2017年08月11日

まとまった話が難しい理由

何故ストーリーを書くことが難しいのか。
実は、まとまった話をすることが難しいことと似ているのではないか。


まとまった話をするには、
その話が、なんらかの意味を持つ話でなければならない。
簡単なのは「主張」である。
論文やブログやスピーチは、
とある主張をするために、
まとまった話をする。

その意味は、新規の意味である必要がある。
既知で古くさいならば、
あまり意味はない。

つまり、まとまった話をするのが難しいのは、
新しく意味のあることを、
そもそも発見しなければならないことにある。
さらにそれを、
論を組み立て、なるほどと思えるようにしなければならないわけだ。


物語がこれよりもう一段難しいのは、
物語は主張をするためにあるのではないところだ。
形式的には、
とある事件を主人公が解決するだけである。

それは何も主張しない。
物語は「言いたいことを言う」ためにはない。
(これは沢山の人が誤解している。
物語を受けとる人も、道半ばの書き手も)
言いたいことを言いたいなら、
まとまった話を、論文やブログやスピーチですればいいだけだ。


ところが。
ここからが重要なのだが、
受けとる側は、
それが論文やブログやスピーチだろうが、
物語だろうが、
その形式に関係なく、
「まとまった話から、何らかの意味を受け取ろうとする」
という性質があるのだ。

だから、意味のない話は、
「意味がなかった」と受け止められ、
詰まらない話だったなあ、となるのである。

論文やブログやスピーチならば、
最後に主張を短くまとめて終われる。
しかしストーリーはそうではない。

あくまで形式は、
「とある事件を主人公が解決する」でしかないからだ。


ストーリーの意味とは、暗示である。

ベストのパターンは、
事件が社会的な問題と関係があり、
主人公の解決の仕方が、
これまでにない斬新で効果的な解決法である、
というものだ。

これならば、
解決されるべき問題を、
このように(新しい方法で)解決しよう、
という手本を示したという意味になる。

直接そう言わなくても、暗示でだ。

しかし毎回毎回、
そんなに上手い方法が見つかるはずがない。
それは一種の発明であり、
ストーリーテラーが毎回そのような発明を出来る保証はない。

(僕がずっと実写化を狙っていた、
「ビジネスコマンドーヤマザキ」という富沢純の漫画では、
毎回そのような発明をしている。
流石に時代が古くなり、
実際そこに描かれたいくつかの発明は実現してしまった)


真逆を考えよう。
「誰もが納得する、普遍的な価値観を再確認する」
というパターンもある。
勧善懲悪、信賞必罰や、努力が報われるとか、
定型のラブストーリーはこのパターンである。
王道といってもよい。
これをプログラムピクチャーと言っても過言ではない。
いつも一定量こういうものは必要だ。

安心するけど、新しくない。
長所は欠点でもある。

しかし観客は常に、「同じだが、新しいのをくれ」と言う。
(最近の東宝は全てがプログラムピクチャー化しすぎだ。
新しくない、同じものばかり作っている)


つまり。
ストーリーの意味とは、
王道と、発明の、間に全てがある。

尖ろうとすることは、
バッドエンドにしてみたり、
定型を崩したりすることで、
新しいことをしようとすることである。
これ自体は素晴らしいことだけど、
こうすると王道と発明の間にはまる、
何らかの意味を見いだせるものに、
まとまらないことがとても多い。

(静観中だが、おそらくファイアパンチはちゃんと終わらない)

尖ることで、意味のあるものから逸脱しがちだ。
理想は、尖った、発明であることだ。
そして王道にも落ちてるのが最高だ。

あなたはこれから2時間、スピーチをする。
どんなまとまった話をするのか?
どんな意味のあることを言うのか?

発明か?
王道か?(それは聞きあきた説教の危険もある)
その間か?
尖ったが落ちなしか?


そもそもまとまった話をするには、
その意味を考えなければならない。
それが、実は一番難しい。


(僕はCM出身で、実のところそこに気づくまで時間がかかった。
だってCMの意味は、なにをしようが「この商品は素晴らしい」という
落ちでしかないからだ。
映画は、それに落とさなくていいんだ、と気づいたとき、
逆に不安になった。
どこへ向かえばいいのだ?ということに。
それを見いださない限り、ほんとうは話を書いてはいけない)

難しいので、
初心者は、王道やプログラムピクチャーを書いた方がいい。
徐々にはずしを学ぶとよいだろう。
守破離だ。
posted by おおおかとしひこ at 18:11| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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