僕は書くのが仕事だ。
しゃべることが仕事ではない。
しゃべることと書くことは、出力する器官が違うだけ?
いや。全く違うよ。
脚本家の有名なトレーニングに、
「喫茶店のおしゃべりを録音して文字起こしする」
というのがある。
それは二つのことを学ぶ。
1. リアルな言葉は机の上で考えるよりもよっぽど豊か。
2. リアルな言葉は、わりと支離滅裂。
1に関して言うと、閉じてないで、
常にリアルを収集せよ、
という作家としての心構えと、
現状そこに至っていない痛感をすればいいだけのこと。
問題は2だ。
言われる言葉は、書く言葉よりも支離滅裂なのだ。
言う、というのはリアルタイムだ。
自分が言おうとしたことが途中で終わってしまって、
別のことを言い始めたり、
相手のリアクションによって話題が変わっていったり、
言い直したり、
言葉を間違って使っていて話が食い違ったり、
それに気づいて訂正したり、
興味がないから別の話題へ移ったり、
考える間があったり、
そういえばと突然前のことを思い出したり、
相手が別の話をし出したり、
話が前後したり、
結論がなかったり、
するものである。
テレビのトーク番組を作れば分かることだが、
出演者の話は、
議題を決めて話したとしても大抵こうなる。
だから、話をうまく纏まったように、
編集する。
余計なところを切るだけでなく、
字幕で補ったり、時間軸を入れ換えて分かりやすくするときもある。
言う話と、書く話は違う。
言うことは、支離滅裂でも構わない。
なんとなく合ってればよく、
その場の空気のほうが重要だ。
書くことは、支離滅裂であってはならない。
首尾一貫し、意味のあることを書くべきだ。
だから上との対比で言えば、
言い出したこたは最後まで(落ちがつくまで)言う、
脇道にそれない、
相手のリアクションを加速に使う、
言い直さない、
的確な言葉、最小の言葉を使う、
興味のある話しかしない、
淀まず一気に、しかも緩急つけて、
思い出しても付け加えない(むしろ最初から入っている)、
相手は噛み合う話しかしない、
時系列がきちんと整っている、
結論が明確で論旨が明快、
であるべきなのだ。
ハリウッドの脚本の格言に、
「Writing is rewriting」というものがある。
第一稿をとにかくなんでもいいから書き終えて、
その後の推敲こそで、
文章にしていく、という方法論だ。
第一稿は、大抵8割くらい書き直されるらしい。
そんなに?
でも日本の文豪の万年筆の原稿を見ると、
丸々×をつけてワンブロック書き直したやつとか、
しょっちゅう見るよね。
手の入っていない、綺麗な原稿を見ることはほとんどない。
でも、仕上がった文は綺麗だ。
つまり、書くという行為は、
汚い言うという行為を、綺麗に整えていく、
という行為なのである。
言うこととは、エントロピー増大で、
書くこととは、エントロピー減少に値する。
インタビュー記事も同じくだ。
言いたい放題言った滅茶苦茶なことを、
ライターが読めるように整理するのだ。
さて本題。
「指がしゃべる」のは、書くという行為か?
僕は、指がしゃべることは、夢の記録に似ている、
と昔書いた。
それはつまり、言うことってその程度、
だと僕は考えているということだ。
書くことは格別努力が必要で、
格別首尾一貫した統一的な整った思考が必要である。
しかも難しく書かず、
難しいことを平易に言うのがベストだ。
僕は、「指がしゃべる」状態は、
所詮喫茶店の会話でしかないと、
結論付けることにした。
勿論、書く以前の前段階としてのおしゃべり技能として、
タイピングは役に立つかも知れない。
第一稿をがーっと勢いで書くことや、
創作メモを取ることにおいて、
まるでおしゃべりのようなマシンガントークで、
文字にしていくことは、
高速タイピングは一種の道具として役に立つだろう。
しかしそれは、僕はいつも手書きでやっている。
所詮時系列がバラバラで、レイアウトフリーな文章ならば、
リアルにフリーレイアウトな手書きの方がいい。
(僕は升目も罫線もない、ただの白紙に、
ひたすら書いていく方法だ)
何より漢字変換が存在しない。
ぼくは「かんじ」だとは思ってなくて、「漢字」だと思っている。
人の言葉を聞いてるときは、
「感じ」か「漢字」かは、イントネーションや文脈で、
勝手に別の言葉に分類されているようだ。
(かんじという平仮名から、どっちだろうか、
と選んでいないということ)
自分から出力するときは、最初から概念として、
それこそ塊で出力している。
それが漢字かひらがなかは関係なくて、
「その塊がそう表記するから」、漢字とかひらがなに書き分けているだけである。
残念ながら、漢字直接入力をマスターしない限り、
仮名漢字変換の存在するタイピングでは、
この峡谷を越えることは出来ない。
で、ふと思ったのだ。
「俺の手書きのスピードは、いかほどか?」って。
条件を揃えるために、
タイプウェルを写し、タイムを計測、
という実験をしてみることにした。
次回に続く。
2017年10月01日
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