前記事の続き。
目的の達成は、ラストに取っておきなさい。
それこそが主人公が待ち望んでいたことであり、
観客が待ち望むことでもある。
まれによくあるのが、
ストーリーが一段落したときに、
その目的達成への感情移入を見失ってしまうことだ。
感情移入は、観客が見続ける大切な動機である。
それがないと、ストーリーの行く末に興味が持てない。
何をやってたってどうでもいいやとなってしまう。
それと同時に感情移入は、
作者の書き続ける大切な動機でもある。
主人公に感情移入してないと、
主人公がどうなろうがどうでもよくなって、
続きを書く気がしなくなるのである。
これは書けない病のなかでも、
わりとポピュラーな現象ではないかと思う。
せっかく一幕で感情移入に成功しても、
そのあと何かひとつ位エピソードをやったあたりで、
なんだか感情移入がどうでもよくなって来ることが、
とてもよくある。
目的が明確で、焦点がはっきりしていても、
急にどうでもよくなる。
その無気力は、
これが原因ではないかと考える。
さて、
どうすればいいのかね。
簡単なのは、
もう一度主人公に情熱ある視線を向ける何かを、
見いだすことではないだろうか?
それが簡単じゃないから困るんだけど。
架空の空間に主人公をよびだし、インタビューしてみよう。
主人公に「私はどうしても○○したいのだ!」
と言わせてみよう。
「なんで?」と聞いてみよう。
「○○だからだ!」と力強く答えられれば大丈夫。
それでストーリーを牽引できる。
今問題なのは、
「えっと…ああ、うん…なんでだろ」
となっているからではないか。
その気持ちが「どうしても○○したい!」に燃え上がる、
その燃料が不足しているのである。
じゃあ、足せばいいのさ。
これまでの軌跡を思い出し、
更なる試練を与えて発奮させるという手がひとつ。
もうひとつは、これまでになかった主人公の情報を新しく作る、
という方法。
その目的を持ったことは、
そもそもまだ私たちの知らない、
何かがあるからだろ?
と問うてみて、新しくエピソードを引き出す(創作する)のだ。
長編漫画には「過去編」と称するシリーズがたまにある。
知られざる○○の過去…なんてやるやつだ。
これは何のためにあるかというと、
目的遂行の、感情移入のエネルギーを追加しているのである。
じゃあ回想を挟めばいい?
何かをきっかけにふっと思い出す?
それはあからさまだ。
一番簡単なのは、
他のキャラクターに、
「お前がそこまで○○の成功に拘る理由が分からない」
と言わせるといい。
そうすると、時系列は現在のまま、
主人公がまだ誰も知らない新しい理由を話し出すかも知れないね。
嵐が過ぎる一夜、語る夜があったりしてもいい。
少しの間昔話が出来るエアポケットを作ればいい。
あからさまにそのシーンに入るのがアレなら、
直前のシーンにそれに関係する何かを置いといて、
それを見た主人公が尋常でない反応をして、
あれはどういうことだったんだ、と誰かに聞かせればいい。
もしその追加燃料のエピソードが強力で、
気に入ったら、
それは一幕に入れたほうがいいだろうか?
難しい質問だ。
そんなに推進力になるのなら、
最初から動機にしとけばいいやん、
という合理はわかる。
ケースバイケースだけど、
僕の経験から言うと悪手のような気がする。
理由は最近書いている、ビフォーとアフターの関係かな。
今アフターの視点で一幕を見ていて、
ビフォーの視点で一幕を見れていない、
という可能性が高い、というのが経験則。
何にも知らない状態からそれを知って、
果たして初稿ほど惹き付けられるか、
と、ビフォーの視点から挿入を検討するべきだ。
初稿の感情移入に比べて、
よりどうなるかを分析してから、
新しい燃料の序盤投入の決断をすべきである。
悪手だと思うのは、
ビフォーの視点になかなかなれない、
という経験談ゆえ。
そうでないほどフラットな視点に立てるなら、
序盤の再検討はあるかもね。
その追加燃料は、今すぐ投入しなくていいかも知れない。
少しあとやだいぶあとに投入して、
物語をうまく加速するポイントまで待つという手もある。
作者の情熱さえ取り戻すことが出来れば、
いかようにも演出が可能になるはすだから。
バガボンドの農業編に戻れば、
伊織も植物を育てることも、
当初の目的「いっぱしの武士になること」以上の情熱を、
(作者が)傾けられなかったということなのだ。
どうせなら、「どうして武士になりたかったのか」
を、父親を絡めたり又吉を絡めたりして、
回想編にでも入れば、
まるごと農業編を省略できたのではないかな。
むしろ、
今の武蔵が当初以上の情熱を持てるのは、
対小次郎戦以外ないのではないか。
井上雄彦は、その長考に入ってしまったんだね。
吉岡一門の直後に小次郎と邂逅していても、
よかったんじゃね?
(そこで一回敗北させとくとか)
そうすれば、農業やりながらでも小次郎の太刀筋を破る練習をしたりして、
モチベーションが切れなかったんじゃないかなあ。
さらに最善手は、
農業編になってもなお、
感情移入の情熱を失わないほどの、
第一話を描いておくことだった。
しかしそれは手遅れというものだけど。
(いかにファーストシーン、ファーストエピソード、
第一幕が重要か、改めて引き締まるよね)
もっといい方法があるなら、
おしえてください。
僕の今のところのやり方は、
これくらいしか編み出していない。
2017年07月31日
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