2017年10月31日

発想の転換の練習

今日後輩と話していて、なかなかの発想だったので例題。

ACのCM(15秒)。
交通遺児を不幸にしないための、奨学金制度。
遺児といっても子供じゃなくて、高校生くらい対象に。

当然だけど、不幸すぎてはいけない。
悲惨な交通事故を出してはダメ。
さあシンキングタイム。



僕が出した解答例。


壊れた部品同士、ハンドルとバンパーが語り合っている。
(たとえばブランコに乗って語る)
彼らは交通事故を起こした車の部品だ。

Aあの子今度大学にいくんだって。
B子供の成長ははやいもんだね。
Aお金大丈夫なのかなあ?
Bあのことさえなければ。凹むわ、バンパーだけに。

ナレーション:交通遺児の、奨学金制度があります。

ABえ?

タイトル:親がなくても、みんなが親になればいい。
交通遺児奨学金制度。



交通事故も出していない。
奨学金を受ける不幸な子も出していない。
それでいてビジュアルは面白く、記憶に残る。
ACの予算は100万円しかない。
1500万円かけるCMとはけた違いに予算がない。
それでも絵を安く出来ない。

こういうときは、逆転の発想が必要だ。


どうやったらこれを思い付くのか、
と後輩に質問されて答えたことは、
ここを読んでる人の役にたつかもと思い、
晒してみる。


逆転の発想に必要なものは、
「何と何を逆にするか」という発想だ。

以前公園のCMのときも、
公園を主人公にして、人を見てきた公園、
という逆転の発想を紹介したと思う。
ちょっとそれに似ている。


普通に交通遺児を主人公にしたら、
泣いた子供が笑顔になるために、
なんて糞みたいな偽善企画にしかならない。

親が幽霊で出てくる、という発想もしてみた。
しかし交通事故を出せないから、
ちょっと説明しないと分からないだろう。
交通事故の絵を出さずに交通事故を連想させることは難しい。

車主観。ありそうだけど、
そこからどうしてよいか分からなくなる。


ぼくのこの思考は、
「このストーリーの登場人物は何人いるか」
「主人公は誰か」
を考えている。

交通事故に遭って、死んだ親。生き残った子供。
相手の運転手。同乗者。
お金を出す組織。そのお金を出す人。
(とりあえず税金または募金とした)

これらの登場人物がこのストーリーを構成している。
無生物を探して、擬人化することも可能だろう。
車、相手の車。現場の信号機やカーブや高速道路。
あるいは大学や高校。

事故車を調達するのは予算がかかる。
ということで部品で事故車を象徴する。

ほどなく、事故車の部品同士が会話しているビジュアルは面白いぞ、
という発想に至るわけだ。

凹むわ、バンパーだけに。
なんてセリフはちょっと面白いかな。


あとはどこで話していると面白いかを考える。
場末のスナックで飲んだくれている。
スクラップ置き場。
あるいは現役でまだ走っている。
ほどなく、ブランコに乗って会話する、
という面白シュールを思い付く。
ブランコに乗せて揺れてる絵にアフレコすればいい。
予算もかなりいい。

出来上がったのが上に出したやつだ。



そのストーリーに関わる人は誰か?

事故の実況検分をした警察官、
事故の原因となった前の車に乗ってた人、
担当した医師、
あるいは奨学金を出す財団の人、
募金集めをする小学生たち、
引き取り手がなくて孤児院で育ったとして、
そこの園長さんや同期の友達。
彼女がいてもいい。
引き取りを断った親戚、近所のオバサン。
あるいは、入学後に知り合う友達やバイト仲間。

アットランダムに、頭のなかで必要な登場人物を出してみる。

そのなかで、一番グッと来る、
しかも一発で分かる、
象徴になる強いビジュアルを探してくればいい。

リアル交通遺児や、
リアル親を殺してしまった人を出せるのなら、
人が出ると面白いけれど、
たぶん無理だから嘘をつくことになる。
じゃあ交通遺児役という役者がやるわけだ。
それはあんまり面白くなさそうなので、
擬人化という古典手法に頼る。

で、一番面白い無生物は、
事故車だよねと。


大体ぼくの頭のなかはこういう回転をした。
東京大学物語的にいうと、ここまで3秒くらい。

正解にたどり着くためには、
多くの枝刈りをしていることが分かると思う。
勿論唯一の正解ではないけど。



そこにはどういう登場人物がいる?
どの視点から見ると面白い?
そういう発想を練習しよう。
posted by おおおかとしひこ at 23:04| Comment(0) | 脚本論 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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