2017年03月18日

裏切る2

裏切る、といっても、
ようし今日は観客を三回裏切ってやるぞ、
なんて思ってやるものではない。

自然に発生するものだ。


あれのあれは、実はあれだったのかーとか、
こう来ると思ったら、こっちが来たかーとか、
こっちなのか?あっちなのか?こっちかーとか、
そういうことは、
普通にあれば出てくるものだ。

それが出てきたときに、
その前を、なるべく逆に振るように、
リライトしていくのである。

慣れていれば、最初から逆にしておいて、
その場面が来たときに左にハンドルを振っといて、
急激に右に曲がるようなことが出来るだろうけれど、
大抵は、
右に曲がる場面を先に書いてから、
ちょっと戻って左に振る場面へ書き直す、
ということをやるものだ。
あるいは、全部書き終えたときに、
あの右に曲がる場面の前に左に切る場面を入れよう、
なんて全体から見て判断したりするものである。

それは全体の流れのテンポ次第、
で判断されるべきことかも知れない。
この場面の逆は要らないとか、
この逆はもう少し弱くとか強くとか、
そういうバランスを、全体から見て取り直すこともあるだろう。


そもそも裏切りがひとつもないなら、
それはストーリーだと言えるだろうか?

それはただの報告なんじゃないのか?
それは報告を馬鹿にしているかも知れない。
優秀な報告は、ストーリーテリングが巧みである。
まるで現場で体験し、
かつ俯瞰的な目線でも纏めている。
事実かフィクションかの差こそあれ、
優秀な報告と優秀なストーリーテリングは、
形式的には同じものかも知れない。
(ホームズのシリーズは、
医師ワトソンの報告、という形式のフィクションである。
○○の事件簿、とかは全部そうだね)


つまり、ダメな報告、ダメなストーリーには、
裏切りがない。
まあ、報告というものは「事実を間違いなく伝える」
のが最優先だから、最悪でも間違っていないことが肝心で、
面白い/面白くないは優先度が低いので、
ダメな報告とは間違っていたり虚偽であるわけだ。

しかしフィクションであるストーリーは、
事実が多少間違っていようが、
意図的に虚偽で覆っていようが、
面白いことが最優先である。
(メジャーなことで間違ってたりすれば、
誰でもおかしいと指摘できるが、
そうでないところで間違えていても、
まあやむなしと判断されるものである)


詰まらないストーリーとは、
変化が起こらないものだ。
ずっと同じ状態のものだ。
現状維持は、ストーリーの最大の敵だ。

あるシーンでやったことは、
次のシーンでやってはいけない。
同じ状態だからである。
あるシーンでやったことは、
次のシーンで展開しなければならない。

展開とは、
前とは別のことをやること、
前とは違うことになること、である。
順接だろうが逆接だろうが並行であろうが、
前とは別になることが展開の定義といってもいい。

その前との違いが、我々観客にとって、
変化している、動いている、という感覚をもたらす。
動くことこそ、movieである。
これは、原始的には、ダンスや暴れるという、
物理的動きで表現される。
しかし、我々が楽しむのは、状況の動きである。
つまり展開とは、
状況がどれだけ二転三転していくか、
ということなのである。

裏切りとは、つまりは状況の変化のことなのだ。


ある状態から次の状態に変わると、
その方向へ、ストーリーの矢が生じる。
次の状態は、そのストーリーの矢から予測されるものであるとき、
人は、予測が当たったことを喜ぶ。
しかし、
その先もストーリーの矢から予測されるものであったら、
人は退屈してくる。
このとき、
自分の予想が外れて、
別の状態になったら、
人は興味を持つ。
これは予測するのが難しい、なかなか手ごわいやつだぞ、と。

逆に言えば、予想しきれるものには、人は興味がないのだ。
興味を持つのは、
予想通りと予想を裏切られるのが、
半々になっているものだ。

裏切りまくってもカオス。
予想通りでも退屈。

裏切りの頻度やその大きさのバランスは、
観客の予想精度に関係する。


あなたが優秀な観客であらなばならないのは、
この観客になるためである。

あなたが楽しめる、予想と裏切りのバランスであることと、
観客の楽しめるそれが、
一致しなければならないのである。

だから、偏った人は脚本家になれない。
正確にいえば、本人は偏った人たちばかりだけれど、
「観客としての目」が偏っていてはならないわけだ。


あなたは何回裏切る?
どこで裏切る?
どこで興味をひき、どこで膝を乗り出させる?
その裏切りは、計画的でなければならない。
計画してかつ実行してかつ成功するのが、プロというものである。
posted by おおおかとしひこ at 12:58| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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