裏切るのは基本だ。
誰かを裏切るとかそういうことではない。
流れを裏切る、のである。
前ふりと落ちは、裏切りの関係である。
押すなよ!は、押すことの前ふりである。
落ちる前提で、逆から始めている。
だからそのギャップが、笑いになる。
今から押します、ドーンでは笑いにならない。
押すなよ!があるから、押して面白くなる。
私たちは、
あることがあると、次に何があるか予想する生き物である。
だから、
次に何があるか予想して、
予想できたら興味を失ってしまう。
「大体分かっちゃった」というものには興味は湧かず、
「一体どういうことなんだ?」というものには、
興味は持続する。
「ああ、まあ、そうなるわな」ではなく、
「えっ」である。
「なにい?!」でもいい。「まさか…」でもいい。
微妙な違いは詰まらない。
真逆が一番強い裏切りである。
すなわち、
私たちは逆を創作する仕事である。
素人の作る企画には、
大抵この逆がない。
先入観の逆をついたり、
最初に前ふりしておいてその逆に方向が進んでいったりしない。
そのままをそのままにやるだけが、素人で、
逆や裏切りを二転三転させるのが、プロだと言える。
ストーリーテリングとは、
その裏切りや二転三転の技術のことである。
裏切りは勿論登場人物の裏切りでもいいんだけど、
主に裏切るのは観客だと思っていい。
観客を裏切るために、
私たちはなるべく逆の前ふりから仕込むのである。
これをミスリードと一般的に言う。
ミスリードはどんでん返しのためだけにある言葉ではない。
その後に逆が来ることを想定した、
逆に振り込む焦点のことである。
右に曲がるために一端左にハンドル回すようなものだ。
(これは揺さぶりがキツいので、運転としては下手だ。
しかし我々はジェットコースターの設計士である。
揺さぶりがキツイほうがストーリーとして優秀だ)
玄人むけの企画に、
週刊スパのバカサイ、「そのまんま川柳」がある。
逆に裏切ることが前提のネタ披露の文脈で、
裏切らないことを笑いにするという、
逆を逆にした、高度な笑いだ。
あなたは観客を裏切るために、何をしている?
この答えに簡単に答えられないとしたら、
あなたはまだ自分のお遊戯をそのまま見てほしいだけの、
子供かも知れない。
ストーリーテラーは、
何回裏切ろうかな、なんてことを考えながら話すものである。
何分に一回裏切れば面白くなるかは、
その話次第だろう。
二時間待って一回しか裏切らないなら詰まらないし、
30秒なら一回凄い裏切りがあれば印象的だ。
そして何度も裏切るのなら、
そのショックは徐々に強くなっていくのが、
面白いストーリーというものだ。
テーブルの上に、コーヒーの入ったカップがある。
それを飲むのは逆ではない。普通だ。
そのカップが爆発したり、
テーブルがひっくり返ったり、
コーヒーが突然増えたり、
コーヒーを飲まずに頭からかけたり、
ウェイトレスがコーヒーを飲んだり、
待ち合わせの相手が宇宙人だったりすることが、
逆や裏切りである。
さて、その次は?
それがストーリーだ。
順当は、ストーリーではないのだ。
裏切ろう。
あなたは嘘つきである。
ストーリーとは、計画された嘘つきだ。
2017年03月17日
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