2017年03月28日

音楽を乗せてみる実験

こないだ短い映像を繋いだ時にやってみた、
面白い実験があるので紹介してみよう。

音楽のない、最初から最後まである素材
(たとえば短編シナリオでよい。
なければここの作品置き場にある)を用意したまえ。

で、その尺に近い音楽を複数用意したまえ。
それらの音楽を、そのBGMとしてかけるのだ。




こういうのは私たちの日常の風景のひとつで、
「選曲作業」と呼ぶ。
一本の話に一曲をベタにかけるのか、
複数の曲を編集してうまくつなぐのか、
それは話と曲の相性次第だ。

動画制作をしたことのある人なら経験済みだろう。
なくても、別に動画と編集機を用意する必要はない。
とあるストーリーと、音楽プレイヤーと、
複数の音楽があれば実験できる。
ネットに繋がったパソコン一台あれば、
YouTubeで適当に事前選曲しておいて、
ストーリーのBGMにしてみればいいだけのことだ。


全然合うやつと合わないがあるのは、
すぐに気づくことだろう。

悲しい音楽を楽しいストーリーにかけることは出来ないし、
逆もしかり。
頭のいい話にアホな曲をかけることも出来ないし、
テンポのいい曲を、じっくり見たい場面にかけることは出来ないだろう。

逆に、音楽にストーリーがものすごく引っ張られることも経験してみよう。
悲しい話に愉快な音楽をかけたり、
スローテンポの話に激しい音楽をかけてみると分る。
話そのものよりも、音楽のほうが受け取る感情のメインになってしまう。


DJ気分で選曲してみるのは楽しいぞ。
音楽によって、場面の印象を、むしろコントロールするのである。
友情の場面に、
不穏な音楽をかけるとこの友人は裏切っていることを表現するし、
悲しいピアノソロをかければ、この友人は死んだことを表現できる。

音楽は不思議だ。
絵よりも強力に、「気持ち」を表現するのである。


さて、ここからが本題。

ぴったりの尺の音楽を、複数みつけること。
何をするかというと、
音楽とストーリーの、スタートとゴールを一致させてみるという実験。

実際、二者がぴたりと合うことは、
ほとんど、ほとんど、ない。

最初、いい感じに音楽とストーリーが寄り添っていても、
途中からずれてきて、
最後は全然別のところに行ってしまっていたりする。
二つとも遠くへ来てしまったなあ、と、
たかが数分のストーリーですら起こり得る。

どうしてこのような齟齬が起こるのか、
ということを考えるのが、今回の本題だ。


答えは簡単だ。
話と音楽、ふたつの流れが、全く別のものだからである。

出発点が仮に同じだとしても、
ふたつの感情(ストーリーで表されるものと、音楽で表されるもの)
は、別々の構成を持ち、別々のタイミングで、
別々のルートを辿り、
別々の目的地へ行くものである。

考えてみれば当たり前のことなのだが、
話(たとえば朗読してみるとよい)に
音楽をかけるだけで、
それを実感することが出来る。

自主映画監督を目指した人なら、必ずやる遊びではあるのだが、
そうでない人はあまり知らないかな、
と思って書いてみた。


ある流れは、同じ出発点からスタートしても、
別々のゴールを目指している。
そしてそのゴールが一致することは、滅多にない。

山の上からボールを転がして、
二回転がしておなじ場所にたどり着かないことと、同じである。
(確率的にはゼロではないだろうが、
現実的にはないだろう)

二つの流れは、どんどん離れていく。
別々の目的地へ。


逆にふたつの流れが寄り添うときはどういうときか。
互いが同じところから出発して、
同じ目的地に向かう時で、
同じ構成で同じ展開で、
同じタイミングで同じリズムを持った時である。

こういう時に限り、
その音楽はそのストーリーの
劇伴(単なるBGMではなく、ストーリーを音楽で表現したもの)
たりえるわけである。


世の中には音楽がいろいろあるが、
それがそのストーリーに合うとは限らない。
なぜなら、その音楽なりの目的地は、その音楽が決めているからだ。
だから選曲はたいていうまくいかなくて、
ストーリーについている音楽は、
毎回毎回ちゃんと作曲しなおさなきゃダメなのだ。

もしそのストーリーに、その音楽が偶然ずばりと合うのなら、
ものすごい偶然か、
選曲の才能があるか、
そのストーリーがたいして起伏もなく目的地もないダメな話か、
その音楽ががたいして起伏もなく目的地もないダメな話か、
そのどれかもしくは複合だろう。


同じところから出発し、同じルートで、同じ目的地に着く、
ふたつの流れはない。
それはそれぞれの人生が異なるのと同じである。
(逆に好きな人と生きることは、
異なるルートを合わせていく行為なのだね)
posted by おおおかとしひこ at 21:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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