どんなエンターテイメントがあるか2

実際のところ、
エンターテイメントにはふたつある。
「その文脈を知ってなくても面白いやつ」と、
「その文脈を知っていると面白いやつ」だ。


両者の差はなにか。
「感情移入なしでも、面白いやつ」と、
「感情移入すればするほど面白いやつ
（逆に感情移入してないとどうでもいい）」
の差ではなかろうか。

たとえば前者には、
一発ギャグ、出落ち（すごいカッコいい、すごい美人、すごいエロい、
すごい笑える、すごいぞくぞくする、すごい不快、すごい謎）、
映像トリック、音楽（ダンスや歌）、
世界観、迫力、アクション、
世界は救われるのか？
などがある。

後者には、
二人は再会できるのか？
二人は結ばれるのか？
実はどんでん返しがあった！
○○の気持ちはどうなるのか？
○○の決着はどうなるのか？
素晴らしいテーマ、深いテーマ、
などがある。


ストーリーの中身ばかり考えていると、
後者をエンターテイメントだと考えがちだ。
この深いテーマがどうして伝わらないのだろう、
と悩んでしまうことになる。
しかし実際のところ、
それ以前の、興味をもってもらうための、
前者が足りてないだけなのかも知れない。
つまり、あなたの観客席には誰もいない可能性がある。

勿論、観客席を満員にするために、
前者を沢山繰り出すことはいいだろう。
問題は、それが点の楽しみでしかなく、
物語本来の面白さ、後者の面白さがなく、
竜頭蛇尾になってしまうことである。

ガワだけで中身が全くない、
たとえばペプシ桃太郎、シンゴジラ、牛乳石鹸については、
厳しく批判してきたのはこういうことだ。


だがしかし、話が一周回っているようなのだが、
後者だけでは、観客は最初の興味を抱かない、
ということなのだ。


僕は、
宣伝というのは、
前者について主にやるべきで、
後者についてやるべきでないと考える。

宣伝というのは、なにも知らない人向けであるからだ。
感情移入してないと面白くないもののこと
（それはすなわちストーリーの焦点である）を、
いくら宣伝したって意味がない。

仮に、物凄く素晴らしいどんでん返しがあり、
それが物語の中核をなしていたとしても、
「ものすごいどんでん返し！」「ラスト15分、世界が変わる！」
ということをウリにしてはならないと考える。

それは、ストーリーありきのどんでん返しだからだ。

逆に言うと、
感情移入なしで宣伝になるのは、
「ストーリーがなくても面白い」部分なのだ。


こう考えると、
昨今の日本映画は腐っている。
制作費がないから、ストーリーなしで面白そうなことが、
用意できていない。

だから、○○出演！原作の実写化！○○のテーマ曲！
という「座組み」がウリになってしまう。

全く新しい魅力的な世界観や、
全く新しい魅力的なキャラクターの登場や、
全く新しい魅力的なルールを、
提示していない。


思えば、70年代のニューシネマや、
80年代のメジャー映画は、
そのような、「映画としてのキャラ」が立っていた。
「タクシードライバー」「ゴッドファーザー」
「俺たちに明日はない」「イージーライダー」
「カッコーの巣の上で」「ロッキー」。
「ブレードランナー」「バックトゥザフューチャー」
「ET」「ターミネーター」「バタリアン」「ゴースト」
「グレムリン」「グーニーズ」「インディジョーンズ」
「スーパーマン」「スターウォーズ」
「プリティーウーマン」「T2」。
（一部90年代。もっと書きたいがやめとく）

これらの映画は、
前者のキャラが立っていて、
かつ後者の面白さが群を抜いていた。

だから僕は映画に夢中になったし、
映画は素晴らしいと考えたし、
だから映画監督になりたいと思った。

しんきくさい日本映画なんて、なんの興味もなかった。
それは、僕だけじゃなくて、
殆どの人がそうだと思うんだよね。

制作費の問題は大きい。
映画一本は、サラリーマンの生涯賃金では賄えない。
失敗を恐れれば恐れるほど、
企画で冒険できなくなる。

つまり映画とは、湯水のように金を使える状態での、
最高を目指すものでなければ名作は出来ない。
湯水のように金を使っても、
全部ハズレもある。
それが映画だ。


これらを俯瞰して、
みんな映画に取り組んでいるのだろうか？

座組みしかウリに出来ず、
中身のショー的な面白さを宣伝できない、
そういうものを作ろうとしない脚本家とはなんなんだ。
ガワで客を釣るだけ釣って、
中身のないオナニーを見せる脚本家と宣伝部はなんなんだ。

あなたはこうなるべきではない。

映画としてのキャラを立たせて、
めくるめく新しい世界につれて行き、
感情移入の高まりと共に、
ストーリーの焦点に夢中になるような、
前者と後者が不可分になっている、
ストーリーを作るべきだ。

そのためにどうすればいいか？
目を鍛えることだ。
これまでやられてきた歴史を知ることだ。
新しいことをやるには、それが新しいかどうか判断しなくてはならない。
そして、常に新しい面白さを創造すべきだ。

そして、ストーリーのうねりと感情移入と、
深いテーマを見せるべきだ。

簡単なことではない。
だからそれを成し遂げた脚本家は尊敬される。