2017年04月05日

シンプルにいこう

そんなことは分かってるさ。
複雑よりシンプルなほうがいいに決まっている。
シンプルな美しいものが寿命が長いのも知っている。

でもどうしても複雑になってしまう。
魂がこもってしまうからだろうか。

僕はそこに、表現者の「わかって欲しい願望」を読み取るのである。


人は誰もが理解されたい。
承認欲求だ。

メアリースーは、
現実世界で承認欲求が満たされない者が、
架空世界で承認欲求を満たしたいという幼稚な願望がまともに出てしまったものだ。
現実で最強になれないから、
異世界なら最強になれると願望を書く異世界転生ものは、
この変形である。
(作者だけではなく読者も投影する、
集団の循環のようなものが回っている)

自分が認められたいというのが根底にあるから、
説明が長くなってしまう。
それは一種の甘えだ。
甘えの時間は長くとりたいものだからだ。
承認欲求は、自分が認められていないのではないか、
という無限の不安から出てくる。
だから、説明が長くなってしまう。
無限の不安は、これでも愛してくれる?という無限の問いを生む。
だから、説明が長くなってしまう。
不安の長さと、それは比例する。


これを防ぐことは出来ない。
甘えていたんだ、自分に厳しくあらねば、
なんてのは三日ぐらいしか持たない。
不安はいつもやって来る。
だから、まず止められないと知ることである。
知れば、その不安がそこにあることを自覚できるわけだ。


さて、
客観的になれとか、客観性が足りないなんてことを、
不安な人にいくら言っても無駄だ。
客観的になるには、ある程度自信や余裕があって、
周りが見えているときにしか出来ないからである。

僕はそういうとき、「外に出ろ」という。

あなたの作品だけがこの世に存在するわけではない。
あなただけが作者をやっているだけではない。
古今東西、ありとあらゆる人が、
様々な内容のストーリーを書いている。
本屋に行け。古本屋に行け。映画館に行け。二番館に行け。
レンタルビデオ屋に行け。ネットテレビを見てみろ。
あなたのストーリーは、
その中のひとつの点でしかない。

誰かがその無限の砂の中からあなたを見つけるとしたら、
どのようにしてか。
それを詳しく想像しよう。

古今東西歴史上最も素晴らしいストーリーだから、
皆はあなたを見つけるのだろうか。
それは最後まで見ないと分からないから分からないことだ。

じゃあどうやって?
あなたのストーリーの本質を、
何か短いもので代表するしかないよね。
本の背表紙、レンタルビデオの棚を想像してみたまえ。
その中にあなたの作品が埋もれている様を想像してみたまえ。

どうしてそれを手に取るのだろう。

作者が認めてほしくて、複雑にしてしまった世界だから?

そんなことはないよね。
手に取るのは、
「わたしを楽しませてくれそう」だからである。
あなたの作品は、そういうシンプルさを持つ必要がある。

(ここではパッケージ詐欺はないものとしよう)


複雑なことは、面白い。
単純なものは詰まらなくて飽きたりする。
たとえばじゃんけんがシンプルだからといって、
一日中ハマるゲームか?

複雑は必ずしも悪ではない。
楽しみですらある。
複雑だから面白い娯楽はたくさんあるし、
多分あなたはそういうものが好きで、
楽しみたいはずである。

問題は、
それがあなたのこじらせた心かどうかということなだけだ。

シンプルだけが正しいわけでもない。
相対性理論は実際にはとても複雑な理論だ。
方程式のシンプルさしかシンプルさがなく、
理論のシンプルさにおいてはニュートン力学のほうがいい。

だからシンプルという形式が勝利するわけではない。



シンプルにそれを掴みやすいこと。

それが大事なのだ。


そうなるようには、初稿ではなかなか難しい。
書き終えて、作品の外に出ないと、
辺りを見渡す余裕も出てこないものである。


あなたのこじらせた心が出ているなあと思ったら、
そこは上手に隠蔽していこう。
削除しきったらあなたの情熱がなくなるので、
うまく隠蔽していくことだ。
そのうち、
あなたの情熱ではなく、
登場人物の情熱のほうが大事なんだと分かってくるはずである。

そうすれば、
「自分が認められたいことなんかどうでも良くなって、
この登場人物が世の中に認めてもらいたい」
という、
次のステージの承認欲求がやってくるだろう。


じゃあどうすれば?
と作品の外に出れば、
辺りを見渡す余裕が出てくるだろう。


あなたは不安である。
不安を顔に出すのはアマチュアだ。
プロは動揺しててもしてないふりをするものだ。
プロレスラーはほんとは痛くて怖いんだぜ。

外に出ても、
あなたの登場人物の情熱を見失わないためには?
外に出て、はるか遠くからあなたの登場人物の情熱を、
見つける方法は?
そこに複雑なことをやっても無駄だと思えたとき、
強くてシンプルな何かを作ろうと、
初めて思えるんじゃないかな。


シンプルなものは強い。
あなたは不安で複雑で、自分をわかってほしくて、
長い文章でぐるぐる回る。
そこから、登場人物の情熱を解放してあげることである。

(高畑シンイチ少年の情熱は、
ちなみにそろそろ盛り上がってまいります。
この情熱を序盤からきちんと分かりやすくしておくべきだったというのが、
ようやく外に出てみての反省だったりします)


遠くからでも見つけられるシンプルなもの。
そんなのが出来たら、最高だね。
posted by おおおかとしひこ at 14:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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