お話の設定や構造は、
どういう形で我々の脳内に格納されているのだろうか。
そういうことを研究している人はあまり聞いたことがない。
僕の感覚で言うと、
歴史の年号や人名のような、
一対一対応のテーブルがあるのではなく(宣言記憶)、
手足を動かすような運動の記憶に近い(手続き記憶)
ような気がしている。
その証拠に、
キャラ名やアイテムの名前は忘れるけど、
この話は次こうなるとか、
最終的にこうなるとか、
なんでこうなったんだっけ、
とある時点を忘れていても、
前からの何かを補完すると思い出したりするからである。
時系列記憶という点で、
宣言記憶ではなく手続き記憶であろうと。
(宣言記憶と手続き記憶の違いについては、
わりと研究されてるのでググってください)
記憶というと、暗記パンみたいに、
AとBをペアにして覚えるものであるというイメージが一般的だ。
しかしその記憶の仕方では、
自転車に乗る、みたいな動的なことは出来ない。
運動神経みたいなことかも知れない。
コンピューターは宣言記憶について発展した。
メモリというやつだ。
ICチップの基本構造は小型のコンデンサ
(コンデンサの原理については、
理系の高校物理の電気の中でやる)であり、
電子を蓄えたり解放したりを、
極小で、長短時間で駆動するものに過ぎない。
それがUSBメモリだろうがHDDだろうがSSDだろうが、
100ギガが大体1億個の極小コンデンサが使える、
というだけにすぎない。
それは、AとBを対応させる、宣言記憶を実現する。
ニューラルネットの出現により、
運動記憶を保持できることが分かった。
エレベーターの制御をはじめ、
電車のアンチロックブレーキシステムや、
信号の動的制御、
軍事ロボットの開発など、
ニューラルネットを用いた運動再現や制御は数多い。
(アルファ碁で有名になったディープマインドも、
金をかけたデカイニューラルネットである)
しかしAとBを対応させる宣言記憶モデルと違って、
ニューラルネット内では、
手続き記憶がどのような構造になっているのか、
まだ解析が進んでいない。
その時々のニューラルネットの解析は出来ても、
「こういう機構がこのような性質を実現している」
みたいなことは分かっていない。
ということで、
手続き記憶に関しては、実のところ研究が進んでいない。
宣言記憶は大脳新皮質にあるらしく、
手続き記憶は海馬あたりにあるらしい。
それ以上は脳の損傷者などを使って検証を進めるしか出来ないので、
研究は遅々として進まない。
(人体実験が出来れば解明は進むだろうけど、
まあ滅茶苦茶過ぎるよな)
さて。
物語はおそらく、体の感覚であり、
単純な記憶ではない。
これは僕の説だ。
論理展開や、アウトラインプロセッサや、シナリオ工学は、
宣言記憶的に物語を扱おうとする。
あるパーツを入れ換えればそれらが機能すると考えるのは、
それが宣言記憶的に出来ていると考えるからである。
HDDの一部クラスタが壊れたら、部品交換すれば直るはず、
と考えることと同じだ。
暗記テスト100問の20問間違えたら、あと20問頑張ろうと考えるのと、
同じだ。
しかし、物語の構造は、もっと動的で、
運動の記憶に近いと僕は考えている。
前に来るもので、今あるものの意味が変わってしまうなら、
メモリは滅茶苦茶になるよね。
音楽や運動などは、時間軸をもった何かだ。
たぶんこれを分かってない人が、最近の物語をだめにしたのかも知れない。
スチル的にしか考えられない人とか、
設定厨とか、キャラ厨とか、
企画書の一枚絵しか理解できない投資家とか。
彼らは宣言記憶的に物語を扱い、
手続き記憶的に物語を扱えないのではないかな。
つまり、要するに、運動神経が悪いんだ。
じゃあ打ち合わせは、歩きながらやってみようか。
効果あったりして。
でも実際、歩きながら考えたほうが、
ストーリーに関してはいいアイデアが浮かぶのは、本当だ。
というのも、
昨日は以前に作ったCMの改訂で、
理屈で編集しなおすより、
体に聞いて感覚でやったほうがうまく行ったんだよ。
その感覚の精度に関しては僕は自信がある。
1フレは見えてるし、尺を正確に掴めるし、
タイトル安全とフレーム安全は見なくても分かるし、
昔フレームのセンターを1ピクセル単位(HDで)で当てたこともある。
あと2デシの差を聞き分けることも出来る。1デシは無理。
クライアントや代理店は理屈(宣言記憶)で指示してくる。
体を使ってない、頭でっかちの論理だ。
しかしフィルムというのは全身体験である。
体に聞いたほうがうまくいく。
体が出来てればの話だが。
ということで、
手続き記憶ってどうやって体得するの?
アルファ碁の研究によると、
24時間ぶんまわして何ヵ月も色んな局面を指して、
ニューラルネットを進化させるのだそうな。
つまり、いっぱい見て、いっぱい書けという、
先人の教えが一番効果的な結論という落ち。
2017年06月17日
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