2017年08月24日

目的と動機は違う

目的は焦点(いまの注目点)に関係し、
動機は感情移入に関係する。


たとえば。

私は脚本を書きたい(目的)。
それは人を楽しませるためだ(動機)。
実のところ偉くなりたい(動機2)。


目的とは、
具体的に、目で見えるものを言う。
小説なら目で見えないものを目的に出来るけど、
映画はカメラで撮らなきゃいけないので、
目で見えるものを目的にする。

「偉くなる」は目で見えないから、
「表彰式でトロフィーを貰う」とか、
「クラブでお姉ちゃんを両肩に抱きウハウハする」とか、
具体的な、目に見える(カメラで撮れる)絵を、
目的にする。

脚本を書く、というのも絵で見れる目的だね。
(出来がいいか悪いかはカメラで撮っただけじゃ分からないが)

目的というのは、
その時々の文脈によって変わる。
「脚本を書く」という大目標があったとしても、
たとえば「取材をする」という小目的があったり、
「勉強する」という小目的があったり、
「受けるギャグを考える」なんて小小目的があったりする。
それらを全部クリアすれば、目的は達成できるわけだ。

ストーリーというのは、
この目的を常に観客が把握しているようにするべきだ。
何故なら、人物の行動を見るのがストーリーだからだ。
なんのために行動してるのか、
分からなくなったら、
ただのアクションを見るだけの退屈なものになってしまう。
(詰まらないストーリーの最もポピュラーな感想は、
「何のためにこれをやってるのか分からない」)

観客が把握するようにすればいいわけだから、
その人物に「ようし○○するぞ」と言わせても構わない。
流石に下手なやり方だけど、
「分からない」より一万倍ましである。
普通はもっとエレガントにやる。
しかしエレガント過ぎて、今なに目的か分からないぐらいなら、
それを明示したほうがましだと思う。

昨今のテレビなんて、
常に画面端に「果たして○○は成功するのか?!」
なんて常に目的を書いてあったりする。
途中でチャンネルを変えた流入組に、
一から説明しなくても分かる方法である。

これを焦点という。

その人物が、なに目的で行動しているのか、
明らかであること。
そしてストーリーが、常に「果たして○○は成功するのか?!」
で動いていること。

これが、焦点がはっきりした状態だ。


焦点がはっきりしない、ぼやけている、
というのは、
「面白いは面白いけど、これなんだっけ」とか、
「惹かれる感じなんだけど、この人何してるんだっけ」とか、
「何かをしてるのは分かるけど、目的が分からない」とか、
「だらだらしていて、なにもしない」とか、
「分からないから飽きてきた」
などのことである。

焦点がはっきりしていても、詰まらないときもある。
しかし、焦点がはっきりしていないのは、
確実に詰まらない。

何故なら、ストーリーの行方を、ハラハラして見守れないからである。



さて。

焦点がはっきりしていても、詰まらないとはどういうことか。

それは、感情移入しているかしていないかである。
感情移入していれば、
その人の行動の一挙一動を観察して、
成功するのかしないのか、ハラハラして見守れる。
それはダメだ!失敗するぞ!と思ったらやっぱり失敗して、
彼の悲しみや悔しさを共有するし、
やった!うまくいった!と思ったら、
彼の喜びを我がことのように感じる。
それが感情移入だ。

感情移入していなければ、
その人の行動の焦点が、いくらはっきりしていても、
興味が湧かないだろう。

たとえば、僕の人生がどうでもいい人、
つまり大岡俊彦に感情移入していない人は、
僕が偉くなろうが脚本を書くことに成功しようが、
どうでもいいことだろう。

知らない人の行動の成否なんて、
基本どうでもいい。
それが人間というものだ。

ところが、
それが何かしらのことによって、
どうでもいい人から、その人の行く末を見守るようになる。
その過程が感情移入なのである。


感情移入のプロセスは、
その人の事情や気持ちを知り、
知り合いになるような、
友達になるような感覚である。

テレビのバラエティーの芸能人を見て、
あーだこーだ言うのは、
テレビの中の人を、半分友達みたいに思っているからだ。
勿論それがユーチューバーだろうが生主だろうが、
それは同じこと。


ところで、
その人と一回友達感覚になってしまったらもう麻痺しているから分からなくなってしまうが、
そうなる状態のプロセスを覚えているだろうか。
そのプロセスこそが感情移入だ。

ちょっと目立ってて、
興味ある、ちょっと好きかも、
あたりから始まったはずだ。
そうじゃなきゃ注目すらしなかったからだ。

で、その人の外見だけで好きになっただろうか。
違うはずだ。
その人をもっと知っていった上で、
さらに好きになっていったはずだ。

逆に、写真だけ見てこの人はどういう人なんだろうと、
妄想だけ膨らませて、動いてるの見たらガッカリ、
なんてのは山ほどあるよね。
知ったら幻滅、というのもあるわけだ。

で。
リアルの世界の人はおいといて、
物語の中の人に感情移入するのは、
「その人の外見以上の何かを知っていったとき」だ。

ようやくここで繋がる。

その人は行動している。
その人の目的ははっきりしている。

それだけでは感情移入できない。

どうしてその人が、そもそもそのことを完遂したいと思ったのか?
ということを、
知っていて、かつ応援したいと思ったとき、
人は感情移入する。

これを動機というわけだ。



大岡俊彦は脚本を書けるだろうか?
何故彼は書くのか。
1. 下らない邦画を駆逐して、世の中の人々を楽しませるためだ。
2. 偉くなってキャバクラ三昧したいからだ。

2を応援する人はあんまりいなくて、
1なら応援する人も出てくるだろう。

そういうこと。


世間一般に、価値あると思われることを成し遂げようと、
動機を持って行動する人を、
人は応援したい。

それが正義かどうかは分からない。
(たとえば必殺仕事人は、法律上の正義とは言えない)

勧善懲悪は、分かりやすく正義と悪をわける。
分かりやすくして感情移入させやすくするためだ。
しかし、正義と悪に分類されない、
別の価値の実現だって世の中にはたくさんある。

そういうことを動機にするといい。


勿論、感情移入はそれだけではない。
たとえば、同情も感情移入になる。

大岡俊彦がずっともてなくて、
学生時代からふられまくっていたけれど、
面白い脚本を書いて世間から認められたら、
段々もてはじめた、ということならば、
「がんばれ、もてろ」と同情してくれる人もいるだろう。
さらにたとえば、
中学生のときに女性不信に陥った悲惨な事件があるとしたら、
「女はそいつだけじゃない」と、
さらに応援したくなるかもしれない。
それは全て、同情による感情移入だ。


その人の事情を知ること。
その人の動機の源泉を知ること。

それがあると、その人の行動の理由が分かる。
どうしてそれに拘り、
失敗したとしてもへこたれないか、
その理由がわかる。

僕が面白い話を書く(目的)たびに、
1. 「世の中にこんな話が広まればいいのに」と応援する。
2. 「もてろ」と応援する。
ようになるわけだ。

そして僕が成功したら、
1. 「俺の代わりに世の中を良くしてくれた」とカタルシスを感じ(代償行為)、
2. 「良かったねえ」とカタルシスを感じる(上から目線)、
わけである。


僕の動機が不明であれば、
まあ勝手にやっとくれ、だっただろう。
しかし、
人は一端動機を知ってしまい、
それが実現するといいのに、
と思うと、
頑張る行動は応援したくなるものだ。

そうやって、
いつの間にかストーリーに巻き込まれて行くのである。



勿論、これは主人公一人の特権でなく、
脇に出てくる登場人物にも言えることだ。
彼または彼女の、
現在の目的と、そもそもの動機、
これらを知ると、
「みんなの夢が叶えばいいのに」と引き込まれて行く。

そうなったとき、
そのストーリーに夢中になっている、
つまり、その焦点の行方に、意識を縛られ続けている、
ということになるわけだ。


詰まらないストーリー、
すなわち退屈して引き付けられないストーリーとは、
やってることが珍奇だろうがベタだろうが、
それは関係なく、
焦点がはっきりしていないか、
動機に感情移入できないか、
あるいはその両方、
ということになる。



どうしてその人は行動しているの?
なに目的?
そもそもその目的を果たしたい、本当の動機は?
そこに感情移入の芯がある。


(牛乳石鹸の例を再び出すと、
あの主人公の動機が分からないんだよね。
なぜ誕生日をすっぽかしたのか、
なぜケーキを持ったまま居酒屋にいったのか。
それがどう考えても「逃げたい」「甘えたい」に解釈できるから、
応援できないのだよ。
だから擁護できない。
彼に感情移入出来る人は、
心の底から「逃げたい」「甘えたい」と思っている人で、
それなりの反響があったのは、日本にはそんな男が沢山いるということ。
しかしその人たちに影響を及ぼしたわけではない。
甘えたい代償行為をさせただけだ。
だから「甘えてんじゃねえよ」って、総ツッコミが来るのだ。
「甘えたい」と思っていても、
「子供のほうが甘えたいはずだ、だっておれは父親だもの」
と思い直して、何か行動すれば、
応援できる動機になったはずだ。
前記事の「真夜中のキャッチボール」は、
そのように組んでみた次第である)
posted by おおおかとしひこ at 11:00| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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