2017年10月26日

【#エア再小次】其の四「白い羽の男」の巻

第四話は、伝説の「項羽の悪ふざけ」の映像化?
それとも麗羅のびんたシーン?
あるいは、膨らみすぎる(リスのような)項羽のほっぺたか?


煽るだけ煽って何ですが、
ぶっちゃけて言うと、
僕は第四話が一番失敗作だと考えています。
四話はネタにことかきません。
ひょっとすると、小ネタ集としてはなかなか秀逸なのかもしれません。
ホラーめいた白虎の登場とかなかなかよかったし、
それぞれのキャラが知れる場面が多かったし、
原作再現の白羽陣も美しかったし。
紫白の過去話とかもなかなか趣があるし(星矢のパクりっぽいけど)。


でも、もう話が動き始めたドラマの四話としては、
失敗だと考えています。

それは「漫画の実写化」という問題に触れることです。
実写化とは何か?に触れることです。
ちょっと真面目な話します。


要点は、
「漫画にえがかれているアレを、
実写で『再現』すること」
を実写化というのか?
ということです。

僕は違うと考えます。
それは単なるメディア変換です。
変換である限り、
最高の出来でも100%でしかなく、
それ以外は100%をどれだけ下回ったかという、
減点法しか採点の方法はありません。
変換効率〇%みたいな採点です。
それはいつでも100行かないから、常に不満がたまるわけです。
再現度合いでいけば、気合の入ったコスプレイヤーたちが一番ではないでしょうか。
それは限りなく100に近いものがあると思います。

それは「実写ドラマ(映画)化」でしょうか。
僕は違うと考えます。
コスプレは実写化ではないと。

実写の物語の世界、つまり、
「現実にそれが存在するとしたら、
漫画とどう違うのか、
それが本当に存在する感じをつくる」のが、
実写化の醍醐味であり、意味だとかんじます。

市野さんは食卓コントにて、
「風魔が実在する感じ」を我々の前に見せてくれました。
僕はたとえば、
「渋谷のスクランブル交差点」に武蔵や壬生を立たせることで、
風魔の世界が実在する感じに挑戦してみました。
あるいは一話の少林サッカーは、
実写ならではの面白い助っ人エピソードだと考えます。

どれも原作にありません。
そういう「『現実』に存在する感じ」こそが実写化の面白さであり、
「架空にしか存在しなかったものが、
今ここに実在するとしたら」
というifを楽しむ娯楽だと思うのです。


ifで言えば、たとえば
「第二次世界大戦で、日本とナチスが勝った世界」
というのを舞台にしたドラマが海外でつくられましたね。
そういうifこそが、物語の力であり、面白さだと僕は考えます。

つまり、実写化は再現ドラマではないと考えます。
「それが今ここに実在するとしたら」
を実写で示す面白さを考えないと意味がないと、僕は考えます。
忍びがケータイ持ってたりする、現代アレンジはそういう背景です。

これは、絵づらだけで表現するのではありません。
たとえば第一話で、
「小次郎は相手に夜叉がいるときはやたら張り切るが、
それを排除したらあとは実力勝負と考える」
というリアリティーによっても表現されています。

リアリティーを論じるにはこの稿では狭すぎますが、
実写化とは、
漫画的リアリティーを、
どう実在的リアリティーに変えて楽しむか、
という頭の必要な娯楽だと考えます。

だから、
「漫画の漫画的なものを、
実写で再現する」ことが、
僕は一番愚かなことと考えます。

だって人のやったことをもう一回やることに、
なんのクリエイティビティーがあるというんや。


勿論、「あの名場面を実写でも見たい!」
というファン的要求はありますよ。
だから僕はアングルまで漫画に合わせるように頑張ったし、
飛龍覇王剣はネガポジ反転まで合わせた。
死鏡剣のCGは深夜にしてはハイクオリティでした。

でもどこまでを漫画の再現とし、
どこまでを実写のリアリティーの面白さとするかは、
「配分の問題」だと思うのです。

それが、4話は一番下手だったと考えています。


「項羽の悪ふざけが公式ではじめて詳細がわかる」、
というのはあります。
白羽陣の、原作でも一二を争う名バトルの再現もあります。
でも、それって、ただの再現でしかない。
ドラマ風魔の最大の魅力は、
ただの漫画を実在のもののようにしていく、
そのふくらまし方にあると思います。

それは、4話ではぬるかった。
たかが白羽陣の再現だけで終わってしまった、
と僕は考えています。


勿論、「あれを実写で再現できる!」
という興奮がスタッフ達にあったことは否めません。
だから3話のクライマックスは死鏡剣であり、
4話のクライマックスは白羽陣です。
でも「だから何?」なのです。

対比しましょう。
5話では、小龍のドラマ、「オレは兄のコピーではない」があります。
6話では、小次郎と霧風のドラマ、「顔で笑って心で泣いて」があります。
だから「贋作」であり、「霧の中」です。
部活とドラマとクライマックスが連動してひとつの話になっていて、
それに「実写再現」(小龍白羽陣、風魔夢幻陣)スパイスが加わっているから面白いのです。

残念ながら、3話4話にはそれがない。
3話にはそれがギリギリありました。
「忍びの掟」です。竜魔と小次郎の確執です。
忍びとは何かという対立です。
これはドラマでした。
惜しむらくは、それがボウリングや死鏡とは関係ないことです。
(市野さん回でいえば、
麗羅のドラマ「誰の為に闘うのか」と、
パティシエの炎がきちんとかみ合った11話は、
5話6話と同じ構造になっていて、だから見ごたえがあるのです)

そのドラマらしきものが、
4話には欠けている。
それが欠点です。

勿論、
「項羽の(項羽なりの)愛情」
「夜叉の確執」「紫白の過去」
「壬生の再敗北」「小次郎の暴走に麗羅が切れる」
などの小ドラマはあります。
しかしこれは「シーン単位」の小ドラマであり、
30分をかけて一本の話になるものではありません。
それがクライマックスで結実していくものでもありません。

もちろん、
それは序盤の役割=各キャラクターになじませていくことや、
「5話につづく」という構造、に関係しています。
しかし構造優先でしかなく、
単発のシーンだけで、紡いでいくべきドラマが欠けていると、
僕は考えています。

それはサブタイトルにも表れています。
「白い羽の男」とはどういうドラマのことか、
表現されていないのです。

それは全体構成を考えた、僕の落ち度でもあります。
つづくにすればいいんじゃないか、という安易に考えたのですから。

今なら、項羽の白い羽には意味がある、とつくれます。
「敵に向ければ刃、味方に向ければ盾」みたいな意味合いにすれば、
「白い羽の男」というタイトルにも意味を持たせられそうだなと。

とすれば、部活もそうなるものに変更すればいい。
攻守交替があるもの、たとえばアメフト、将棋、テニス、卓球などなど。
バトミントンにすれば白い羽(シャトル)と合わせられるから、
それがいいかもね。

今回の弓道部は、「白い羽」の「ビジュアル合わせ」でしかないのが、
シリーズ構成をした僕の責任です。
和風が早めにひとつ欲しかったというバランス感覚は分るんだけど。


市野さんも、これが全体にどういうドラマになるか分からない状態での作りだったから、
今なら僕と似たようなことを考えて、
弓道部でなくてもいいよね?と考えると思います。
その話のテーマは何か、
項羽のテーマは何か、
ということから再構成したでしょうね。



逆から見ましょう。
これはそういう意味で、
最も二次創作に近い話です。
日常をうまく描いている30分だと考えることは可能です。

僕は昔の意味のヤオイ(山無し落ち無し意味無し)にはあまり興味がないので、
4話は残念な出来だと考えます。
でもファンは(あるいは腐な方々は)、楽しかったのかもしれません。

「項羽の悪ふざけ」が、20年の時を経て実写化されたんだぜ?
白い羽が舞うのは、アニメより美しいんだぜ?
あといっぱい細かいネタがちりばめられていて、
二次創作ネタには事欠かないようになっているんだぜ?

ニーズに答えるのは商売ですが、
やりすぎは単なる媚です。
僕が媚びないだけかもですが。
(注 制作委員会は、「腐向け」と公式に宣言していました。
僕は風魔は腐のものではない、少年のものである、
という信念がありました。
その結果腐な方々が喰いつくのは自由だと。
媚びないほうが腐のみなさんも嬉しいよね?と考えます。
BLとはいかないまでも、もっとそっち方面に行く選択肢だってあり得た。
それはこの後に放映された「Rh+」で実験されたはず。
僕はターゲットでないので、出来はわかりません)



結局、白羽陣は美しくていいけど、
「この二人が何のために闘ってるんだっけ?」という、
実写化したときに一番気になることに、こたえきれてないんですよね。
僕は原作の大ファンでリアルタイムで見ていましたが、
今回改めてアニメ版を全部見た時に思ったことは、
「こいつら、何のために闘ってるんだろう」という退屈でした。
バトル物をそのまま30分やっても面白くない、ということに、
気づいてしまったのですな。
だからそれには、闘う為の理由というか、因縁というか、
ドラマが必要。
その「ドラマ」こそが、風魔がドラマたるゆえんであると、
僕は考えています。
それが、4話にはなかった。
脚本家の責任でしょう。
僕は脚本こそが、すべてをつくると考えています。
脚本にないことはないし、
脚本にあることだけがあるのだから。


ちなみに、項羽の悪ふざけは、
ブーブークッションとか、
ガムやるよ、と引っ張ったらぱちーんとなるやつとか、
その程度を僕は考えていました。
教室のドアの上に黒板消し挟むとかね。
昭和っぽいのがいいよね。
それは、
「純粋すぎる小次郎に、世の中には悪意があると項羽が教える」
という意味があるとドラマとして面白くなる、
と今なら考えられます。


(以下、実況的解説)

しかしからくり仕掛けとは、手の込み方がすげえなあ。
でもヒモ一本でしか表現してなくて、
音だけでからくり的なものを示す。勉強になります。

白羽の矢で魔矢さん再登場はいいね。
実は僕、脚フェチなのです。

素手で矢をつかむ白虎すげえ。
(車田だからいいのか?)

夜叉姫が外に出たのは、実はこれが最初で最後。
あとは全部あの部屋にいたからねえ。
(実は照明の故・井上さん、夜叉姫が好みだったらしく、
毎回美しくライティングしていたらしい)
あとあと思えば、9話をチェス部にすれば出場できたのにね。


夜叉の道場は、(僕の参加していない)脚本では「地下道場」という設定でした。
妖水がヨーヨーをぎりぎりで止めるというのもなく、
女の彫像(ミロのヴィーナスみたいなの)を壊して
「退屈だねえ」というシーン終わりになっていた記憶。
そんな予算が必要なのを、
うまく市野さんは現実に落としていて、
流石だなあと思った記憶があります。
(ちなみにここ、7話の柔道場と同じロケ地だよね?)

僕はハイスピード撮影(スローモーション)を多用するのが好きです。
メインキャメラではそれができないので、
ハイスピード用のカメラを用意して、Bキャメとして使っています。
市野さんは今回だけそれをためして、あとは使ってないみたいですね。
Bキャメを用意してまたAキャメに戻す、
現場のセッティング時間がもったいないと考えたかもしれません。


ひとつだけ気になるのが、
姫子の作って来た弁当、
「中身が入ってない」のが持ち方でバレてるんだよね。
姫子は経験者だからちゃんと水平に持ってるけど、
項羽はテキトーに持ってるから、
簡単に斜めになってしまっている。
黒澤なら「中身まで詰めておけ」と言うところですな。

原作ファンほど、項羽の死亡フラグが悲しいですね。
僕はファンだからにやりとするけど。
知らない人も見るわけだからなあ。

撮影的なハイライトは、
小次郎と壬生の再戦、マトリックス的なことをやったことでしょうか。
吊りは大変だなあ。
吊りで不安定になるのを、「逆に止める」ということでごまかすとは、
逆転の発想のすばらしさ。
(道場の壬生が女座りしているように見えて、
これも萌えポイントなのか?)

しかしまさか麗羅のびんたが今回の肝になるとは。
市野演出の真骨頂を見た感じです。
ただでは終わらせないというプロの意地を見ました。
勉強になります。
脚本がイマイチでも、こういうネタで勝負してその場を盛り上げることもできるという。

あとのポイントは、
「お前を笑わせに来たわけでもない」という男が、
紫のヅラで笑わせに来てることでしょうかね。(笑)
紫のヅラは夜ならなかなかカッコいいけど、昼間はキツイですなあ。
でもインパクトあったから、よかったね。



今思うと、ここで続かずに、
項羽が死んで、白虎がかたき討ちをするため潜入するところで、
つづくにしたほうが良かったと思います。
(でもプロデューサーが、白羽陣を僕に演出してほしかったみたい。
あと各話でのCG予算が決まってて、
白羽陣はやたら予算使うんだよね。
だから紫炎は次回に回したほうがクオリティがあがるという読みもある)
そうすれば、夜叉の絆みたいなこともサブテーマとして生きたかもなあ。
悪意みたいなことを中心に、今なら書き直すこともできそう。

CGの白い羽は美しかったです。
木刀で払ったら分裂するところ、大好き。

あと白羽陣は、地面にヒモひいたわけじゃないよ。
羽一枚の幅でつくればよかったのに、
数枚の幅で作ったからヒモ引いたみたいになっちゃったんだよねえ。
美術テストできないぎりぎりの現場はそうなりがちです……。
(僕が5話で、これ細くできないの?って聞いたんだけど、
もう4話撮っちゃったから繋がらないと言われてしまい)



おそらく市野さんも、小ネタ集だけじゃだめだと考えたはずです。
だからこそ次回登板の7話に全力を尽くし
(脚本に一か月近くかけて撮影を遅らせてみんなを困らせるリスクを冒し)、
神回の一本に数えられる柔道部のエピソードを作ったわけです。
5、6話を見てから、発奮したのかも知れません。

ドラマはマラソンであり、
二人監督のドラマは、
リレー小説あるいは火花散らすラリーのようでもあります。


さあ次回は贋作。
原作を知る人ほど、「贋作」のタイトルでニヤリとしたはず。
posted by おおおかとしひこ at 00:02| Comment(0) | 実写版「風魔の小次郎」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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