たとえば今日、
黄葉した銀杏並木を走る、
白いマセラティを見た。
実に絵になる風景だ。
で、絵になるってどういうことか、という話。
僕は、色のことだと思う。
秋になると、
ただの並木道が黄金色に染まる。
東京都の木だから、
東京のそこら中は銀杏の並木道だ。
この時期からしばらく、
東京の並木道は絵になる光景で溢れる。
(ドラマのロケで有名なのは神宮外苑だね)
黄色く染まった光景に、
一点純白が走る。
これを僕は絵になると感じた。
ワンポイントが入ったわけだ。
配色は白でなくて赤でもよく、
黄色の補色、ブルーや水色でも良いだろう。
つまり、絵になるということは、
「雑多な状態がある一色に染まる
(ワンポイントやツートーンなども、
雑多がある色に染まることと同義)」
ことを言うのではないかと僕は思った。
夕日がドラマチックなのも、
低いところから光がさすからではなく、
風景が赤く染まるからではないかと思う。
晴れた青空と海が心地いいのは、
全てが青一色になるからだ。
(白い砂浜と白い雲もあればツートーン、
黄色い砂浜なら補色関係。
ちなみに人間の目は、緑-赤と、黄-青を補色と感じる、
二軸で色を把握している。
森の中の果実を見つけやすくするため、
砂浜と海を区別するため、という仮説がある)
勿論全てが染まらなくてもいい。
そこに普段ない色が、ある面積を染めればいいと思う。
普段の風景に血だまりがあれば、
それで異様な絵になるだろう。
さて、ここまでは絵の話だったが、
脚本でも同じだというのが本題だ。
ストーリーとは、現実にある雑多なものの模写ではない。
ある方向性や意思を持ったときにたち現れる。
ストーリーとは平常状態ではない、
異常事態のことであり、
それは世界に何か特別な文脈が生まれたことである。
つまり、絵と同じだ。
雑多な世界の一部や全部が、ある色に染まったときに絵になるのと同様、
雑多な世界の一部や全部が、
ある文脈や目的に染まったときに、
ストーリーが出現する。
映画は、その出現した文脈を象徴するために、
それを絵として表現するジャンルだ。
つまり、
「見慣れた光景のなかに、
特別な色が現れる」のが映画である。
これは文脈やニュアンスの意味の色と、
物理的な色との、二つを意味している。
六本木を赤いドレスの女が走っても映画ではない。
それは現実にありそうだからだ。
小学校の教室を赤いドレスの女が走るのが、
映画である。
(どんな文脈や目的かは、まだ考えていない)
あなたのストーリーは、
雑多な現実に、特別な文脈を放り込み、
特別な色で染めているか?
つまりそれは、ある種の整理(デフォルメ)をなす、
ということである。
そういう文脈がないのだとしたら、
そもそもそれはどういう絵にもならないだろう。
ちなみに、以下技術論。
僕はデジタル撮影の絵が好きではない。
カラコレが万能になりすぎて、
1カットの範囲内で色付けをきっちり完成させすぎてしまうからだ。
すべてにおいて色のコントロールが効きすぎていて、
カットで色が完結してしまっている。
たとえば、「IT」の現代版は、
「ホラーによくある色使い」一色に染まってしまっていて、
雑多な現実にキチガイピエロが混入した狂気は描けていない。
全部が同じ色になってしまっている。
90年代版のほうが、
明らかにピエロが怖い。
それは、ただの郊外の普通の光景に、
全然違う色が混ざった違和感があるからだ。
デジタル撮影とカラコレの組み合わせが、
雑多を排除し、全部を同じ一色に染めてしまう癖をつけてしまった。
先日「ムーンライト」を見たのだが、
この色使いが、
全てをコントロールしきった、
同じ一色に塗りつぶされた絵に見えてしまい、
世界の一部が特別な色を帯びる、
という映画の文脈が失われていると感じた。
デジタルの絵は、コントロールが効きすぎていると僕は思う。
全部が作り物に見えて、冷める。
全部が作り物のファンタジーに冷めるのと同じだ。
ファンタジーがよいのは、
この世界と同じ法則が働いているのを感じたりする瞬間だ。
ワントーンだろうがツートーン
(ペールアンドオレンジが一時期流行ったカラコレで、
一時のハリウッド映画は全部これだった)だろうが、
ワンポイント入れようが、
色をベタ塗りしてしまってはいけない。
どこかがまだ雑多な現実世界であることが、
僕はいい絵であり、
いいストーリーだと思う。
なぜなら、真の文学とは、
この雑多な現実世界との折り合いかたを決めることだと思うからだ。
ちなみに、「ムーンライト」の、
その詰まった絵が気にならなくなったのは、
ラスト、友人の家にいってからだった。
それはようやく世界が文脈による色を帯び始めた瞬間だった。
惜しむらくはこれが序盤に欲しかった。
絵を描こう。
脚本家は、世界を文脈の絵の具で塗る。
2017年11月26日
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