2017年07月11日

なぜ心の声を使うのは反則なのか

モノローグとかボイスオーバーとかいうけど、
とにかく心の声を、映画では使わない。
(使ったとしても、オープニングやエンディングで、
わずかに使う程度)

なぜか。

「その人の心を推測して解釈すること」
そのものが、映画だからである。


漫画でよく使われるテクニックに、
「心のなかではこう思っているのだが、
言った言葉は裏腹」
というやつがある。

好きなんだけど冷たくしてしまう、
嫌いなのに媚びたことを言う、
こうするつもりだったのに、違うことを言ってしまった、
騙すとき、
などなど。

心の声をたとえば四角の吹き出し+教科書フォントに、
実際の声を丸吹き出し+明朝フォントにするなどして、
裏腹の言葉をふたつ並べる、
なんてのはよくある演出である。

少女漫画や青年漫画には頻出するね。
それだけ、心のなかと外のギャップが、
描くテーマに対して格好のモチーフになっているのだろう。

あるいは小説でもよく使われる。
地の文と「」つきの会話文の使い分けや、併記などで。
あるいは説明でもいい。
彼は○○と思っているのに、実際に出た言葉はこうだったのだ。「」
なんてのはよくある。



本題。

映画には、このテクニックはない。

それは、メディアが違うからだとしか言いようがない。


漫画や小説は、
どちらかというと、
「私の見ているこの世界を、私の中から見る」
という感覚に近い。

一方映像は、
「そこで起こっていることをみんなで目撃する」
という感覚に近い。

そこに私はいない。
私の思うことは私の中だけにいる。
目撃するみんなは、それぞれ私の中で、
別のことを考えているかも知れない。
(最終的に、なるべく同じことを思うように誘導する)

そこで起こっていることを、
他人が経験しているのだが、
その人の心を覗くことはできない。

それが、演劇と映像のメディア上のルールみたいなことだ。

漫画や小説は、私の中から世界を見る。
演劇や映像は、私の中は見えない。

だから、その外側から、中で何が起こっているのか想像する。
目線や表情や芝居で、この人は何を考えているのだろうと観察し、
発言や行動から、この人は○○がしたいのだろうと推測する。

その観察や推察こそが、
演劇的、映画的ストーリーを見るということの本質だ。

それを解釈とか観賞とかいう。
無論、クイズのような当て物ではない。
そのほとんどは、文脈と社会常識に依存するので、
分からないということはない。
逆に、分からないように書いてはならない。
普通現代日本に生きていたら、
こういうときこう言うのは、こういう気持ちだからである、
と、私たちは解釈しながら生きていて、
それは特別な能力はいらない、
常識の範囲だ。

それを逸脱するのは、重要場面のときが多い。
あるいは単純に、脚本家が「分かりにくい」場面を書いてしまっていることが原因かも知れない。


で、この解釈や観賞や推察が常態だからこそ、
映画ではミスリードが根本的なテクニックなのだ。
推察を前提として、どんでん返すのである。
推察を誘導できるからこそ、偽の推察をつくれるのである。


まずいつでも分かりやすいものを作ること。
思っていることと言動が裏腹なものを書けること。
(これは文脈を用意して、その文脈に逆らう言動をさせればいい。
たとえば主人公は嘘をついていることが観客には分かり、
周囲は気づかずにそれに騙される場面を書いてみたまえ)
さらには、ミスリードを作ること。

これらのことが出来たら、
あなたは観客の推察を、コントロールできていると言える。

勿論、心の声を使わずに、三人称形だけでやること。
これが出来るようになると、
心の声を使うのは安易だと考えるようになってくる。


で、
心の声をオープニングやエンディングに使う理由も分かってくる。
心の声は、言動だけで言えないことを言うことが出来る。
いわば、まとめの思考のようなことを言える。
「アニーホール」のオープニングやエンディングのボイスオーバーは、
言動だけで言えないことだ。
こうやって、それでしか出来ないことを知ると、
道具を使いこなしていけるようになる。

マスターするのは縛りプレイが一番いい。
モノローグ禁止。
逆に台詞禁止でモノローグのみ。
どっちが楽かは火を見るよりあきらか。
だから、モノローグは安易に使わない方が、
自分を鍛えられる。
posted by おおおかとしひこ at 10:13| Comment(0) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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