カタナ式の影に隠れておりますが、
てんぐ探偵は淡々と第三章を終えようとしています。
三章のオーラスは、転校生結城くんのお話。
僕この話が個人的に大好きで、
好きというとアレなんですが、
とにかく心から離れないんです。
多分、小学生の時の転校生、日下くんに似てるからかもなんだよなあ。
日下くんは転校生で、
初日から僕とばかり遊んでる子で、
で、越してきてからすぐ彼の誕生日があって。
まだ僕以外友達がいないんだけど、
日下くんの母親が気を使ったのか、
ケーキを奮発して、
日下くんちで食べようということになった。
家が近くの、マンションの4階から6階あたりのどこかが、
日下くんちだったと思う。
その時の三つのエピソードだけが記憶に残っていて、
ひとつはお母さんに「ずっと友達でいてね」と言われたこと。
はい!と明るく答えるような子供じゃなかったので、
うん、と頷いたぐらいだったかな。
友達なんてそのうち一杯出来るだろうし、
なんてその時は思っていた。
僕の友達をなぜその誕生日会に呼ばなかったのか、
記憶にない。
なにせまだ転校してきたばかりで、
僕しか呼ぶ子がいなかったのだ。
二つ目は、引っ越してまだ荷物が完全に片付いていない日下くんの勉強部屋で、
日下くんが足を椅子の端で切って、血だらけになったこと。
スチールの椅子のゴムパッキンが引っ越しで外れてて、
椅子の足のエッジで、裸足の足のどこかを切っちゃったんだね。
ティッシュで大量に血をぬぐって、
なんだか血まみれの誕生日になってしまって、
すごく気まずそうに彼がしていたのを覚えている。
三つ目は、彼には妹がいて、
彼女がケーキを箱ごと持ってきてくれたのだが、
上下が逆になっていて、
ホールケーキがめちゃめちゃになっていたこと。
裏ぶたにデコレーションが押しつけられて、
ケーキが台無しだった。
まあ食べれば一緒だよ、なんて僕が言ったか、
妹が言ったのかは、覚えていない。
日下くんが足を切った。
クリーム色のスチール椅子についたままの、真っ赤な血。
ひっくり返って生クリームがぐちゃぐちゃになった、
白い箱のケーキ。そのなかに緑とピンクのロウソクが混じってた。
お母さんにずっと友達でいてねと言われたこと。
僕しかまだ友達がいないこと。
ものすごく居たたまれない誕生日会だった。
絨毯が青かったことまで覚えている。
問題はそのあと。
日下くんは、その後いじめられっ子になってしまった。
僕と遊ばなくなって、別のグループになってしまったあとだ。
彼は何度か僕に助けを求めた目をしたかも知れないけど、
子供心に、気まずい誕生日会のイメージしかない日下くんを、
どうすればいいのか分からなかった。
今思えば、やめろよ、と言えばよかったのに。
日下くんは、半年ぐらいで引っ越していなくなってしまった。
日下くんが来る前のようにクラスは戻った。
戻ってしまったことのほうが、
僕にはショックだった。
もう誰も日下くんを覚えていないかのような感じが。
てんぐ探偵の転校生、
結城礼一くんは、
日下くんがモデルかも知れない。
僕の日下くんへの贖罪の気持ちが、
あんな話を書かせたのかも知れない。
日下くんは、生きていれば今46のオッサンだ。
どこかで愉快に生きててほしい。
子供の頃嫌なことが少しあっただけで、
それを上回る幸せに出会っていてほしい。
そんな小4の誕生日あったっけ、
と忘れていてくれることをのぞむ。
僕の身勝手だけど。
僕は、だから、
パーティーに馴染めない子が、
端の方で居づらそうにしているのに耐えられない。
明るく話しかけてあげるヒーローに、
いつもなりたいと思っている。
現実はうまくいかないけれど。
馴染めないことほど辛いことは、ないと思うんだ。
2017年03月09日
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