脚本だけ書いてると気づきにくいこと。
映画内に字だけを出すことはよくある。
新聞の記事、テレビの中のニュース速報、
手紙、メールやライン、
建物名の看板、住所表示、
書類の中の重要な言葉。
そういうときは、たとえば、
記事には『解雇』と書いてある。
などのようにト書きで書いてもいいし、
記事 『解雇』
とセリフ扱いしてもよい。
(「」だと音声に見えちゃうので、
僕は『』表記をよく使う)
さて本題。
それは、縦書きか横書きか?
え、そんなの考えたこともないって?
そりゃ、ストーリーのことだけ書いてたらそうなる。
しかし実際に撮影するときは、
縦書きか横書きかは、結構演出が変わってくるということを、
豆知識で知っておくとよい、
というのが本題。
なぜかというと、スクリーン(フレーム)は、
横長だからである。
横書きは、スクリーンに対して相性がいい。
アップにしやすい。
縦書きは、スクリーンに相性が悪い。
縦一杯までしかフレーミングできず、
横が大量にあまる。
見せたい文字以外が、手紙や新聞や記事には書いてあるものだ。
見せたい文字以外が、そこにないのは不自然なとき、
見せたい文字以外をどう見せない?
たとえば、彼女からの手紙の中の「しあわせでした」
という言葉だけを目立たせて、
それ以外の言葉を見せたくないときは?
報道でよくあるのは、
その言葉にスポットライトを当てて、
他を暗くする演出がある。
しかし映画的文脈で急に暗くはならない。
新聞記事なら、「ミサイル発射」
のようなトップ記事だけを大きくレイアウトし、
他を小さくレイアウトすれば、
その文字を目立たせることは出来る。
しかし、手紙は基本同じ大きさの文字群である。
よくあるのは、カメラに対して斜めにもち、
フォーカスをその行だけ合わせる見せ方だ。
他の行はボカすわけだね。
とすると、やはり横書きのほうがスクリーンに対して相性がいい。
こうして、ドラマや映画に出てくる手紙の演出は、
ほとんどが横書きだ。
ところが、スマホやケータイが出てきてややこしくなった。
縦長のスクリーンだからだ。
横書きとはいえ、その上下や左右に、
見せたい文字以外が大量に同じ大きさで存在する。
この中から、特定の文字だけを浮き立たせる、
効果的な演出法は、今のところ存在しない。
スポットライトも不自然で、
フォーカスも不自然だ。
(手紙なら折り目をつけて、
他の文字を手前か奥にしてフォーカスアウトさせることができる。
しかしフラット面のディスプレイはそうはいかない)
僕は、真面目にスマホやラインやアプリやタブレットが出てきてから、
16:9の横長画面と合わなくなり、
テレビCMが効かなくなったと考えている。
だって画面を見せたら左右余りまくるんだもん。
「これはとても大事な情報である」
という意味のアップが、だせえんだもの。
私たちがそれを避けることが出来るとしたら、
「この文字は縦書きか横書きか?」
「その文字以外の文字もあるのか?」
「そのたくさんの文字の中から、
特定の文字だけを浮き立たせるにはどういう見せ方があるか?」
について、イメージを持っておくことだ。
スマホを取り出し、
これまでのラインのやり取りの中から、
彼女の行ってみたいところが「北海道」という文字を見いだす。
なんてことは、
小説では可能だし、私たちの意識のズームの仕方にもなっているけど、
実際の撮影で撮ることは、
ほぼ無理なことなのだ。
嘘だと思うなら、
カメラの前でスマホの中の文字を色々な角度で撮ってみればいい。
それ以外の文字や、
スマホの向こうの風景がどうしても脇に入ってきて、
目的の文字へのノイズになるよ。
こういうことは、
経験者じゃないと知らないことかも知れない。
脚本を書くときは、
たいして気づかないことかも知れないが、
実際の撮影ではとても困る、ということがたくさんある。
文字の見せ方は、わりと最たるものだね。
逆の発想で、
縦長のスクリーンなら縦書きやスマホが有利で、
正方形スクリーンなら正方形が有利かもだ。
媒体によって表現が変わる、
とはそういうことだ。
2017年05月20日
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