2017年08月30日

シンデレラストーリー

「ただ大人しく待っているだけの、
世の中を変えられない弱い私が、
ある日王子様に見初められてハッピーエンド」
というスタイルを、シンデレラストーリーと言うことにしよう。

つまりこれは、メアリースータイプのストーリーだということ。


昔、女性の権利向上運動、男女同権運動があったとき、
文化の代表のひとつ、
シンデレラは真っ先に矛先を向けられた。

いわく、
女の子は昔からシンデレラを刷り込まれるから、
「従順で大人しく待っているだけの、
世の中を変えない大人に育つ」と。
男による女の支配が当たり前だった時代では、
このストーリーに繰り返し憧れることは、
たしかに現状を固定することに役立っている、
という主張もある。

時代は下った。
少なくとも、現代では、
名目上は男女同権にはなった。
(アラブの女性の権利はどうか詳しく知らない)
しかしたとえば、
じゃあ軍隊も男女半々にしろとか、
生理休暇禁止とか、
やくざの兵隊も男女半々な、とか、
そこまでの強権発動は控えめになっている。
現代は移行期である、とか、
現実問題の適材適所、という言い訳のもとに。
(格闘技は?将棋は?
などなど、男女に明らかな差があるものはたくさんある)


ところで。
もしシンデレラが女ばかりのものであったら、
それは男女同権への逆行を意味するはずだが、
実はシンデレラは男のものにもなってしまった。

「何の変哲もない俺。それどころか、陰キャで目立たなかった俺。
それがある日をきっかけにブレイクする。
かわいい女の子が突然俺を好きだと言ったのだ。
それにより皆の見る目が変わる。
俺は美少女に恋されるだけの魅力があることを、
誰も認めていなかったのだ」

これが、シンデレラストーリーの男女逆だと、
なぜ分からないのか?ということだ。

これは、ここの脚本論で徹底的に批難している、
素人がよく書いてしまう、
自分の願望充足のための、
ご都合の妄想に過ぎないものだ。
(のび太症候群も同根である)


変形はいくらでも可能だ。
美少女を会社の会長に、舞台を学生の日常からサラリーマンにすれば、
「冴えない会社員の俺。
現実逃避で行った釣り堀のオッサンが、
何故か突然話しかけてくれて意気投合。
色んな人生のことを教えてくれる。
実はうちの会長だったなんて!
大出世する俺!」
という話に変形可能だ。
これもシンデレラと同じ構造を持っていることが分かるだろう。


たとえば牛乳石鹸のwebCM、
今週のファイアパンチは、
とくに酷いシンデレラストーリーだ。

前者は散々批判した。
「何もしてないくせに、何故か一番愛してほしい人から、
無条件に承認される」
というのがメアリースーの特徴だ。
それは現実には母親しかいないので、
これはビッグマザーに抱かれたいという幼児的欲求であると言える。
牛乳石鹸においては、
主人公は何もしてないくせに、妻と子に愛されている。
ただごめんと言っただけで、何もしてないくせに。
妻と子が、ビッグマザーであるわけだ。

今週のファイアパンチは更に酷くて、
ユダ(死んだ妹ルナに瓜二つで、記憶を失ったため、
ルナだと思い込ませて10年兄妹として暮らしてきた)が、
急に「全部気づいていた」ことになって、
何故だかキスを迫ってきて何故だかセックスをしていた。

シンデレラストーリーのまんまだ。
王子様はビッグマザーであるわけだ。
ユダもビッグマザーであるわけだ。


シンデレラストーリーは、
ただ待っているだけで何もしない女を非難した。
これはおかしいと。
人は求めるものを得るために、
危険を省みず挑戦し獲得すべきであるという、
男の論理を女も生きるべきだと主張し、
名目上はそのようになった。

しかし実際のところ、
そんな面倒なことするよりも、
シンデレラストーリーのほうが、
努力しなくていいから楽なのだ。

「いつか誰かすごい人が、
自分の全部を理解して、
自分をまるごと認めてくれる」
という夢を見続ける方が、
現実で苦労するよりははるかに楽だ。

現実は辛い。せめてシンデレラストーリーを見ていたい。

そう思う人が、
女どころか男も増えたというのが、
男女同権運動の結果だ。

女は強くなったが、その分男も弱くなった。
男女を均そうとしていたのだから、
その帰結は当然だ。


これが人類の進化とは思えない。
男女同権運動は、二つにわかれていた男女を、
新しく二つにわけた。
シンデレラと、そうでない人にだ。
差別撤廃運動は、もうひとつの差別を新しく生んだのだ。

シンデレラストーリーを夢見る人は、
いずれ人工知能に接続され、
美しい夢VRを見続ける、
奴隷になるのかも知れない。


ラッキースケベとかほざくラノベジャンルにも、
僕は同じ波動を感じて毛嫌いしている。
しかしちゃんと探ってないのでなんともだ。
そもそも萌え絵は、シンデレラストーリーだ。
イケメンなんとかもね。



あなたは、
夢見るシンデレラか?
傷ついてなお前へ進もうとするロッキーか?

僕はロッキーでありたいし、
シンデレラを毎度ボコボコにして、
ストーリーとはロッキーであれ、
と言うだろう。

シンデレラストーリーは、のび太症候群の人たち、
メアリースーに取り憑かれた人たちの、
現実逃避ドリームになる。

夢見てんじゃねえよ。
夢は見させるもんだ。(車田正美)
posted by おおおかとしひこ at 15:00| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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