たとえば「怒りっぽい性格」というのは、
どう描けばいいだろう。
一番だ目なのは、
「私、怒りっぽいの」と自己申告してちっともそういう場面がなかったり、
「あいつは怒りっぽい性格だ」と他人に表現するパターンだ。
まさかそんなことしてないよな。
物語というのは、
観客が、
「こいつ怒りっぽい性格だなあ」と、
勝手に判断したり分析出来るような、
状況を与えることだ。
間接表現だということを、いま一度思いだすべきだ。
普通にやることは、
普通の人がちょっと怒ることでムカーッてなる場面を描くことだ。
たとえば行列に並んでるときに「早くしろよ!」
って大声で怒鳴るなどである。
あるいは、
普通の人が何でもないところで怒ってもよい。
何でもないところでけつまづいて、
地面に怒る人なんかは、よく見るよね。
さて。
これだけで、「怒りっぽい性格」を表現したと思うのは、
まだまだ初心者に毛が生えたようなものだ。
中級者以上は、
こう考える。
「怒りっぽいということはどういうことだろう」と。
実は正義感が強烈に強いかもしれない。
会社でいつも怒っている人がいたとしても、
その人はとても正義感が強く、
間違ったことや不正や怠慢を許さない人かも知れない。
みんながなあなあで済ますブラックな事柄に対して、
本気で怒れる人はヒーローの資格があると僕は思う。
あるいは、感情がストレートに出ているだけかも知れない。
その人はすぐ喜んだり、すぐ泣いたり、
すぐ感動したりする人かも知れない。
素直な人だから、素直に怒りを隠さないだけかも知れない。
だからこの人は嘘が下手で、正直に生きてきた人だ。
逆に隠し事があるかも知れない。
怒ることでそれを誤魔化している人かも知れない。
あるいは昔は我慢する性格だったけど、
何かのトラウマがあって、
怒るときはすぐ怒るようにしているのかも知れない。
表面上に怒りっぽいことがあったとしても、
それがどのように形成されたか、
それがその人のなかでどう均衡を取っているかまで、
内部に潜って考えるのである。
その人は自分の怒りっぽい性格について、
どう考えているのか。
欠点だと考えているのか。無自覚なのか。
すぐ怒ると思われていることに、お前らのほうが鈍感だろ、
と怒っているのか。
あるいは普段は冷静なのだけど、
どうしても我慢できないことに遭遇したら怒りが爆発してしまい、
それは冷静さの裏返しなのか。
一回直そうと頑張ったのだが、挫折したのか。
これでも丸くなったほうなのか。
あるいは、年々怒りっぽくなっているのか。
自分の性格がどう形成されたかに、
無自覚な人はいない。
その人とカウンターで飲んだら、
「俺、自分の怒りっぽい性格を直したいんだ」と言うか、
「怒りっぽいのは、ストレートだからいいことなんだ」と言うか、
「それが今は不快でも、あとあとその人のためだと思っている」と言うか、
人によって違うと思う。
そこまで「怒りっぽい性格」を掘り下げて、
初めて怒りっぽい性格を表現できると僕は思う。
ただ悪役が悪い性格で、
ただヒーローが正義の性格である、
なんて思っているのだとしたら、
人間に対する観察眼がなさすぎる。
人間はどんな立場でも、
「自分が一番正しくて、フラットに世界を見ている」
と信じて生きている生き物である。
その人は端から見たら偏って生きているのだが、
その人のなかでは自己完結しているのが、
人間という生き物で、
だからこそ差異の部分(つまりコンフリクト)が、
面白いのである。
じゃあ上級者は?
「それが、物語の進行に関係している」ように描く。
ただの怒りっぽい性格なら、
衣装は青、ぐらいの、表面的なガワでしかない。
その人が怒ったことでトラブルがあるとか、
その人が怒ったことで左遷されて物語がはじまるとか、
その人が逆に怒りを我慢したことで、重大な犯人を見逃すとか、
そのことで物語のターニングポイントになるように、
利用するのである。
その人が怒りっぽい性格ゆえに、
話が転がるようにする、
と言っても過言ではない。
そうすると、
その人の自分の怒りっぽさへの自覚が、
変容する可能性がある。
自分が怒りっぽいゆえに大変なことになったとか、
逆に我慢したことで大変なことになったからである。
じゃあその人は自分の怒りっぽさと向き合い、
どうしていくかを決めなければならない。
つまりそれが変化であり、内的ストーリーの軸になるわけだ。
その後具体的な話と引っ掛けて、話を作っていけばよいわけだ。
さらに上級者は、テーマから逆算して、
この人は怒りっぽい性格だと、テーマを浮き立たせやすいな、
と配役をする。
主人公なら、素直さとか正義感とか、見て見ぬふりとか、
そういうモチーフに関することがテーマになってくるだろう。
脇役にするとしたら、
主人公の我慢強い性格と対比させることで、
たとえば素直さというテーマへのサブテーマになりうるはずだ。
今一度問おう。
性格は、どう描くか。
全てが関係しているように描くのがベストだ。
その因果関係こそ、ストーリーである。
2017年04月15日
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