2017年07月28日

本質ビフォーアフター

あなたのストーリーの本質は何ですか。
これを答えるのがいかに難しいか、
最近議論している。
コンセプト、ログライン、テーマの記事参照。

ところで。
それは、ビフォーかアフターか。


ビフォーというのはつまり見る前のこと。
アフターというのはつまり見たあとのこと。

本質は、ビフォーとアフターで異なることに注意せよ、
というのが本題だ。


見終えたあとにしか分からない、
「この話の芯はこれなのだ」ということを、
見る前の人に言ってもダメだ、
ということをこれから話そう。

人はそれを見ようとするとき、
ビフォーの気持ちで見るはずだ。
(リピーターをのぞく)
映画というのは初見ビジネスだとも言える。
(逆に歌舞伎はリピータービジネスだね)

初見の人に、見終えたあとに分かった本質を伝えても意味がない。
それは見終えたあとの景色であり、
ネタバレであり、
結果であり、
変化の前に変化の後を伝えても、
その変化を見守ろうとは、
決して思わないからである。


「ルパン三世カリオストロの城」でたとえてみよう。
名作なので十分見ているとしてネタバレするよ。

アフターの本質で残るものは、
「苦い恋」だ。
「こんないい子を連れてっちゃいけない」という、
旅先のアバンチュールだ。
「今旅先でたまたまいつもの日常を離れて出会えたから、
この恋が成立しそうになっているだけで、
いつもの下らない日常に戻ったらこの魔法は解けてしまう。
だとすると、美しい思い出で終わらせた方がいい」
という苦くて美しい決断である。
スキー場の恋みたいなやつの、上位版だね。
「どちらがこの人を大切にしたことになるか、
去る方だ」というテーマだ。
それは別れ際、ルパンが抱き締めようとするけど無理矢理腕を引き剥がす、
ギャグにすることで笑わせている、
あの芝居に全てこもっている。
ルパンは「自分が泥棒である」ということに、
多分誇りを持っていないことがわかる。
「泥棒を覚えます」と、クラリスに言わせるのが上手いよね。
「それはあかん」と、全員が思うようないい台詞だ。
そんなものを抱えながら去らなければならない、
泥棒稼業の哀しみみたいなのが、
この映画のアフターの本質である。


ところが、
これを見る前の人に伝えても、しょうがないと思うのだよ。
「泥棒稼業の哀しみを、この映画で味わおう」と言われたら、
それってどんな話やねん、と想像できないではないか。
泥棒をやることで嫌われることが、話の発端になるか、
ルパンが色々な人から嫌われ、名誉を回復する話を想像してしまう。
で、「あんまり面白そうじゃないな」と思ってしまうだろうね。

具体例で考えればわかるだろう。

ビフォーの人が想像するのは、
話の発端からどんなことが起こるかと、
起こる内容についての豊かな想像だ。
決して、見終えたあとの読後感ではない。

「これからどんなことが起こるか」であり、
「起こり終えたあとに残るもの」ではない。

花火大会を期待し、
花火の燃えかすから立ち上る煙を想像するのではない。
線香花火ですら、
閃く光を想像し、
ポタリと落ちたあとの闇の余韻を想像するのではない。
(それを期待するのは、リピーターであることに注意せよ!)


だからカリオストロの城の、ビフォーの本質とは、
「カラクリと陰謀に満ちたカリオストロ城での、
贋札騒動を巡る大冒険と、王女との淡い恋。
ルパンが小国カリオストロ公国へ。
そこは治外法権の危険な国だった」
と伝えるべきである。

「なんだか面白そう。わくわくするね」
と思わせなくては、本質を伝えたことにならない。
ビフォーの本質とは、
アフターの本質ではない。
アフターの本質を隠したまま、
(出来るなら予感させる。
王女との恋が成立するわけないからね)
内容の枠組みと中心的焦点(この場合贋札騒動)
を伝えることが、
ビフォーの本質を伝えることになる。


これを分かっていないから、
広告は間違う。

あなたは、誰に本質を伝えようとしている?
ビフォーの人?
アフターの人?

それを意識しないと、うまくいかないよ。
ネタバレを伝えることなく、
ビフォーの人にビフォーの本質をうまく伝えられるか?
アフターの人に読後感のことについてうまく伝えられるか?
それを意識して使い分けなさい。


あなたが、書く前に、どの本質を把握しているのか、
自覚しなさい。
アフターの本質を理解していないときは、
きっと最後までたどり着けない。
アフターの本質を理解していても、
ビフォーの本質から始めないと、
ビフォーアフターの変化を体感できず、
結論ありきのレポートみたいになってしまうだろう。




以下、角川宣伝部がいかにバカかという話。
「いけちゃんとぼく」未見の方はここでおしまい。




映画「いけちゃんとぼく」において、
宣伝部は「いけちゃんの正体をばらす方針
(全ネタバレは流石に、と思ったのか、
匂わせる)」と決めた。
はあ?
おかしいやろ、どんでん返しこそがこの話の肝やないか、
そもそもどんでん返しがあるとばれたら、
見る前から探られるやないか。
ヒントが散りばめられてるから、
その匂いを集めたらだいたいわかってまうやんけ。
その驚きこそ原作の醍醐味なのに、
その驚きを、映画から抜くつもりか。

これに対する宣伝部の解答を僕は一生忘れないよ。
「『余命一ヶ月の花嫁』はタイトルでネタバレしてるからOK」
あほか。何重にも映画に無知で失礼だ。

「余命一ヶ月の花嫁」は、ビフォーの本質であり、
アフターの本質ではない。
見てないからなんともだけど、
「余命が決められたときに、何をすることが人生を全うしたことになるだろう」
という、前向きの本質を、
ビフォーの本質で受けとるタイトルのはずである。
そらと同時に、死ぬことは分かっている。
締め切りを切られたとき、人は輝くという本質を、
アフターに予感させ、
自分の人生と重ねて考える、
感動の映画なのだな、
ということまで分かるわけだ。

そしておそらくこれは、
アフターの本質とは違うと考えられる。
主人公のした決断とか、花嫁の残した何かとか、
そういうものに象徴される、
個人的な思いのようなものがアフターの本質だろう。

「余命一ヶ月の花嫁」がビフォーの本質が、
とても良さそうだから、
宣伝部的には特になにもせずにヒットしたのである。
アフターの本質までは知らない。

さて、いけちゃんとぼくだ。
いけちゃんとぼくのストーリーの構造的な本質は、
「子供とオバケの話かと思っていたら、
それが最後にはラブストーリーだったと分かる、
驚き」であると思う。
だからアフターの本質は、
「愛に包まれていたこと」だ。
母親のような、大きな愛、しかしドラえもんのように手を出さず、
ただ話し相手になってくれるだけ。
悲しいことや傷ついたことがあっても、
解決はしてくれない。
そのいけちゃんの正体が分かったときの、
「愛に包まれていたこと」こそが、
アフターの本質だ。

だから、意外にしなければならない。
ビフォーの本質を、まったく別のものに。

「子供の頃しか見えなかったもの」
「夏休みの成長」
などをビフォーの本質にすべきだと僕は主張した。

「子供とオバケのビジュアルだと、
子供映画だと勘違いされる」と宣伝部は主張した。
「子供の頃しか見えなかったもの」っていってんだろ、
それは大人しか楽しめねえわ、と反論しても、
「ネタバレOK」の謎理論で、
いけちゃんとぼくのメインビジュアルは、
砂浜で海を見る老人二人になった。

これはアフターの本質であり、ビフォーの本質ではない。
余命一ヶ月は、ネタバレのアフターの本質ではなく、
ビフォーの本質である。

今ならこのような理屈で反論できる。

どちらにせよ、角川映画という組織は、
宣伝部が制作部より強く、
宣伝部の方針に逆らうことは出来ない。
僕はデビューという人質をとられていたので、
火をつけて暴れることも出来なかった。
(今思えば、それくらいやって意志の強さを表明すべきだった)

それは作品を台無しにする。
そんな宣伝部はおかしいと思うよ。



アフターの本質を知ってしまうと、
ビフォーの本質に戻れない。
それが人間かも知れない。

戻れる人こそが、
映画を扱う資格があると僕は思う。
posted by おおおかとしひこ at 11:19| Comment(2) | TrackBack(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
ビフォーとアフター。面白い観点ですね。
これまで自分の作品の企画を依頼主に伝えると、いまいちな反応ばかりでしたが(実際に形にしたものを見せるとそうではない)、これが原因だったかもしれません。表現をお借りすれば、「アフターの本質」で魅力を訴求していた……。相手からすると、まったくワクワク感が感じられなかったのでしょうね笑
ちょっと、企画書の書き方が変わりそうです。誠にありがとうございました。
Posted by phan at 2017年07月28日 15:10
phanさんコメントありがとうございます。

客観的に、とか、俯瞰して、とか、本質をとらえて、
などと言うのは簡単なんですが、
聞く側が、その客観にいるとは限らない、ということですね。
だとすると、「客観にいるつもりの主観」に伝えるために、
自分も自分の視座にいることを自覚するべきだな、
と思った次第。
客観とか主観とか、ごっちゃになりがちで、自覚できない、
みたいなことを前提とすると、
こういう論も成り立つという。

参考になれば幸いです。
Posted by おおおかとしひこ at 2017年07月28日 16:21
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