2017年06月21日

主観と客観とことば3

さらにつづき。
で、そもそも、実は、
ことばというものが、そのような道具に過ぎないのだ。
私たちの本当の気持ちは気持ちでしかなく、
ことばではない。
ことばはあくまで方便である。

もしあなたが「自分の気持ちをうまく表現できない」
で悩んでるのだとしたら、
「方便のための道具を沢山知らない」か、
「全ての道具を知ったとしても、ことばは気持ちと距離がある」
の、どっちかしかでないということだ。


人生の最初のうちは、
ことばを知らないことによる不利益が大きい。

沢山ことばを知るに越したことはない。
大阪に行くのに、
飛行機でも新幹線でも自転車でも、
手段は多い方がいい。
ひとつしか知らないと、それがダメなときのリカバーが効かない。
ことばは道具だから、
ひとつしか使い道のないものではない。

沢山ことばを知ってくると、
(たとえば数万語)
たいしてことばを知ることの利益がなくなってくる。
あるひとつの新しい概念も、
ことばの組み合わせで事足りるようになってくるからだ。

勿論、それが新しくかつ多用するのなら、
短くまとまった新語になる可能性がある。
ネットはその最先端の実験場のひとつで、
古いけど「ファビョる」なんてのは、
新しい現象をうまく表現した新しい方便の道具である。


さて、
しかし、ことばは万能ではない。
所詮道具である。

私たちの思考や感情は、
もともと言葉を持っていない。
言葉は、あとで生まれたものである。

だから、ことばは永遠に気持ちに追いつかない。


そもそもあなたの気持ちは、
ことばに落とした時点で、
どこかこぼれ落ちる。
ことばに出来ない気持ちを、こぼれ落ちることばで伝えるのは、
そもそもことばという道具の性質を知らないのである。

気持ちは大阪弁で、
言葉を標準語にたとえるならば、
どんなに標準語を駆使しても、
大阪弁のことばは表現できないのである。

だから私たちは、別の方法を使う。

ことばを、中間ソースとして使い、
相手の受け取った心の中で、
それが大阪弁に展開されるようにするのである。

これを、想像が膨らむようにする、
などと言う。

簡単なのは省略法だ。
「その化け物は光る目をしていた」
と書けば、光る目以外は省略されている。
しかし人の想像は、その部分を補う。
補うことで、自分の中にその感情を展開させる。
この場合伝える気持ちは、「こわい」である。
これさえ伝わればよい。
その化け物が長い体毛をしていようが、
長く鋭い爪があろうが、
額に禍々しい模様があろうが、
獰猛な声を出そうが、逆に猫なで声だろうが、
黒かろうが灰色だろうが、
それは想像すればいい。

「こわい」が伝われば、
その人はたとえば東北弁でのこわい感情を展開するだろう。
なまはげとかの記憶があれば、
その化け物は彼の中では「赤い」かも知れない。



主観的な気持ちを、客観的なことばで伝えることは、
つまりはこういうことなのだ。


私たちはAをAと表現するのが仕事ではない。
AをBと表現し、Bを見た人がAになるように作る。

Bはことばでもいいし、標準語でもいいし、
映像でもコントでもストーリーでも構わない。


この辺を分かっていないと、
いつまでたっても「すぐれた表現」の意味がわからない。

「私の気持ちがこんなに上手く表現されている!」
とJポップの歌詞を言うのは、
Aの話をしている。

「一見全く違うBなのだが、Aになるように、
最も劇的で、かつ多くの人に届くように、
しかも最小のものによる、
最大の効率になっている」
と表現BとAの関係を考えることが、
すぐれた表現について考えることだ。


このブログのような解説文では、
AをBで表現するような、高度な表現を使わない。
ストレートにAに近いことばを使う。
Bを凝っている暇もないからね。

例外のひとつは、たとえばなしだ。
大阪弁と標準語の関係の方が、
あなたの中で「わたしにもこういうことがある」
と、思いやすいと、僕は考えたわけだ。
実感を伴う、と。



ことばすら、所詮はBである。
すべての表現は、所詮はBだ。
それで、どうやってAを表現したことになるか、
それは上手いやり方(効率がいい、スピードが速い)か。
そしてそれは、新しい、上手いやり方か。
そしてそれは、深いAに届くのか。

私たちは、それを競っている。
posted by おおおかとしひこ at 13:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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