方には、色々あっていいと思う。
しかしこのような話は聞いたことなかったので、
書いてみた次第。
(そもそも脚本家かつ小説に日々悩み、かつ日本語入力に詳しい人、
というのがレアなのかもだが)

ちなみに漫画は?
台詞が文、オノマトペ(効果音)が言だよなあ。
でも、車田効果音「ザシャア」は、
言(実際の音)ではなく、擬態語に近いことが、
実際にドラマを作った僕の結論だ。
だから、オノマトペには、言と文が混在していると言える。


日本語にはふたつの表現方法がある。
言と文だ。
音と文字だ。

言文一致運動は、これらを一致させようとしてきた。
しかしネットスラングなどで、
言と文はまた分かれようとしている。
顔文字文化は言とはまた違うものだ。
(若者には、顔文字なら伝わるニュアンスも、
表情や言い方では伝わらないということもあるかも知れない)


私たちは、脚本を書こうとしている。
あるいは、その脚本は読まれようとしている。
(読まれることで、言が文と混同されている、
という製作委員会的な事情もありそうだ)

それは言であり、文でなく、
それは歌詞カードに似ていて、法律には似ていなく、
それはローマ字入力であり、かな入力ではないことを、
把握して運用しよう。

目で見るのと音で聞くのはちがうのです。
よく言われるこの言葉の背後には、
こういう議論が渦巻いているわけである。



あ、僕が小説がうまくかけないとずっと思っているのは、
僕の字の扱いが、脚本的だからかも知れないね。
posted by おおおかとしひこ at 13:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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