2017年05月20日

スクリーンの中の文字

脚本だけ書いてると気づきにくいこと。
映画内に字だけを出すことはよくある。

新聞の記事、テレビの中のニュース速報、
手紙、メールやライン、
建物名の看板、住所表示、
書類の中の重要な言葉。


そういうときは、たとえば、

記事には『解雇』と書いてある。

などのようにト書きで書いてもいいし、

記事 『解雇』

とセリフ扱いしてもよい。
(「」だと音声に見えちゃうので、
僕は『』表記をよく使う)


さて本題。
それは、縦書きか横書きか?



え、そんなの考えたこともないって?

そりゃ、ストーリーのことだけ書いてたらそうなる。
しかし実際に撮影するときは、
縦書きか横書きかは、結構演出が変わってくるということを、
豆知識で知っておくとよい、
というのが本題。


なぜかというと、スクリーン(フレーム)は、
横長だからである。

横書きは、スクリーンに対して相性がいい。
アップにしやすい。
縦書きは、スクリーンに相性が悪い。
縦一杯までしかフレーミングできず、
横が大量にあまる。

見せたい文字以外が、手紙や新聞や記事には書いてあるものだ。
見せたい文字以外が、そこにないのは不自然なとき、
見せたい文字以外をどう見せない?

たとえば、彼女からの手紙の中の「しあわせでした」
という言葉だけを目立たせて、
それ以外の言葉を見せたくないときは?

報道でよくあるのは、
その言葉にスポットライトを当てて、
他を暗くする演出がある。
しかし映画的文脈で急に暗くはならない。

新聞記事なら、「ミサイル発射」
のようなトップ記事だけを大きくレイアウトし、
他を小さくレイアウトすれば、
その文字を目立たせることは出来る。

しかし、手紙は基本同じ大きさの文字群である。


よくあるのは、カメラに対して斜めにもち、
フォーカスをその行だけ合わせる見せ方だ。
他の行はボカすわけだね。
とすると、やはり横書きのほうがスクリーンに対して相性がいい。

こうして、ドラマや映画に出てくる手紙の演出は、
ほとんどが横書きだ。


ところが、スマホやケータイが出てきてややこしくなった。
縦長のスクリーンだからだ。

横書きとはいえ、その上下や左右に、
見せたい文字以外が大量に同じ大きさで存在する。

この中から、特定の文字だけを浮き立たせる、
効果的な演出法は、今のところ存在しない。
スポットライトも不自然で、
フォーカスも不自然だ。
(手紙なら折り目をつけて、
他の文字を手前か奥にしてフォーカスアウトさせることができる。
しかしフラット面のディスプレイはそうはいかない)


僕は、真面目にスマホやラインやアプリやタブレットが出てきてから、
16:9の横長画面と合わなくなり、
テレビCMが効かなくなったと考えている。
だって画面を見せたら左右余りまくるんだもん。
「これはとても大事な情報である」
という意味のアップが、だせえんだもの。



私たちがそれを避けることが出来るとしたら、
「この文字は縦書きか横書きか?」
「その文字以外の文字もあるのか?」
「そのたくさんの文字の中から、
特定の文字だけを浮き立たせるにはどういう見せ方があるか?」
について、イメージを持っておくことだ。

スマホを取り出し、
これまでのラインのやり取りの中から、
彼女の行ってみたいところが「北海道」という文字を見いだす。

なんてことは、
小説では可能だし、私たちの意識のズームの仕方にもなっているけど、
実際の撮影で撮ることは、
ほぼ無理なことなのだ。

嘘だと思うなら、
カメラの前でスマホの中の文字を色々な角度で撮ってみればいい。

それ以外の文字や、
スマホの向こうの風景がどうしても脇に入ってきて、
目的の文字へのノイズになるよ。


こういうことは、
経験者じゃないと知らないことかも知れない。


脚本を書くときは、
たいして気づかないことかも知れないが、
実際の撮影ではとても困る、ということがたくさんある。
文字の見せ方は、わりと最たるものだね。


逆の発想で、
縦長のスクリーンなら縦書きやスマホが有利で、
正方形スクリーンなら正方形が有利かもだ。
媒体によって表現が変わる、
とはそういうことだ。
posted by おおおかとしひこ at 15:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック