三話、四話は市野監督です。
僕はこれまで、
共同監督というのをやったことがありませんでした。
それまでは学生の時にやっていた漫画も、自主映画も、
仕事としての監督も、全部ひとりの権限でやるものです。
複数の監督は、ふつういない。
現場で「監督」と言えば僕のことでした。
しかしドラマは、
複数の監督で回すもの。
もちろんやってみてそれは痛感します。
体力が持つわけがない。
撮影だけならこなせるかもしれないけど、
編集までできるわけがない。
(撮影と編集は、同じくらい体力を使います)
現場の王様がふたりいる状態に、
なかなか僕は慣れませんでした。
一応僕がメイン監督なので、僕のアイデアや意向や、
判断は優先はされるようになってはいます。
しかし原作を読んだことのない人に、
風魔が表現できるだろうか、と僕は正直不安でした。
しかし流石ベテラン市野監督。
関西人という共通点もあって、
以心伝心ができる感じでした。
ちょっと先輩だから、
複数監督のドラマにも慣れていたのかもしれません。
勝手な感想ですが、
市野さんの持ち味は、食卓コントにあると思います。
勿論アクション班をうまく使ったり、
決めのCGもうまいとは思いますが、
市野節が出るのは、まぎれもなく食卓コントでしょう。
市野回って、毎回アバンは食卓コントだったんじゃないか、
と思うくらい、食卓コントがこれでもかと入ってましたね。
自分の持ち味を分かって、
なおかつ決めるところは決める。
勉強になります。
とはいえ、今回のオーディション辺りからはじめて合流したので、
お互い探り合いです。
市野さんは前の現場で進藤学を使っていたから、
是非進藤にオーディションを受けさせてほしいと頼んだはずです。
まさか竜魔に決まるとは、市野さんも思ってなかったみたい。
ということで、
市野さんたってのキャストの、
竜魔回が爆誕したわけですな。
市野さんが撮影に入るころ、
ちょうど一話二話の仮編集が終わったくらいだったと思います。
監督というのは、口がヘタなものです。
だから自己表現に映像を使うのです。
しかも監督同士というのは、微妙にライバル心もあるし、
共同の戦士のような関係でもある。
「どんなものになるか、見させてもらいますわ」
というのを聞いたと思う。
これは市野さんなりの宣戦布告だと僕は思いました。
ドラマやったことがない自分より若い男が、
メイン監督で、自分はサブ監督。
隙あらば寝首をかこうと、僕なら思うでしょう。
じゃあ作品性で勝負したろやないか。
僕はそう思っていました。
見させてもらったその感想を、
市野さんから直接聞くことはなかったです。
言葉で言うより、彼の表現した三話を見れば十分。
「お互い最高のもので戦って、
作品を高め合っていこうやないか。
ただし、俺の方が面白いぞ」
とでも言わんばかりの気鋭に満ちた30分でした。
受けて立ったのは、5話6話です。
こうして、
静かに火花を散らしながら、
僕らは風魔という題材を、最高に高め合うことになるわけです。
え? 今でも俺の方が面白いと思ってるよ。
向こうも俺の方が面白いと思ってるだろうね。
それが最高の関係じゃないか。
オープニングの竹林から、一気にやられましたね。
中国武侠もののようないいトーン。
ミニトランポリンを使った派手なポーズ。
なるほど、原作の回想(夢)のシーンを、
こうやって撮ることもできるのか。
ファーストシーンから勉強になります。
ちなみにこの竹林は、
柳生屋敷の隣の竹林です。
笹の葉っぱを演出に使うのか。
よく考えたら、中国ものでは基本の演出だった。
小次郎の描像は、
やや山猿感が強めですね。
僕の描く小次郎は、
山猿なのは表面だけで、
その奥底には、
忍びとは何か、冷めた目で考えている哲学者がいて、
それがたまたま哲学者のような絵里奈と波長が合う、
のようにしています。
しかし脚本家が僕じゃないので、
わりと原作よりの、山猿的な描像だと思います。
それは絵里奈も同じで、
冷めた哲学者的な部分はあまりなく、
原作に近い、
ただの女の子的に描かれることが多かったみたいです。
ここの部分は、監督の個性が出るところですかね。
壬生や陽炎の描像も、わりと違うところです。
アニメで作画監督が違う、みたいなことなので、
両方お楽しみください、としか僕はいえないですね。
(どちらにしても、武蔵は変らない感じがありました)
なんとなく、
「その回で死ぬ人または活躍する人」は、
その監督の担当、みたいな感じがありまして、
不知火、白虎、黒獅子、
竜魔、劉鵬、兜丸、麗羅は市野さん担当、
みたいな感じがあったと思います。
逆に、
紫炎、項羽、小龍、琳彪、霧風、雷電、闇鬼、
妖水は僕担当のキャラ、
みたいな住み分けがある感じ。
蘭子や姫子、小次郎、絵里奈、壬生、夜叉姫、陽炎は、
それぞれの個性が出てる感じですかね。
放映当時、監督が変わったことに気づいた人もいて、
(市野さんは既にセイザーで知られていたし)
食卓コント第一回で、空気や距離感が変わったことに気づかれたものです。
どっちが好みとかもあるでしょうね。
小次郎のオチャラケは、より市野さん回のほうがコント的かなあ。
僕のやる小次郎のオチャラケは、昭和的だと思うんです。
車田節(香取石松あたり)を再現しようとしているし。
これも好みで別れるでしょうね。
視聴者が全員車田原理主義者ではないし、
風魔というものを初めて見る人もいるだろうし。
なので、原作原理主義者と、何もしらないコント職人を、
二頭立てにした、プロデューサーの采配が良かったわけですな。
さてさて、
「忍びの掟」は、
当時も思ってたけど、
「一対一の決闘」の言い訳くさい……
原作ではどこかで出会ったところで戦闘がはじまってたけど、
ドラマは一応なるべく全キャスト毎回出してあげたい。
となると、せいぞろいしている場面が多いということになる。
「なんで今闘わずに、一対一でやるの?」
という疑問を躱すための理由付けが必要だったんですね。
(それを解消するために、
12話で「忍び同士の乱戦は相打ちになり全滅する」
という理由付けを足してあります。
しかも「もとよりその覚悟」と武蔵が受けることで、
「あとのない夜叉」を表現するという、
上手くそれを利用してばれないようにしてます)
ボウリング場の裏は、
昔見たことがあって、
いつか使いたかったネタです。
「表は試合、裏では死合い」
といのがドラマ小次郎のコンセプトなので、
「裏」というのにこだわった次第。
サッカー場の地下駐車場、
バックスクリーン裏、
ボウリング場の裏、
シンクロの裏(というか下)、
将棋上の裏(というか屋上)、
などは、絵的に成功した部類です。
そのほかは予算の関係もあって、
毎回調達できなかった感じです。
弓道場の裏やパティシエの裏ってどこやねん。
(構想時には、「演劇部の裏」として、
本番中の釣り天井で戦うというのがありました。
よく映画であるやつね)
ということで、不知火は気ちがい顔がよく似合う。
ボウリング場の裏が狭かったのか、
バトルはいい場所(撮影しやすい場所)でやってて、
うらやましいなと思いました。
そうか、カット割って、移動しちゃえばいいのか。
仮面ライダーで、「とう」とジャンプして、
着地したら違う場所にいるのは、
そうやって、撮影しやすい場所に移動するためにやるのだなあ。
勉強勉強。
あの場所は、実は天井に梁があって、
ワイヤーを釣る支点になるんですって。
だから竜魔も釣り放題。
ぐるぐる回転しちゃう。
この竜魔のアクションは、みんな惚れちゃうよね。
「独眼竜竜魔」の名乗りは、
予告編だけだったのが惜しまれる。
風魔死鏡剣(とあとの白羽陣)は、
プロデューサーに頼まれて、
僕がコンテ書いています。
原作のイメージをどう映像化するかを参考にしたいと。
でも死鏡のワク(原作至上主義者は、
ワクをカタカナで表記するのだ)の感じは、
僕のイメージではもっと速い感じ。
だって「ギャララララアアアン」だもんね。
ブーメランスクエアと同じ効果音だぜ。
そのへんのニュアンスまではコンテにかけないからなあ。
まあこれはこれでかっこよかったからいっか。
「まさか、まさかあの……」なんやったんや。
鏡じゃなくて、
プラスチック(アクリル?)な感じの死鏡の破片が、
予算を物語っておりますなあ。
しかし眼帯かっけえ。
傷メイクにしなくてよかったよ。
(毎回そのメイクしてたら、金も時間も取られるし)
メイキングで出てますが、ほんとうの学ランにしなくてよかった。
ただのAVになってたところだよ。
竜魔が寝てるのは、学ランのまま?
寝巻があるのは小次郎だけだしなあ。
(ウサギ柄のパジャマは一応探したんですが、
現実に売ってなかったよ……。布から作る予算はないしね。
原作では、あのパジャマは風魔の里から、
矢吹丈みたいに持ってたズタ袋の中に入れて持ってきたんだよね?)
でも竜魔に和風の寝巻着せたら色っぽすぎて、
女子のみなさんは鼻血出すよね。
あ、やっぱ出させておけばよかったか。
(ということで、のちに倒れた竜魔は、上半身裸だったり)
ラストの「めんどくせ」ってのは、
僕はちょっと違うと思っているのですが、
これはこれで。
2017年10月18日
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