2017年04月15日

性格の描き方

たとえば「怒りっぽい性格」というのは、
どう描けばいいだろう。


一番だ目なのは、
「私、怒りっぽいの」と自己申告してちっともそういう場面がなかったり、
「あいつは怒りっぽい性格だ」と他人に表現するパターンだ。
まさかそんなことしてないよな。

物語というのは、
観客が、
「こいつ怒りっぽい性格だなあ」と、
勝手に判断したり分析出来るような、
状況を与えることだ。
間接表現だということを、いま一度思いだすべきだ。

普通にやることは、
普通の人がちょっと怒ることでムカーッてなる場面を描くことだ。
たとえば行列に並んでるときに「早くしろよ!」
って大声で怒鳴るなどである。
あるいは、
普通の人が何でもないところで怒ってもよい。
何でもないところでけつまづいて、
地面に怒る人なんかは、よく見るよね。

さて。
これだけで、「怒りっぽい性格」を表現したと思うのは、
まだまだ初心者に毛が生えたようなものだ。

中級者以上は、
こう考える。
「怒りっぽいということはどういうことだろう」と。

実は正義感が強烈に強いかもしれない。
会社でいつも怒っている人がいたとしても、
その人はとても正義感が強く、
間違ったことや不正や怠慢を許さない人かも知れない。
みんながなあなあで済ますブラックな事柄に対して、
本気で怒れる人はヒーローの資格があると僕は思う。

あるいは、感情がストレートに出ているだけかも知れない。
その人はすぐ喜んだり、すぐ泣いたり、
すぐ感動したりする人かも知れない。
素直な人だから、素直に怒りを隠さないだけかも知れない。
だからこの人は嘘が下手で、正直に生きてきた人だ。

逆に隠し事があるかも知れない。
怒ることでそれを誤魔化している人かも知れない。

あるいは昔は我慢する性格だったけど、
何かのトラウマがあって、
怒るときはすぐ怒るようにしているのかも知れない。

表面上に怒りっぽいことがあったとしても、
それがどのように形成されたか、
それがその人のなかでどう均衡を取っているかまで、
内部に潜って考えるのである。

その人は自分の怒りっぽい性格について、
どう考えているのか。
欠点だと考えているのか。無自覚なのか。
すぐ怒ると思われていることに、お前らのほうが鈍感だろ、
と怒っているのか。
あるいは普段は冷静なのだけど、
どうしても我慢できないことに遭遇したら怒りが爆発してしまい、
それは冷静さの裏返しなのか。
一回直そうと頑張ったのだが、挫折したのか。
これでも丸くなったほうなのか。
あるいは、年々怒りっぽくなっているのか。

自分の性格がどう形成されたかに、
無自覚な人はいない。
その人とカウンターで飲んだら、
「俺、自分の怒りっぽい性格を直したいんだ」と言うか、
「怒りっぽいのは、ストレートだからいいことなんだ」と言うか、
「それが今は不快でも、あとあとその人のためだと思っている」と言うか、
人によって違うと思う。

そこまで「怒りっぽい性格」を掘り下げて、
初めて怒りっぽい性格を表現できると僕は思う。

ただ悪役が悪い性格で、
ただヒーローが正義の性格である、
なんて思っているのだとしたら、
人間に対する観察眼がなさすぎる。
人間はどんな立場でも、
「自分が一番正しくて、フラットに世界を見ている」
と信じて生きている生き物である。
その人は端から見たら偏って生きているのだが、
その人のなかでは自己完結しているのが、
人間という生き物で、
だからこそ差異の部分(つまりコンフリクト)が、
面白いのである。



じゃあ上級者は?
「それが、物語の進行に関係している」ように描く。
ただの怒りっぽい性格なら、
衣装は青、ぐらいの、表面的なガワでしかない。

その人が怒ったことでトラブルがあるとか、
その人が怒ったことで左遷されて物語がはじまるとか、
その人が逆に怒りを我慢したことで、重大な犯人を見逃すとか、
そのことで物語のターニングポイントになるように、
利用するのである。

その人が怒りっぽい性格ゆえに、
話が転がるようにする、
と言っても過言ではない。

そうすると、
その人の自分の怒りっぽさへの自覚が、
変容する可能性がある。
自分が怒りっぽいゆえに大変なことになったとか、
逆に我慢したことで大変なことになったからである。
じゃあその人は自分の怒りっぽさと向き合い、
どうしていくかを決めなければならない。
つまりそれが変化であり、内的ストーリーの軸になるわけだ。

その後具体的な話と引っ掛けて、話を作っていけばよいわけだ。


さらに上級者は、テーマから逆算して、
この人は怒りっぽい性格だと、テーマを浮き立たせやすいな、
と配役をする。
主人公なら、素直さとか正義感とか、見て見ぬふりとか、
そういうモチーフに関することがテーマになってくるだろう。
脇役にするとしたら、
主人公の我慢強い性格と対比させることで、
たとえば素直さというテーマへのサブテーマになりうるはずだ。


今一度問おう。
性格は、どう描くか。

全てが関係しているように描くのがベストだ。
その因果関係こそ、ストーリーである。
posted by おおおかとしひこ at 16:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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