らくださんの質問が、
コメント欄で答えるには勿体無いほど面白そうなので、
記事にしてみます。
>らくださん
>企画やプロット、脚本を書かれる際にどの時点でテーマを決めていますでしょうか。
>最初はぼんやりとした言葉にならないイメージのようなものがあり、書き上げてからテーマを発見し改訂でブラッシュアップしていくような感じです。
僕の場合で。
夏休みにたとえると、初日です。
いや、夏休みに入る前に決めて、
そのことに関して夏休み、
すなわち執筆生活に入る感じですかね。
テーマはいつできるか?
たぶん僕はメインプロット、
事件と解決のうち、
最初の面白そうな事件から思いつくことが多いです。
で、次に、それはどう解決するだろうかを考えます。
すっと出たら、それはどのようなテーマを暗示する話かをチェックします。
そのテーマに相応しい事件だろうか。
つまり、そのテーマの逆から入っていけているか。
そのテーマに相応しい解決だろうか。
つまり、そういう解決をすれば、
テーマを誰かが台詞で言わなくても、
無言でそのテーマを示したことになっているか。
それらを微調整します。
まだこのときは字に起こさなくて、
頭の中で考える感じ。
字に起こして考えるときもあります。
テーマを文字にしてみると、
「その逆」を考えることは容易になるからです。
事件のシチュエーションをそのように再調整することもあるし、
シチュエーションが面白ければテーマを書き直すこともあります。
この事件をこのように解決するからには、
このようなテーマを俺は書くのだろう、
という概ねの見積もりができるわけです。
これが出来た時点で、長い夏休みに入るわけです。
もちろん、プロットを練ったり、
実際に書いていく途中で、
より深く、より具体的になっていくことはよくあることです。
でも、最初に決めた「だいたいこっちの方向」はずれません。
ずれたら違う話になってしまうので。
それは迷走だということを経験的に知っているので、
「そもそもこれは東に向かう話である」
と決めて出発したら、
西に向かい始めたり北に向かい始めたりしたら、
一番最初に戻ることにしています。
大きくは東に向かえばいいので、
北北東になったり、南南東になることはよしとしています。
(そのへんの精度は、経験値ですね。
初心者は迷走を沢山経験することになります)
最近沢山書いている「てんぐ探偵」では、
面白げなシチュエーションから発想します。
妖怪○○から出発するわけです。
この妖怪を退治する方法、つまり解決を考えれば、
そういうテーマの話だ、ということが明確になるわけです。
あとは、具体をここをベースに作っていく感じ。
事件を思いついても、
解決が思いつかないこともあります。
その時はテーマから考えます。
事件の逆がテーマになるので。
妖怪「ねたみ」という面白げな事件を思いついても、
見事な解決が思いつかない場合、
「おれはこれを通して何を書きたいのだろう」と考えます。
人を妬むことはよくない、
人を尊敬しよう、
自分に自信がないから妬むのだ、
人を妬むことはよくあるけど、それは馬鹿馬鹿しいことだ、
なんて、いくつかのテーマに帰着させることは可能だと考えます。
で、青い鳥のテーマ、
隣の芝生は青く見え、楽園はそもそも家にあった、
みたいなことも可能だと気づき、
「妬みの先を辿っていくと、
自分自身を妬んでいる人にたどり着く、というループ構造」
を思いつくわけです。
そうすると、「この話は出来た」と判断します。
あとは面白おかしいストーリーになるように、
舞台や人物を整えていくだけ。
「俺は何を言いたいのか?」と考えると哲学の深みにはまるので、
「この面白げなシチュエーションを解決することは、
どのようなテーマを内包する可能性があるか?
この事件を扱うことで、どういう(面白そうな、
意外な、はっとさせる、膝を打つ、なるほどと思う)テーマの話に、
なりそうか?」
という問い方をしたほうが、
面白そうなテーマを発見できると思います。
同じ事件を思いついても、
別のテーマ、別の解決を考えることが可能です。
その初期のうちの組み合わせを沢山思いつくと、
訓練になります。
「てんぐ探偵」は面白いフォーマットで、
誰でも妖怪ネタは考えることが可能です。
妖怪「ねたみ」でも全く違う話やテーマにすることもできるでしょう。
妖怪「どうせ」はどうでしょう。
最終的にはサッカーのにいちゃんの話にしましたが、
「どうせ俺なんか」と自信がない男が、
意中の女を射止める話を当初は考えていました。
事件の根本にある問題は同じでも、
ディテールはいくらでも交換可能です。
解決とテーマも、いくらでも作ることができます。
ただし、あなたはその中で一番おもしろそうなものを書くべきです。
ということで、
「できた。これについて書こう」と思うときは、
事件、解決、テーマが、もう決まっています。
ここで、長い夏休みに入ります。
プロットですね。
執筆は盆を過ぎた頃かなあ。
それまでひたすらプロットを練ります。
舞台、人物、中盤のあれこれ。
サブ人物やサブプロット。
ネタの取材。
それらが渾然一体となって、ひとつの話になるのが、
8/15くらいかなあ。
あとは一気に2日で書いて、残り2週間で推敲。
そんな時間の使い方のイメージかな。
ちょっと推敲が足りないかも。
実際には40日以上使うこともあるので、
2倍3倍して考えてください。
もちろん、平行して何本もの話を考えるときもあります。
勿論、東方向の話をつくりはじめて、
北北東や南南東になることもあります。
その時は、プロットを直すたびに、
原稿を改訂するたびに、
この話のテーマ、この話のログラインを、
一個一個書き出してみて、
全体がそうなってるかを考えます。
テーマは、過去にも論じた通り、
一言一句細かく決めるものではないと思います。
「大体そういうことを言えてればよい」と、
大きく構えた方がいいと思います。
一文字間違えてたら×、みたいなテストではありません。
それは、私たちの言葉がそういうものだからです。
僕が言った今のことを、
一つも同じ文字を使わずに言うことも可能です。
言葉が重要なのではなく、
内容が合ってればそれは同じことを言ったことになります。
(寸分たがわず同じことを言うことは、
原理上出来ないと僕は考えています)
ということで、
なんとなくイメージのようなテーマでも、
いちど書き出してみると、
そこから考えることが出来たりするので、
初期の頃にやってみるといいかもしれません。
大体書き終えたあとに、
「ああ、俺はこんなことが言いたかったんだな」
と気づくことはよくあることですが、
それは最初から大体見えていて悪いことはないですよ。
僕はテーマに対して無駄なことは、
極力削ぎ落とす主義なので、
余計なことを書くことに、あまり意味を見いだしていません。
プロットが完璧にそのテーマを表しているように作られていると、
すっと書けるものです。
参考になりましたでしょうか。
大変参考になります。
>この面白げなシチュエーションを解決することは、
どのようなテーマを内包する可能性があるか?
>プロットが完璧にそのテーマを表しているように作られていると、
すっと書けるものです。
脚本論や物語の指南書などの序章で「まずはテーマだ」というように書かれているのをよく見ます。
それが大きな疑問でした。
確かに映画を分解し逆算していけば、まずはテーマです。
そしてそのテーマを実現するに相応しいキャラクターやロケーション、時代設定や事件や解決をテーマに合わせて決めていく方法が理に適っているというか、効率的なのは何となくわかります。
でもそれって理屈だと思うのです。
原作モノであればもしかしたら有効なのかもしれません。
キャラクターや事件が決まっていてそれらを必要以上に置き換えたくない場合に、メインテーマを軸にそれを表現するために必要なことを構成していくことで、そう外れないお話にまとまるといいますか安全牌として成立するとは思うのです。
ただ、オリジナルの物語をつくる場合において、まずテーマから入るということがどうしても現実的な方法とは思えません。
それは多分、自分がなぜこれを書きたいのかという衝動がテーマとは無関係なところから芽生えるためだと思うのです。
創作に決まりはないと思いますが、やはり熟練者のお話し(極意)をこんなに簡単に聞けるのはとても恵まれた時代ですし、糧にも刺激にもなります。
いつも拝見しておりますので、また機会があれば質問させていただきます。
ありがとうございました。
「テーマと違うところの衝動」が尽きるまで、
10本でも20本でも書いてください。
短編をおすすめします。数が書けるので。
過去記事を見れば、プロット100本とか、そういうことを僕は要求します。
なんのためにやるかというと、
「衝動の赴くままに、やりたいことは大体やった」
状態にするためです。
やりつくしたときに、ようやく衝動に振り回せずに、
俯瞰しながらストーリーを作ることが出来るようになります。
そのとき初めて理屈が使えます。
まだデッサンを習う前の、落書きが足りてないです。
まだボイトレをする前の、鼻唄が足りてないです。
まだランニングフォームを習う前の、走りこみが足りてないです。
もっと好きなだけ書くべきです。
衝動に振り回されてたら、いつまでたっても大きな計画は成し遂げられません。