>> ハリウッドの創作技術を少年バトル系漫画に応用する場合、120ページで流れを作りそれを20ページなり40ページなり分割して連載していくという手法があると思いますがこれは自由度が少ない気がします。 現実的なフォーマットに合わせることを考えた場合、主要なポイントだけを取り入れて20〜40ページくらいでまとまった話を作る手法が妥当だと思うのですが、この場合に少年バトル漫画用に特化したマニュアルのようなものは考えられるでしょうか? ブレイクシュナイダーのテンプレートを少年漫画用にカスタマイズできないかという発想です。
>> 例えば少年漫画の場合、必殺技を繰り出すことが必要です。これは戦隊シリーズ的な展開でもありますが、こうしたものを作る際に助けとなるものがあったらと思い質問させていただきました。
なかなか興味深い質問です。
結論から言うと、
「連載物と映画シナリオは構造が違うので、方法論が異なる」と考えます。
まず、その連載作品は、「全部で」何ページでしょう?
もし最初から決まっているのなら、
ハリウッドの脚本理論が使えるかもしれません。
ブレイクシュナイダーのビートシート(BS2)
も使える可能性があります。
しかしそもそも連載物は、
最初からページ数が決まっているものではない。
脚本(の構成理論)とは、
最初から長さが決まっているもの(約二時間)
に対する理論なので、
いつ終わるか不定のものに適用することは難しいでしょう。
では、一回一回に適用することは?
これが質問のメインでしょう。
ぼくは、これも意味ないと考えます。
連載物は続き物だからです。
では、一話完結なら?
これなら、脚本理論が使えそうです。
ところが、それが何話構成かわかりませんが、
「すぐにパターン化してしまう」未来がぼくに見えてしまいます。
仮に同様の構成の話を三話も見れば、
「毎回同じパターンじゃん」と見破られてしまうのではないでしょうか。
いや、それでも、偉大なるマンネリ作品というのが世の中にはあるではないか、
という反論はありえます。
しかしその偉大なるマンネリ作品は、
「その独自のマンネリ構造をその作品が作った」、
ということが大きいと考えます。
ドラえもんしかり、戦隊ものしかり。
少年漫画における「必殺技」というのも、
そのマンネリパターンのひとつです。
今では定番化したものでも、
最初は誰かが考えたものだったりします。
(日本では最古の芸能、能あたりに起源があるでしょう。
義経の八艘飛びかなあ……)
さてさて、
一話完結ものに、簡単に読めるパターンなんて持ち込んじゃいけません。
それじゃ少年漫画の柔軟性がなくなる。
ストーリーが思わぬ方向に転がってゆく楽しみがなくなるというものです。
ひょっとしたら、
質問者は、
毎回毎回何を書けばいいかわからなくて不安だから、
指針が欲しくて、
脚本の構成理論に救いを求めているのではないでしょうか?
テンプレに落とし込んで、楽をしたいのではないでしょうか。
仮にそれが出来たとしても、
それはすぐに見抜かれてしまうでしょう。
なぜなら、
漫画の一番の楽しみは、
作者と読者の、毎週の知恵比べにあるからです。
読者より常に一枚上手でなければ、
その漫画は決しておもしろくなくなるでしょう。
テンプレに落とし込むなど、愚の骨頂。
さて、
ここ最近書いている、
「タイで逆ナンされた話」を読まれているでしょうか。
その骨子は、
「そう思うでしょ。ところが」
の連続をつくることでした。
連載の本質は、それでいいのではないかと、
僕は考えています。
「ストーリーもの」と漫画を呼び、
映画の脚本も「ストーリー」と呼ぶのですが、
同じ言葉で表現していても、両者の構造は異なると僕は考えます。
映画脚本はラストまで通しで考え、
連載物は、その時に考える
(多少は計算しているだろうけど、途中で大体狂う)、
違いだと。
映画脚本は、書く前から「結論」が決まっています。
連載漫画は、そうではないと思います
(開始当初は決めていたが、書いてるうちに変ってしまった、
の方が現実的にはありそう)。
両者は対極的に異なります。
綿密な計画と、アドリブのように。
だから、
「そう思うでしょ。ところが」
を常に繰り出していけるかが、
連載漫画の面白いところであり、
計画的なストーリーの面白さとは、別のところにあると考えます。
(実はタイの逆ナンの例で、
ここまで論を展開してこようと計画していたのですが、
先にやってしまいました)
さて、別の角度から考えます。
「そうは言っても、大きな構造においてはBS2は有効なのだから、
何か利用できないか」と考えることもあるでしょう。
これも結論から言えば、
「利用出来はするが、起承転結程度にしか利用できない、
精度の低い利用加減である」
だと思います。
BS2の構造を考えます。
二時間の映画について、
13のビートを定義しています。
では質問。
そのビートが1シーン分、平均3分としたら、
残りは?
81分が、BS2に含まれない部分です。
ここは、何もしていない空白地帯でしょうか?
否。
実は、この81分のパートでも、
「そう思ったでしょ。ところが」
が繰り返されているべきだと僕は考えます。
大雑把な計算をします。
1シーン平均3分とすれば、
3分に一回、「そう思ったら、ところが!」
がある計算になります。
映画一本で40個の、
「そう思ったら、ところが!」があるというわけです。
この計算は大雑把ですが、
大きく外れているわけでもないでしょう。
20個や80個ぐらいの誤差であり、
2個や300個にぶれる数字ではなさそうですから。
つまり、
40個の「そう思ったら、ところが!」のうち、
13個がBS2のビートポイントですが、
残り27個については、
BS2は何も預言していないことになります。
むしろ、
「13個さえ書けば残りの27個はなくてもいい」
と、ブレイクシュナイダーの理論は言っているかのような、
「誤解」を生みがちなのです。
書いてないのは、なくてもいいのではなく、
自分で勝手にやるべきところなのです。
僕が三幕構成理論やブレイクシュナイダーの理論が、
不完全だと思うのはそのへんです。
残り27個についての言及が、どこにもないのです。
40個のポイントがあるのだが、
そのうち13個があってればよし、
というのがBS2なのだとしたら、随分精度の低い理論だと思うんですよ。
と、いうことで。
20から40ページの漫画に、
ブレイクシュナイダーの理論をはめ込むことは可能ではありますが、
13のビートポイント以外に、
残りどれくらい「そう思ったら、ところが!」が必要か、
それに何を書くべきかは、
BS2理論は預言できません。
だから、
「起承転結を入れろ」というアドバイスと、
たいして変わりません。
4が13に変った程度の違いです。
じゃあ、どうすればいいのか。
あなた自身が、
「面白い」と思えるストーリー、
すなわち、「そう思ったら、ところが!」の連鎖を、
まず作って下さい。
「タイの逆ナン」では、
簡単に説明するため、
「ところが」の回数を3に限定しました。
20から40ページの漫画では、
おそらく3より多いと考えられます。
何個必要かは、話次第なのでなんとも言えませんが。
その回数「そう思ったら、ところが!」のある、
面白い話を先につくってください。
(そしてそれは、パターンにはまらないことが肝心)
仮に、10の「ところが」があるとします。
とするならば、
BS2の13のビートポイントのうち、
いくつかが自動的に含まれていることになるでしょう。
順番が違うなら、BS2に合わせたほうが分りやすくなったり、
早すぎるポイントなら遅らせるとか(または逆とか)、
それを判断するのに、BS2は役に立つと思います。
「構成理論」は、
すでに出来上がった話を分析するのには強力ですが、
「次になにを書くと面白いのか」という、
私たちが一番知りたいことに応えてくれる魔法ではありません。
それは、結局私たちがうんうん唸って考えつくしかないのです。
そのことを、創作というのだと思います。
こういう「本当のこと」を書いてしまうと、
理論が急に色褪せてきます。
理論「書」は商売です。
「万能の道具を手に入れたぞ」と思わせて、
お金を対価に貰うのです。
だから、「これさえあれば大丈夫」と幻想を見せるのが肝なのです。
このブログではお金を稼ぐ必要がないので、
僕は身も蓋もない真実を述べています。
(このブログの一番いいとこかな)
さて。
頭1/4ぐらいを起にしてください。
次の1/2ぐらいを承にしてください。
「そう思ったら、ところが!」が何回かあるでしょう。
(起の部分にも何回かあるでしょう)
残り1/4ぐらいで、
転結にして下さい。
もちろん、「そう思ったら、ところが!」が何回かあるでしょう。
これが結論です。
たいして役に立たないことがわかるでしょう。
次に何を書いたら良いか?
それはおそらく、
作者を世界で一番悩ませる質問だと僕は思います。
手塚だって鳥山だって、同じことに悩んだはずです。
それを救ったのは、理論?
いいえ。
彼らのオリジナルな発想そのものだと思いますよ。
身も蓋もない結論です。
まずは、
「そうだと思ったら」に該当する面白いものを書いて下さい。
次にそれを「ところが」と引っくり返してください。
あとはそれが、力が続くところまでやってください。
道は、そのあとにしか出来ないのですよ。
このあと、
「タイの逆ナン」の例を使って、
いくつかの補足をしていこうと思っていますので、
それも合わせてご覧ください。
2017年03月24日
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序盤中盤終盤のキーイベントを決めて、
あとはそのイベント間を「ところが!」で繋ぐ。
みたいな感じでいいんですかね。
テンプレに当てはめることができないというのは難しいですねー
大体そんな感じです。
どこに何個キーイベントを入れるのか、
あるいはその中でも「ところが」を大小いくつ入れるべきか、
それを設計するために、プロットをつくるのです。
テンプレ通りなら、それは粗製乱造というのであります。