2017年05月04日

脚本添削スペシャル2017:1 他人の原稿を見よう

はじまりました、今年の脚本添削スペシャル。
今年の応募は、4本でした。(前記事の5は誤報)
さて、去年と同様、
応募作のタイトルと作者名を並べてみましょう。
(応募順。作者名敬称略)

「俺のスマイル包丁」KYKY
「どぶ川跳び」APCHE
「ブレイン・コントロール」立直
「フェイス・トゥ・フェイス」しき

あなたが審査員だとします。
あるいはここは映画館の前です。ツタヤの棚の前でもいい。
どれを取りますか?
逆にいうと、キャッチーなタイトルはなに?


とりあえず原稿を手にとってみましょう。
ちなみに改行などが一部おかしいような気がしますが、
原文でそうなのか、
うちのワードのバージョンが合わなかったかはわかりません。
こういうことを避けるためにも、応募はpdfのほうがいいかもですね。

俺のスマイル包丁.pdf
どぶ川跳び.pdf
ブレイン・コントロール.pdf
face to face.pdf


とりあえず総評です。



僕が最初に手にとったのは、「どぶ川跳び」でした。

タイトルがキャッチーだったことと、
「やること自体は想像できるけど、話の全体像が想像しきれない」
ところがいいとおもいました。
つまり、どぶ川跳びというアクションが、
最終的になにの象徴になるかで、
ストーリーの意味が確定します。
長いこと不通だった二人の老人の和解だっていい。
「砂の器」のように社会問題を意味する言葉かもしれない。
カップルの痴話げんかというギャグでもいい。
それが何をめぐるかという象徴次第では、
傑作になる力のあるタイトルです。

しかし残念ながら、
「別の何かを象徴してどぶ川とする」高度な話ではなく、
そのまんまやないかい、という浅い話でした。
再現ドラマでも今時もっと凝るよね。
昭和の地方NHKが作るような、
古いタイプのドラマだと感じました。
小さくまとまってるけど、何も心に訴えてこない。



つぎ、「俺のスマイル包丁」は?

熱い職人のギャグものか、
泣かせる浪花節が想像されます。
スマイル包丁が必殺技になるか、重要アイテムになるのでしょう。
だとすると、
「おなか一杯のジャンルのひとつ」でしかない気がします。
ミスター味っ子、包丁人味平、将太の寿司などなどの亜流なんだろうなあ。
深夜食堂だってその系譜でしかないしなあ。
ということで、いまひとつ触手は動かない。
どうせスマイル包丁で勝つんだろ?
実際、そんな感じでした。
いや、まさか死ぬとは。あれはないよな。
扱いやすいジャンルだけに、
小さくまとまりすぎた印象があります。
だから死にネタを使わないと、化けることができないと判断したのでしょう。



あとの二本はカタカナタイトルかあ。

僕は、カタカナタイトルは、不利だと思うんですよ。
なんでかというと、話が想像つきにくいから。
内容を想像されるのがいやで、仮面をかぶっているような気がするから。

以前、「オデッセイ」というくそ邦画タイトルで議論した記憶があります。
「開いてない」んだよなそれって。
で、作者の深層心理にふみこむと、
自信がないのを隠してるような気がするのです。

女の子が前髪をアップにしないのは、自信がないときなんだって。
アップにするのは、自信があって輝きはじめたときなんだって。
ずいぶん前、つんくがモー娘の研修生を見ながら言ってたこと。
カタカナタイトルは、
前髪と同じだと、僕は思います。

(海外の映画につけた邦題でもよくそういうのがあります。
「es」とかね。なんのことかさっぱりわからん。
元ネタの「スタンフォード監獄実験」をつかえば、
結構ヒキが強いのになあ)



「ブレイン・コントロール」

ふつうこういうタイトルなら、
マトリックスみたいな話を想像させて、
まったく別のことをやるはず。
それくらい、「テクノロジーで洗脳する」というネタは、
使い古されたモチーフだと僕はおもいます。
いつからSFで使われてるネタだよ。
(ヒトラーですら、映画というテクノロジーで洗脳しようとしたわけだし)
手塚だって藤子だってやったけど、
それは新しい漫画というジャンルだったから新しかっただけで、
元ネタは映画のほうが豊富なはず。
じゃあ、今更やっちゃいかんよね。

マトリックスは、なぜよかったのか?
「バーチャルリアリティー」という新技術がネタになったからです。
スマホが新しく出たところとか、
Siriが出始めならこの話もちょっとは面白く見えたかもしれない。
でも、時代遅れのようなネタだと思います。
いまやAIが羽生と戦うかどうかでやってる時代。
Googleやamazonが洗脳支配者というのならまだ時代性はあったけど。
VRやARは、ぜんぜん盛り上がってないしなあ。

まああんまり知られていない映画だけど、
クローネンバーグの「イグジステンズ」というネタを思い出しました。
もし見てなかったら参考までに。



「フェイス・トゥ・フェイス」

これも同じく、比較されてしまう名作があります。
「美女と野獣」「愛しのローズマリー」などです。
顔と中身というモチーフは、古今東西作家が手をだすネタです。
しかしその星の数ほどある中で、この話がベストだったでしょうか?
「美女と野獣」にだって僕は不満がいっぱいあるので、
この話にはまったく説得されませんでした。

そもそも技術的に気になるところがありすぎて。
この話の規模なら、5分にまとめられるはず。



どんな話であれ、
あなたが何者であれ、
何歳だろうが初心者だろうがベテランだろうが、
そんなこと、関係ありません。
観客は、
「これまで見たすべての話と比較して、面白いかどうかを判断する」
ということを忘れてはいけません。

自分だけがその刃をまぬがれるわけはありません。
だから、厳しくいくことにします。
どうせ世間では、ぼこぼこにされたり、無視されるのです。

その中で目立ち、面白いといわれるには、
「これまで見たすべての話と比較して、面白いかどうか」
でしかないのです。

じゃあ、批判力のある人間は、怖くて一文字も書けないですよね。
だからやめていった仲間もたくさんいます。
でも書き続けるには、
一種の鈍い心か、
それでも何か書きたい気持ちかの、
どちらかが必要です。
うまくなっていくには、書き続けなければなりません。

うまくなるには、その鼻っ柱を、
折られないと気づきません。
ということで、まず出鼻をくじいてみました。


うーん、今年は不作だなあ。
粒がそろってるぶん、とびぬけてるところがない。

とりあえず技術的な添削をして、
書かなかった人たちにも役立つことをしてみましょうか。
posted by おおおかとしひこ at 18:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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