2017年03月13日

ストーリーとは、次々に設定を更新すること

設定の話、さらに続き。
(この記事、先週末にアップしてたと思ったら、
アップできてなかったので今アップします)

これまでの「設定」という言葉を使うのなら、
ストーリーとは、設定が次々と変化していくこと。
それを更新することがストーリーである。

その変化ポイントをターニングポイントといい、
ターニングポイントで、ストーリーは章わけされる。
数章の話か、何十章の話かは、
作者が設定した章立てではなく、
ターニングポイントの数で把握するとよい。


とある設定でものごとをはじめたとする。
そこで話が大体尽きると、
新設定が登場し、
話は次に進む。

新登場人物はその典型だ。
新しい場所にいくのもそこに含む。
新しい展開とはすなわち、
「これまでなかったことが現れること」である。

事件の新展開とは、
たいていは新事実の発見によってもたらされる。
それまで当然と思っていた世界が、
それで揺らぐからである。

ラブストーリーの進展は、
「二人の関係の設定の更新」で考えるとよい。
「どちらかがどちらかを好きになる」という初期設定が、
「向こうも満更でもない」に更新されるときが、第一章と第二章の境目だ。
「恋人同士になる」
「世間に言う」
「冷める」
「また好きになる」
「浮気して一端別れる」
「またくっつく」
「夫婦になる」
などのステージ進行は、
二人の関係という設定の「更新」だと考えるとわかりやすい。

設定の更新こそが、ストーリーである。
たとえば車田正美という漫画家は、
この天才であった。
ストーリーがどんどん進んでいく感じは、
設定がどんどん新しくなってゆく感じだったのだ。
たとえば漫画「風魔の小次郎」はその典型だ。

「学園同士の抗争の裏に、忍の一族がいて、
そこに風魔の小次郎が派遣される」という設定が、
「風魔一族が小次郎の助っ人に入る」という設定になり、
「夜叉八将軍がやってくる」という設定になり、
「サイキックソルジャーがいる」という設定になり、
「伝説の聖剣風林火山がある」という設定になり、
「飛鳥武蔵には病気の妹がいた」という設定になり、
「武蔵は聖剣のひとつ黄金剣をもっていた」という設定になり、
「聖剣には真の正統継承者がいる」という設定になり、
「それらは謎の一族カオスの差し金」という設定になり、
「四千年続く聖剣戦争」という設定になり、
「聖地で十本の聖剣が戦う」という設定になった。
(反乱編はこの際無視……)

このストーリーのスピード感は、
「なにい!?」のスピード感だ。
「こう思っていた世界の設定」が、
根底から覆される連続を書くのが、
車田正美は天才的だったのだ。

冷静に考えればおかしなことも、天才車田の手にかかれば、
「なにい!?」の魔術にはまっていくのである。

僕が特に好きなのは「リンかけ」の、
剣崎「右のマグナムにも匹敵するスーパーブロウが、
この左手にも宿っているのよ!」「なにい!?」
ピキィィィィィィン「ギャラクティカ・ファントム!」
の流れだ。

「一人一必殺技」の暗黙の原則が破られた、劇的な、
「さすが剣崎!」となる瞬間だった。
あの見開きにはしびれたものだが、
それはストーリー上の結節点でもあったわけだ。
(これがターニングポイントになり、
みんな第二必殺技を持つようになる)


で。

ストーリーが停滞している時は、
すなわちその時点での「設定の更新」が、滞っているときなのである。
その世界に拘泥してすすめられないのか、
新しい「なにい!?」を思いつけないのかは、
そのケース次第だけどね。

客が思うよりも速く、
世界の設定が更新していったり、
世界が変わりすぎていたりすると、
「展開が速い」と感じる。
更新が遅かったり、たいして更新で変わってなかったりすると、
「展開が遅い」と感じる。

速いにせよ遅いにせよ、
その展開に観客が興味がなくなったとき、退屈が襲ってくる。


速い遅いは、
いい悪いとは関係なくて、
「最初に示したペース」を基準として見るのが慣例である。
速いやつは怒涛ものとして見る準備をするし、
遅いやつはじっくりものとして見る準備をするだけのことだ。
ただ、
速いのと遅いのがぎくしゃくしていたり、
速かったのが遅くなりすぎると、退屈になるだけのことである。
(遅いやつが徐々に速くなっていくのは快感がある)


脚本は音楽だ。ペースというものがある。
それは台詞のテンポとかじゃなくて、
世界設定の更新の度合いとペース、というところで見ればいいだろう。
posted by おおおかとしひこ at 18:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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