2017年03月20日

一本書くのに、全部を知らなければならない

ストーリーを書くことが困難なのは、
見る側に立てば無意識で簡単そうなことに見えるからである。

たとえばこれは、料理に似ている。
自分で料理しない子供は、
普段無意識で食べているだけだ。
いざ自分が作る側に立つと、途方に暮れることに似ている。



ご飯の炊き方。味噌汁の作り方。
切り方。味付け。材料の見極め方。
おかずの作り方。焼き方、煮方、炒め方。
栄養のバランス、季節のものの知識。

たかが一食作るのに、これら全部を知っていて、
かつ実行出来ないと、
まともな料理は作れないだろう。
逆に言えば、一通りマスターすれば、
色んな料理を作れるようになるし、
自分なりのアレンジも出来る。


ストーリー作りもこれに似ている。

序盤と中盤と終盤で展開を変えること、
焦点とターニングポイント、
メインプロットとサブプロット、
前ふりと落ち、伏線とどんでん返し、
キャラクター、世界設定、
ギミックやイコン、
テーマ、
全ての知識があり、かつ自分で出来ない限り、
一本のストーリーを作ることは出来ない。


どちらも、
受けとる側は日常に接していて、
ほとんど無意識で消化しているものを、
いざひとつ作ろうとするならば、
背後にある膨大なものをマスターする必要がある。

ひとつ作るのに、莫大な背景が必要なのだ。

勿論、大体マスター出来れば、
ひとつだけではなく、別のものもまた作れる、
という点でも似ている。


あるいは、
武術も似ている。パンチやキック単体を学んでも何の役にも立たない。
間合いやスタミナや総合的判断力や、度胸がつかないと、
一回の組手すら満足に出来ない。
プログラミングもそうかも知れない。
言語もそうかも知れない。
工作もそうかも知れない。

ひとつのことをするために、
その何十倍、何百倍も、
知識を溜め込んだり、部分的な成功失敗体験を積んで、
一人で回せるようにならなければならない。

技能全般が、そういうことだろう。


料理や武術、プログラミング、外国語、日曜大工、
あたりは、教室があるだろう。
話し方講座ぐらいもあるだろう。

しかしストーリー創作というのは、
誰も教えてくれない。
(日本にはわずかにあるが、機能しているとは言いがたい)

料理や武術の上達には何が必要か。
仲間である。
あの人はあれがうまいと観察したり、
そのうまさの秘密を解明したり、
自分でも真似してみたり、
その人と話すことで、その人がどう考えているかを知ることが出来る
そのことで、
学びたいことを、自分で部分集合に分割することが出来る。
ここのこれをマスターすれば、
自分にとって必要なものが学べると、
自分で判断できる。

あなたは、
組手や料理のように、回数をつくらなければならない。
ストーリーの難しいところは、
神聖なる原稿のイメージがありすぎて、
最初から最後まで書けば終わりで、
かつ生涯一本だけ書けばいい、
なんて誤解が蔓延していることである。

組手や料理のように、毎日作るものであり、
出来のいいのは残して、ダメなものは捨てることや、
あるものをベースに更によく改良し続ける、
なんてこともしょっちゅうだ、
というイメージがあまりないことが、
ストーリー作りを秘密のベールに包みすぎである。

私たちプロは、
一本を世に出すために、
発表しない裏で何本も書いている。
それは、出来が良かったとしても、
時勢に合わないなどの理由で発表されない。
だから一本しか発表してないように、見えているだけだ。
(最近はネットで没作品を公開する作家も増えてきたが)
才能とは、
その一本を作る力と、
平均的になに作ってもウマイ、という、
両方の軸があるということだ。

料理人や武術家としては、
平均的に毎日上手、というのが理想だろう。
ストーリーテラーも、そうなるのが理想なんじゃないかな。

その中でもスペシャルが、
世に出すレベルになっていくイメージ。


たかが一本を書くためだけにしては、
学ばなければいけないことが多すぎる。

それは料理や武術と同じで、
たった一本をするだけの技能として学ぶ訳ではないからである。

その体系全部をマスターしないと、
毎日産み出していくことは出来ない。
逆に、毎日産み出していくことが、
私たちの目的である。

レシピを毎日公開!みたいな感じで、
僕はここで書いているのかも知れない。
posted by おおおかとしひこ at 11:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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